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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
269/462

オムレツと苺ムース【前編】

2026年(令和8年)11月25日午前10時10分【神奈川県横浜市 神奈川区 瑞穂埠頭ノース・ピア


 観光都市の一面を持つ横浜市中心部東側、東京湾に面したベイサイドは「横浜港」と呼ばれており、大黒ふ頭に停泊する豪華客船『飛鳥』や、みなとみらい地区、赤レンガ倉庫や山下公園、近隣の横浜中華街は常日頃から大勢の観光客で溢れている。


 そうした観光スポットは主に横浜駅東側から港の南部地区にかけてであり、大型倉庫や物流センターが建ち並ぶ北部地区は中央卸売市場目当ての観光客ぐらいで、散策目的の人は少ない。


 横浜港北部地区は在日米軍関係者からは”ノース・ピア”とも呼ばれ、日本列島火星転移前から在日米軍が西太平洋地域における重要補給拠点として使用しており、在日ユニオンシティ防衛軍に移管された現在も、軍事施設にあたるため許可証を持った者以外は立ち入り禁止となっている。


 その北部地区の港から、レゴブロックの様なコンテナを幾重にもうず高く積み上げた巨大なコンテナ船が出港しようとしていた。


「MCDA(マクダ=火星経済・防衛協定)締結後初の3か国共同運航便ですか。壮観ですね」


 台湾自治区が発行した許可証を胸に付けた自由維新党総裁の岩崎正宗が、巨大コンテナ船を見上げて感嘆の声を上げた。


「台湾自治区が日本各地の華僑を総動員して物流網の再構築をしている様です。

 我妻政権が大月家の身柄引き渡しを迫る目的でユーロピア共和国や英国連邦極東に経済制裁をかける動きに先んじて、既成事実を積み上げる狙いがあるようです」


 岩崎の隣に立つ、自由維新党青年部長の春日洋一参議院議員が応えた。


「詳しいですね。王代表ルートの情報ですか?」

「はい。さらにユーロピア共和国ジャンヌ首相筋からのオフレコも仕入れました。まあ、ジャンヌ首相筋は東山さんから引き継いだのですけどね」


 岩崎の問いに、素早く応える春日の顔は若干苦笑気味である。


 月面ユニオンシティ行政府にしぶしぶ転勤していった東山龍太郎から「ブロンドのスーパー美人をお前に託す」と真面目に言われ、中華街の台湾自治区で初顔合わせの際、実はユーロピア共和国ジャンヌ首相の実姉であるクロエ・シモン首相補佐官だと台湾自治区の王代表から明かされている。


 台湾自治区庁舎1階に在る広東料理店で、春日は紹興酒やドンペリ等高級酒をクロエに奮発して情報収集を試みたものの、クールビューティーな彼女クロエが酔い潰れる事は無く、逆に春日がお酌の倍返しとお色気攻撃でへべれけとなり、自由維新党の内部情報をさんざん訊き出され、翌朝二日酔いに悩まされてトイレで便器を抱えて悶絶しながら「俺のときめきを返せ!」と心の中で叫んだのは苦い思い出となっている。


「人脈を生かすのも政治家の務めですし、時にはドンペリをご馳走する様に相手へ花を持たせる事も大事です。

 党の情報を引き出されたとは言え、もはや野党となった我が党に碌な情報は有りません。今回は勉強になったという事で、今後の手腕に大いに期待したいところです」


 自嘲気味にフフッと笑いを零す岩崎。


「それで、MCDAによる物流再構築の見込みは?」


 笑みを消し去って春日に尋ねる岩崎。


「少々強引になりますが、英国連邦極東軍とユーロピア共和国空軍の輸送部隊をフル活用、台湾自治区所属華僑の経済力で大手運送会社保有のトラックを運転手ごと3か月先までチャーターすることで国内物流の7割方を掌握する予定です。

 勿論、民間への影響は最低限に留めます」


 春日がタブレット端末を操作して岩崎に提示する。


「まあ、その辺でいいでしょうね。完全に仕切ってしまうと公正取引委員会や立憲地球党お抱えのリベラル系マスコミに嗅ぎつけられます。

 今は、政府が独自に手配出来る流通手段を先に潰しておく事が肝要です」


 春日の手配に満足げに頷く岩崎。


「アルテミュア大陸に進出したユーロピア共和国の防衛態勢を物流で支える準備は整いました。

 ……後は、一刻も早く巨大ワニの生息場所を見つけ出して叩くのみですが、果たして……」


「大月さん達ならきっとやってくれますよ。大丈夫です。たぶん……」


「あら、ムッシュ大月の友人達は大層心配性ですね?」


 背後から声がしたので岩崎と春日が振り返ると、ユーロピア共和国首相補佐官のクロエ・シモンが台湾自治区治安部隊や英国連邦極東軍の将官と共に近づいて来る。


 彼女達は、MCDA締結後初の三か国共同事業として内外マスコミにアピールする為、チャーター船の見送りに来ていたのである。


「……大月さん達は、不肖の妹ジャンヌと同じく意外とマイペースですから、今頃のんびり巨大ワニを探しながらオムレツとか苺ムースに舌鼓を打っているかも知れませんよ?」


 片目を瞑ってウィンクを決めて見せるクロエ首相補佐官。


「……あり得ますな」「……そうでした」


 クロエの指摘に岩崎と苦い顔をした春日が頷く中、タグボートの助けを借りて岸壁を離れた巨大コンテナ船は、舳先を港外へ向けてゆっくりと出航していく。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・岩崎 正宗=自由維新党党首。元内閣官房長官。

・春日 洋一=自由維新党参議院議員。元ミツル商事社員。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・クロエ・シモン=ユーロピア共和国首相補佐官。酒豪。妹のジャンヌ・シモンはユーロピア共和国首相。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です

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