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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
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果たすべきこと

2026年(令和8年)11月29日【太陽系第5惑星衛星軌道上 第3衛星『イオ』近辺 マルス・アカデミープレアデス級基幹母艦『ケラエノⅠ』】


「作業船団B班配置に着きました。宇宙塵収集装置スタンバイ」「C班はB班の後方4000kmに展開。B班が捉え損ねた衛星『イオ』からの噴煙を完全に収集せよ」


 広大な神殿のような造りをした基幹母艦のブリッジに配置されたオペレーター達が次々と作業指示や状況の報告を行っていた。


「結局のところ、噴煙を収集する事で被害を抑える方向が現実的ってことね……ガリレオ級衛星がもたらす潮汐効果エネルギーは流石にこの先遣隊規模ではムリ……ですね」


 広大な宇宙空間に浮かぶ作業船団を見渡して呟くリア隊長。


 そもそも衛星『イオ』内部で発生するエネルギーを回収するには、衛星地殻にまで巨大な導線を到達させるか、吸収用人工衛星を『イオ』の衛星位置に配置するしかない。

 いずれもマルス・アカデミーの技術力で対処は可能だが、先遣隊が持つ能力では物量面で力不足なのだ。


「……せめて次善の策くらいはキチンと遂行しないと。地球人類の為に果たすべきマルス・アカデミーの役割をね」


 指定された配置場所へ急ぐオウムアムル級探査船の群れを見ながら呟くリア隊長だった。



 禍々しくとぐろを巻いた、複雑なマーブル柄が一面に広がる木星を背景に、全長20Kmを超えるマルス・アカデミー基幹母艦が、第3衛星『イオ』近辺に進出して電磁シールドの展開を使って噴煙収集作業を開始する。


 基幹母艦周囲にも幾つかの作業船団が、衛星『イオ』全周を覆う様に展開しているが、傍から見れば広大な海原に点在する軽装な釣り船を想起してしまうかも知れない。


実際にはこの作業船団の一隻一隻は、全長5Kmを超える角の取れた長方形をした、マルス・アカデミー・オウムアムル級外宇宙探査船である。


 各探査船は、船首に取りつけられた亀の手の様なマストを起動展開し、木星近隣宇宙空間を飛び交う豊穣な磁力線を収集した後、一定周波数に変換した電磁シールドを構成、衛星『イオ』から噴出する莫大な量の二酸化硫黄を主成分とする噴煙を漏らさず収集しようとしていた。


          ♰          ♰          ♰


―――――――――同時刻【火星から4000Km離れた宇宙空間】


「総理。東京から緊急電です……」


 マルス・アカデミー大型シャトルを運航する機長から電文を受け取った政務官が、顔を青ざめさせて我妻総理大臣に電文を渡す。


「……ん?君、私は日本国総理大臣として、善良な地球市民たる日本人民が果たすべき使命について考察中なのだ。邪魔しないでくれたまえ」


 尊大な口調と胡乱気な視線で政務官を睨む我妻。


 我妻の座席の周囲には、2か月半後に地球極東の人工日本列島『タカマガハラ』で行われる日本・イスラエル連邦首脳会議後に行われる予定の演説原稿や、二国間同盟の文案、日本国内の資産を全て地球復興へ振り向けた場合に期待される将来的な経済効果に関する立憲地球党での研究結果等資料が散乱していた。


 3か月にも及ぶ予定の旅路で暇を持て余した我妻は、自らが信じる社会主義的概念に基づく地球市民社会の実現を、日本国の資産を浪費してでも実現させる野心に目覚め、代々木の立憲地球党本部を通じて各種資料と社会主義的政策案の提出を霞が関の官僚に要求していた。


「しかし総理。東京からの緊急電によると木星で異常現象が発生、その影響が火星全域に影響を及ぼしているとの事です。

 ……通信インフラが大きなダメージを受け、無線送電システムに頼っていた東京・名古屋・大阪の三大都市圏がブラックアウトになりかねないとの事です」


 冷や汗を拭いつつ、懸命に答える政務官。


「たかが停電だろう?火星にはマルス・アカデミーとやらの異星人施設が沢山あるだろう?そこからエネルギーを融通して貰えばいいだけの話だ。後白河君が対応している筈だ」


 政務官の説明に「大袈裟な」と言わんばかりの口調で応える我妻。


「……かしこまりました。東京の後白河副総理に対応を一任する旨を伝えて参ります」


 踵を返して操縦室へ向かう政務官。


 火星上空の通信網が機能不全に陥り混乱を極めていた時期に行われた我妻と立憲地球党の要求は霞が関官僚達の怒りを買っていたが、「これが政治主導だ!」と立憲地球党による大手マスコミを利用したプロパガンダに操作された世論の逆風には逆らえず、気力と体力、冷静な判断力を無駄に浪費しながら我妻の要求に応えていく霞が関の官僚達だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――我妻総理大臣の指示から1時間後【東京都千代田区永田町 首相官邸】


「我妻さんは私に任せたと言っていたのですね?」


 モニター先の政務官に確認する後白河政徳 副総理兼外務大臣。


『はい。総理は、懸念されるブラックアウトはマルス・アカデミーからエネルギー供給支援を要請すればいいだけだとおっしゃっています』

応える政務官。


「総理は、我々新政権が政権交代後にマルス・アカデミーを冷遇していた事をご存知ないのでしょうか?」

苛立ちを込める後白河。


『とにかく、後白河副総理に対応を一任するとの事でしたので……』

冷や汗を拭う政務官。


「わかりました。総理には引き続き日本外交の輝かしい未来をお任せします、とでもお伝えください」


 政務官へ皮肉気に伝えると、返答も待たずにモニターを切る後白河。


「この期に及んでマルス・アカデミーに支援は頼めない。ましてマルス・アカデミーは我が国と対立するユーロピア共和国、英国連邦極東を始めとするMCDA側についている……となると『アマノハゴロモ』あれを使ってみるか」


 ぼそりと呟いた後白河は、無線送電衛星『アマノハゴロモ』システムを管轄する経済産業大臣を官邸に呼び出すのだった。


「……我妻さんだけ外交面で得点を稼いでもらっては困るのです。私は私で、副総理として果たすべき役割をきっちりと果たしてみせましょう。

 ……次の総理への道のりを最短距離で通り抜ける為にも、巨大ワニは一網打尽にするしかないでしょうね」


 経済は素人同然の経済産業大臣がおっとり刀で代々木の立憲地球党本部から首相官邸に駆け付けるまでの間、後白河は巨大ワニ対処に思考を巡らせるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・リア=マルス人。マルス・アカデミー太陽系第5惑星再生支援船団隊長。


・我妻=日本国内閣総理大臣。立憲地球党党党首。政権交代により総理大臣に就任した。

・後白河政徳=日本国内閣副総理兼外務大臣。元自由維新党。

・趙=裏人類都市『ウラニクス』警備隊長。

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