湖底の洞窟
2026年(令和8年)11月26日早朝【裏人類都市ウラニクス 郊外のカルデラ湖】
『……目が覚める様な明るくて綺麗な水色が、ここまで深くなると流石に漆黒の宇宙空間と大差ないですね』
アダムスキー型探査機の出窓に顔をくっつける様にして外に拡がる生命の居ない水中を食い入る様に眺める琴乃羽美鶴。
「……現在水深1,350m。湖底まで間もなくです。あと5秒でエネルギー供給システムをパージします」
アダムスキー連絡艇の通信席で注意深くモニターに表示された情報を読み上げるアッテンボロー博士。
『美衣子ちゃんが言ったとおり、放射能度が高いですね。地上の150倍、日本国内の環境影響評価における基準値の10万倍……』
アッテンボローの報告に頷きながら、自らも手元の制御卓を操作してマニュピュレーターで採取した湖水を分析して絶句する琴乃羽美鶴。
「マドモワゼル琴乃羽。方位03、距離50mの湖底に対象の洞窟が在ります」
『分かったわ。連絡艇本体から切り離します。操縦系をアッテンボロー博士に移します』
全長15mに及ぶ典型的な皿型UFOとして有名なアダムスキー型連絡艇の機体側面からせり出していた直径3m程のアダムスキー型そっくりの形をした探査機が切り離されると、ゆっくり湖底へ降下していく。
『……こちら琴乃羽。湖底に到達。洞窟へ向かいます』
湖底すれすれにまで降下した探査機が、方向を変えてゆっくりと洞窟へ近づく。
『ここね。洞窟入口に到着。入り口は3m少し超えるぐらいかしら。この探査機でもギリギリね……』
「問題有りません。最悪、機体が壊れてもマドモアゼル琴乃羽はちゃんと回収しますから、貴方はアメーバ形態でほんの十数分持ちこたえてください。さあ、ちゃっちゃと入りましょう!」
『……何気に博士は結構残酷な事言うのよね』
「残酷ですって?とんでもない。私程男女平等にこだわっている者は共和国広しといえど、私ぐらいでしょうね」
『博士もアメーバ形態になります?体質面でも私と平等になりましょうよ?』
「……謹んでお断りさせていただきます」
琴乃羽とアッテンボロー博士の二人が他愛もない話をする中、探査機は洞窟の中へ進入していく。
『洞窟内の放射能濃度、地上の50万倍を突破。更に上昇中カウンターが振り切れそう……』
「この数値は……まるで宇宙空間における被ばく量に等しいですぞ!」
次々と検出する異常データーに、緊張を高めていく二人。
『んん?水流を検知。進行方向……奥へ向かっている!?』
洞窟内の水流に引き込まれて徐々に加速しながら洞窟を進む探査機。
「マドモアゼル琴乃羽!洞窟内部に火星重力とは異なる重力反応を検出しました!何か視えませんか?」
『探査機は加速中。30ノットで洞窟奥へ吸いこまれ――――――これは――――――光!?』
「マドモアゼル!光が何ですって!?」
ノイズ交じりの琴乃羽に聞き返すアッテンボロー。
『洞窟内部で発光現象を確認。光が眩しいわ。
探査機は45ノットを超え更に加速中。……発光源へ吸い寄せられている?――――――違うっ―――れは、吸い寄せられているんじゃあない――――――落下している!』
応答する琴乃羽の通信はノイズが激しく混ざって聴き取りにくくなっている。
「落ちるとはどういう事ですか?光の正体は何です?マドモアゼル!?」
『―――ここはっ!?私が落ちたのは―――』
ガリッとひと際大きいノイズと共に、琴乃羽からの通信が途絶える。
「水中レーダーの反応も消失!?」
レシーバーに手を当てたまま、呆然とするアッテンボロー博士だった。




