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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
275/462

木星版ポ〇モンGO

挿絵(By みてみん)


2020.11.28執筆にあたり、多大な貢献を果たされたM様に感謝いたします。

2026年(令和8年)11月26日午前7時30分【太陽系第5惑星『木星』 大赤斑直上3700kmの静止軌道 外宇宙探査船『おとひめ』ブリッジ】


 JAXA理事長の天草治郎は、火星アルテミュア大陸中央部で行方不明となった琴乃羽美鶴の捜索をしている岬渚紗からの緊急問い合わせに対応していた。


「確かに、離れた宇宙を最短距離で結ぶ事象をワームホール理論で説明が出来る事はありますね。重力波と磁力線の揺らぎがワームホールによるものだと説明することは可能でしょう。……ですが必ず発生するとは限りませんよ?」


 制御卓を操作して木星リアルタイム映像と観測データーをホログラム投影する天草。天草の隣には、かつてミツル商事時代の同僚であるイワフネ船長代理が腕を組んで立ち、マルス・アカデミー先遣隊とのデータリンクをじっと見つめていた。


「ワームホールはブラックホールが持つ一つの性質ですから、周辺宙域への影響は凄まじいものがあるでしょう。……おそらく地上でブラックホールが発生したとなれば、惑星規模での大変動は必至でしょう……ですが、今現在火星は健在です」

 

 天草の隣でデータを分析するイワフネ船長代理も会話に加わる。


「木星と火星間でブラックホールが発生する場合の想定理論は誰も考えていません。このワームホール理論は、地球人類が知る宇宙科学技術では実証されていませんから」


 岬の質問に答える天草理事長。


『……そうですね。火星各地で起きた異常現象と不自然なデブリ群の飛来、そちらの木星大気圏の異常は関連があるような気がしてならないのですが……』


 天草の答えを認めつつも、気掛かりな様子の岬。


「物理的な距離故に火星は木星の影響を地球以上に受けているのは確かです。

 我々地球人類が観測していなかった事象も多々あるでしょう。此方も琴乃羽さんの探査機が出す信号をキャッチしたら直ぐにお知らせします」

岬に応える天草。


『……』


 不承不承と言った感じで首を傾げながら通信を終える岬渚紗。イワフネ船長代理はマルス・アカデミー先遣隊からの通信が入り、船長席へ戻っていく。


「……ダグリウスらしきエネルギー体が大赤斑最深部に突入したのが5か月前。

 ……関連があるって言えばあるのかもしれないな」


 通信を終えた天草は、制御卓に備え付けられた椅子に深く腰かけて体を伸ばすと、ドーム状の高い天井を見上げながら呟くのだった。


          ♰          ♰          ♰


2026年(令和8年)11月26日午前10時30分【太陽系第5惑星『木星』 大赤斑直上3700kmの静止衛星軌道】


 全長2キロに達するマルス・アカデミー製 プレアデス型外宇宙探査船『おとひめ』下部格納庫からデルタ翼が特徴的な一機の探査艇が水素エンジンを噴射させて発進していく。

挿絵(By みてみん)

JAXAで開発されていた日本版スペースシャトルを木星探査挺に改装した機体は、両側面や上下の小さなノズルから炭素ガスを細めに噴射して方向転換をすると、機首を巨大な禍々しい木星中緯度に位置する赤色の目玉へ向ける。


「こちら探査艇『うらしま』木星降下準備完了。これより大赤斑表層部へ向け下降します」


 操縦席で名取優美子が母艦に告る。


『了解。大赤斑と周辺気流の相対風速はマルス・アカデミー先遣隊の予測と同じ秒速400メートルだ。二人とも、探査機の操縦に慣れているからと言って無茶はしないように。事前予測と異なる事に出くわしたら直ぐに連絡すること』


 母艦『おとひめ』から天草治郎があらためて優美子と華子に注意を促す。


「了解ですわ。あわてず、ゆっくりと慎重ーに観測してきますわ」


 おっとりと応える華子。


 降下途中、水素大気圏で待機していた出迎えの水素クジラと合流して大赤斑最深部へと降下していく探査艇『うらしま』だった。


          ♰          ♰          ♰


【『木星』 大赤斑直上3700kmの静止軌道 外宇宙探査船『おとひめ』】


「探査艇『うらしま』予定通りの降下コースに入りました。12時間後には大赤斑表層部に到達の見込みです」

マルス・アンドロイドが報告する。


 予定通りのスタートだと聞いても、華子の父親である天草治郎は心配なのか、無言で広大な艦橋の端から端までを足早に歩いて行ったり来たりしていた。


「探査艇は我々も万全の態勢でフォローしています。それでもご令嬢が心配ですか?」


 船長席に座るイワフネが苦笑して声を掛ける。


「ええっ!?いやぁ、まあ、それなりに。あの子には心理的な負担をかけたくないのです」


 声を掛けられて驚いたものの、直ぐに真顔で答える天草。


「ご心配するのは無理もありませんが、まだ探査艇は大赤斑表層に到達さえしていないのです。今からそのご様子では、調査開始まで身体が持ちませんよ?」


 天草に理解を示しつつも、宥めるイワフネ船長。


「そうだ!気分転換にマルス・アカデミーの先遣隊まで視察に行かれてはいかがでしょう?確か6時間後に基幹母艦で『【木星版】ポ〇モンGO』の試行体験プレイが始まるらしいですよ?」


 マルス・アカデミー木星再生作業先遣隊のリア隊長から招待されていたのを思い出して天草に勧めるイワフネ。


「『【木星版】ポ〇モンGO』ですって!?何ですかそれは?」

 

 火星日本列島から遠く離れた隔絶空間でお馴染みのゲーム名を聞いて、思わず素っ頓狂な声を出してしまう天草。


「何でも、長期の調査研究と学術調査に明け暮れたマルス人向けに日本のゲーム制作会社が開発した様ですね。……発起人は勿論ゼイエスですが」


 ―――ゼイエス博士曰く


「太陽系崩壊の危機を救う木星再生作業の合間に、90を超える衛星と、太陽系最大の惑星に生息する生物の分類など、ゲームの息抜き無しにやってられるものか!」


 探査船『おとひめ』が木星に到着して間もない頃、マルス基幹母艦で開催されたから揚げパーティーに参加していた日本国政府文科省宇宙科学局長に要求したゼイエスと、から揚げに舌鼓を打ちながら同調するリア隊長を思い出して思わず苦笑するイワフネ。


 「本当の意味の宇宙外交」を経験してこなかった霞が関の文科省局長は、人生で初めて遭遇した異星人からの言葉を真に受けて顔面蒼白となり、から揚げパーティー後、全速力でシャトルに飛び乗って火星日本列島に戻るなり首相官邸に駆け込んで当時の澁澤総理大臣に「木星で使用出来るゲーム開発について」直談判している。


 澁澤総理は直ぐに岩崎官房長官を通じて総合商社角紅の仁志野社長にマルス・アカデミーの意向を伝え、仁志野社長は翌日には大手ゲーム制作会社『仁天堂』と直接交渉に入り、ゲームシステム特許取得と関連会社を買収して子会社化した上で、木星をテーマにしたゲームアプリ製作に取り組んでいる。


 そのゲームは仁天堂が製作した大人気ゲーム『ポ〇モンGO』の木星バージョンであり、94個ある衛星と木星で確認された各種微生物や異種生命体を「モンスター」として登録して集めるゲームである。


 各衛星と木星各地の位置情報はマルス・アカデミー先遣隊が調査済の最新科学データーを利用しており、その地に住まう微生物や水素クラゲや水素カニ等の異種生命体が発見されると登録される仕組みである。


 このゲームアプリの試行プレイが間もなく始まるとマルス・アカデミー木星再生作業先遣隊で発表された際には、全ての先遣隊隊員が歓喜の声を上げたものである。


 こうして間もなく、木星衛星『イオ』付近に移動したマルス基幹母艦で収集した木星原住生物のお披露目と試行プレイが開催される運びとなったのである。


「なんだか面白そうですね。行ってみようかな」


 イワフネに勧められた天草治郎は参加を決めるのだった。


 自室に戻って試行プレイ前に休息していた天草に、火星アルテミュア大陸中央に居る岬から二度目となる緊急の問い合わせが入ったのは『ポ〇モンGO』の取扱説明書と「モンスター図鑑」を読んでいる時だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――【大赤斑表層部から750km上空の木星大気圏】


 地球の数百倍は厚みの有る水素とアンモニアの雲海をゆっくりと下降しながら、大赤斑の表層中心部に向けて降下角度を微調整する操縦席の名取優美子。

 忙しなく計器を操作していた優美子が、不意に手を停めて外部モニターの1つを凝視する。


「んん?華子、なにやら地上で現住生物が激しく動き回っているようだけど?」


 名取優美子が声を上げて隣の天草華子にモニターを指差す。


「え?どこどこ?あ、あそこね。最深部コロニーに住んでいる皆さんが何やらバタバタしていますわね。……何かを追いかけているのかしら?」


隣に座る天草華子もモニターを視て応える。


『……アレハ!レア・ポ〇モン!』


 伴送していた水素クジラが驚きと歓喜の叫び声を挙げて体長500mの巨体を震わせると、ドッバーン!と盛大に濃硫酸の潮を噴き上げる。濃硫酸に反応した水素とアンモニアの雲海にバシッと幾筋もの紫電が駆け抜ける。

挿絵(By みてみん)

「うおっ!?あぶなっ!」「きゃわっ!」


 至近距離で濃硫酸の潮を噴き上げられ、紫電が機体を掠めたが、探査艇は自動的に緊急回避行動をとったお陰で辛うじて機体に酸が付着する状況は免れたが肝を冷やす華子と優美子。


「おいコラ、水素クジラ!こっちまで焦げちゃうから気を付けてよ!」「感電してしまいますわ」


 思わず抗議する優美子と華子。


『ノォォ!?スマン、スマン。ツイ、コウフンシテシマッタ』

挿絵(By みてみん)

 少女二人に叱責され、巨体を縮めるように恐縮する水素クジラ。


「……で?こんな場所で何がレア・ポ〇モンですの?」


 水素クジラの言葉に首を傾げて呟く華子。


 探査艇はさらに降下を続けるのだった。


「待って優美子。マルス・アカデミーの識別信号を探査機が受信していますわ」


 操縦席のコンソールを指さす華子。


「はぁっ!?こんなところに私達以外の信号を出す存在だって!?まさか、地球から逃げてきたシャドウ帝国の残党かもっ!?」


 慌てて『おとひめ』に緊急連絡を送る優美子。


「一体、何が起きているのかしら?」


 声高に母艦へ異常を報告する優美子の隣で首を傾げる華子だった。

ここまで読ん頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。シャドウ帝国との仮想世界大戦で心的外傷を受けて木星へは療養目的で探査隊に同行している。

 父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。シャドウ帝国との仮想世界大戦で心的外傷を受けて木星へは療養目的で探査隊に同行している。

 父親はJAXA理事長の天草士郎。大月夫妻の結婚披露宴でビンゴ当選によりマルス・アカデミーシャトル『おとひめ』を取得、艦長となっている。実務は艦長代理のイワフネが担っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・天草 治郎=JAXA理事長。シャドウ帝国との仮想世界大戦で心的外傷を負った娘の華子の療養に付き添う為、木星探査隊に参加している。


・イワフネ=マルス人。ミツル商事にサラリーマン研究の為派遣されていたが、仮想世界大戦後、天草華子、名取優美子の心的外傷療養を見守る為、外宇宙探査船『おとひめ』船長代理として木星探査隊に同行している。


・ゼイエス=マルス・アカデミープレアデスコロニーケラエノ研究所所長。600万歳。地球に生命をもたらした第三惑星創星プロジェクト責任者。学者気質且つ、冒険的性格で、取り敢えず突っ込んでみる性分。火星日本列島滞在期間中に鉄道フアンとなる。大月美衣子の前のマスター。


挿絵(By みてみん)

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