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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
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ジーク・ジュピ!

2026年(令和8年)11月30日午後7時【アルテミュア大陸中央部 『裏人類都市ウラニクス』郊外】


 幾つもの巨大低気圧が合体して渦巻く雲海の下、ウラニクス市を囲む外輪山の北側尾根で横向きに着陸し、全砲門を北へ向けて迎撃準備を整えるディアナ号。


 外輪山外側、ウラニクス市から見て外輪山の向こう側には、巨大煙突チムニーから200mに及ぶ長い身体を乗り出したチューブワームの長率いる木星原住生物が合流し、外輪山の麓に展開している。


「偵察ドローン『ツルハシ10375』号が巨大ワニ群探知っス!距離150Km、時速15Kmだから10時間後にウラニクス到達予定っス!」


 操舵室でマルス・アンドロイド・ドローンを操作する瑠奈が満に報告する。


「いよいよだね。木星の皆さんよろしくお願いします。此方からの情報は皆さんが使われているポケモンG◯木星版の携帯端末から伝えます。作戦は、琴乃羽からの指示に従って下さい」


 満が船長席から眼下の外輪山外側の麓に展開しているチューブワームの長を中心に勢揃いしていた木星原住生物達に呼び掛ける。


『ヨクワカラナイガ、マカセルノダ!』『ドロブネニノッタキデアンシンスルガイイ』


 一抹の不安を感じさせる反応だが、士気旺盛な様子でハサミや触手を振り回して満の言葉に応える水素カニ、水素クラゲ。


「琴乃羽さんは彼らの『マスター』でしたっけ?彼らとの連絡役お願いしますね……」


『……え?ええ。まあ、彼奴らのご主人様(マスター)は私よ!だからタイタニックに乗ったように豪華な気持ちで安心して良いですよっ!』


 盛り上がる木星原住生物とは裏腹に、ちょっと腰の引けた様子ながらも強がって胸を張る琴乃羽美鶴だった。


「タイタニックと例えるところで既にデンジャラスな気が……」


 レーダーオペレーター席で巨大ワニ群の動向を監視しながら、巨大氷山が水面下に潜むかのような未来に一抹の不安を隠せない岬渚沙だった。


『ムッシュ大月。マルス通信システムから入電。ジャンヌ首相ですよ』


 先ほどチューブワームと共に合流を果たたアッテンボロー博士が満に呼び掛ける。


「ジャンヌ首相が?」


 何か有ったのかな?と首を傾げる満。


『ムッシュ大月!?聴こえているわね?今そちらへ仲間と向かっているところよ。

 ――――――後、1時間で着くわ。そっちに戦闘機が着陸出来るスペース空けといてね!以上!』


 用件だけ伝えると、慌ただしく通信を終えるジャンヌ首相。


「あ。偵察ドローン『ツルハシ4486号』が地球の戦闘機を探知したわ。12機が西から接近中。ウラニクス郊外のターミナルに誘導するわ」


 美衣子が満に報告する。


「ジャンヌ首相達は通信状態が悪そうだけど、誘導出来るかな?」


「それは大丈夫。此方からマルス・アカデミー謹製専用アプリを送ってインストールしておくから」


 満の心配に対し、事も無げに応える美衣子。


「軍事機密の塊の戦闘機に此方から一方的なアプリ送付なんて出来るのですか!?」

半信半疑なアッテンボロー博士。


「彼女とは横浜脱出時にヨーロッパ救出作戦の貸しをチャラにした筈なんどけど……腐れ縁が出来てしまったわ。全く忌々しい……」


 悪態をつきながら言い放ったものの、そわそわと左右に揺れる美衣子の尻尾を見る限り、好意的に捉えて良さそうだと満は思うのだった。


「岬さん。ウラニクス市の劉市長に、ターミナルの緊急使用と戦闘機への補給要請よろしくお願いします」


 岬がジャンヌ首相率いる戦闘機部隊の受け入れ要請を岬に指示する。


「りょーかい。それで、社長。巨大ワニ群とはどうやって戦うか決めたのですか?」


 満の指示に了解しながら、これからの作戦について質問する岬。


「決めましたよ。……木星原住生物の皆さんに足止めをしているところをディアナ号とジャンヌ首相率いるユーロピア空軍戦闘機部隊のピンポイント攻撃で急所を仕留めます」


 操舵室中央にウラニクス周辺地図と巨大ワニ群、ディアナ号・木星原住生物の位置をホログラフィック投影すると、手で指し示す。


「空に浮かぶ程の反重力操作が可能な木星の皆さんなら、巨大ワニの突進を反重力操作の応用で押し留める事が出来ると思います」


 ディアナ号の隣に浮かぶ水素クジラや水素クラゲ、チューブワームの長を横目で見ながら説明する満。


「……ふむ。穴だらけで素人考えの様な気がしないでもありませんが、地球人類の常識を越えた存在を相手に未知の存在が持つ能力を使う訳ですから、その作戦を無闇に脚下するのはナンセンスですね」


 肩を竦めながら、自分自身に言い聞かせる様に呟くアッテンボロー博士。


「木星の皆さんに上手く指示して動いて頂くかどうかは、琴乃羽さん次第ですね」


 木星原住生物群に向き合い、一匹の水素クラゲの傘によじ登って仁王立ちになると、何事かを訓示し始める琴乃羽を横目でちらりと見る満。


「立てよジュピタリアン!一糸乱れぬ隊列を組んで、勝利へ向かって進もうではないか!前へ!……ジーク、ジュピ!」


『ジーク、ジュピ!ジーク、ジュピ!』『ジーク、ジュピ!ジーク、ジュピ!』


 拳を振り上げながら、何処かの公国総帥の様なアジ演説を熱くぶち上げる琴乃羽に乗せられ、ハサミや触手を振り回し熱狂していく木星原住生物達。


「……ええ~。何だかなぁ」


 激しい違和感にドン引きする満。因みに満の隣に居たひかりにアッテンボロー博士が「(火星)世界中に生中継しているのですか!?」とノリ良く質問していたりする。


その時、突然何故か高い位置に有ったオペレーター席に移動していた美衣子が声を上げる。


「何を言うか!……木星でGOを理由にディアナ号のお仕事をサボったお調子者が、何を言うか!」


 まるでどこかのブ◯イト中尉の様に反論を試みる美衣子が、軌道戦士バンダムの再現シーンを褒めて欲しいのか、満とひかりにチラチラと視線を送る。


「……うん。良くできました。これ以上は琴乃羽さんに合わせなくて良いからね?」


 ご褒美に美衣子の頭を優しく撫でながら、とりあえず宥めておく満だった。


「まあ、どの様な方法であれ、士気が高いのは良い事だとポジティブにとらえるしかないよね……」


バンダムネタに盛り上がる操舵室と、眼下の荒野に展開している木星原住生物達を見ながら、自分に言い聞かせる満だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・琴乃羽 美鶴=言語学研究博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事サブカルチャー部門担当者。少し腐っているかも知れない。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る行動派。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・サー・ロンバルト・アッテンボロー=生物学者。ユーロピア共和国学術庁火星生物対策班長。

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