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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
266/462

オアシス【後編】

2026年(令和8年)11月25日午後4時30分【火星アルテミュア大陸中央部 ウラニウス山カルデラ盆地 ターミナル】


「……どうやって乗り込むのだろうか」


 着陸したディアナ号の船首部分に近づいた劉市長は、船上から「「早くくるっス!」」と叫びながら手招きする琴乃羽と瑠奈を見上げて腕を組むと、途方に暮れていた。


 やがて、腕を組んで上を向いまま動かない劉の姿を見た琴乃羽と瑠奈は何かに気が付くと劉に向けて縄梯子を下して合図をする。


「これで登って来いと?」


 頼り無い程細い縄梯子を半信半疑で手に掴んで足を掛けた瞬間、劉の意識がフッと遠のく。


 次の瞬間、劉は格納庫と思われる場所に立っていた。

 目の前には、先程船上から手招きをしていた琴乃羽美鶴と瑠奈が立っていた。琴乃羽は、濃緑色の作業服を着ており、瑠奈はいつも着ている緑色のワンピースだった。


「ようこそ!ディアナ号へ!」


 満面の笑みで出迎える二人。彼女達の背後には、若いころに読んだオカルト雑誌に載っていた典型的なアダムスキー型UFOや、巨大なたらい、ボートが並べられている。


「……初めまして。市長の劉です。そちらの船長にお会いしたいのだが?」


 背後に見える未知の乗り物を根性で無視して軽く会釈すると、用件を伝える劉。


「船長は食堂でお待ちしているので、案内しますね」「ついてくるっス!」


 琴乃羽と瑠奈に先導されて船内を案内される劉市長。


「ところで……何故縄梯子からここへ来たのか分からないのですが?」

二人に尋ねる劉。


「アレっすか?」

ニヤリと笑う瑠奈。


「縄梯子と見せ掛けて、まさかの生体テレポーテーションっス!ドッキリ成功!イエイ!」

「紛らわしいわっ!」


 ハイタッチして笑い合う二人に突っ込む劉。


「この船は空を飛ぶのですな。始めて見ました」


 船内の通路を歩きながら、興味深く観察する劉が真面目に感想を言った。


「はぁ。まぁ、宇宙も飛べますしね」

素っ気無く答える琴乃羽。


「これが今の日本国の実力とは……感服しました」

感心する劉。


「違うっス!自家製っス!あんな冷たい国とは違うっス!」


 いきなり振り向いた瑠奈が怒りの形相で劉の言葉を否定する。


「劉市長。この船はマルス・アカデミーの技術で造られた物です。もっと正確に言えば、此処に居るマルス人の瑠奈ちゃんと姉二人の三人で作ったものなんですよ」


 瑠奈の剣幕に驚く劉に説明する琴乃羽。


「この子が!?まさか、貴女様は噂に聞くマルス人三姉妹のお一人だったのですか!」


 驚く劉。


「驚くのは早いっス!これからが本番っスよ!」


 ニヤリと劉に笑いかける瑠奈が扉の前で立ち止まると、琴乃羽とアイコンタクトを交わして食堂扉を開いて来客を告げる。


「「ピンポーン!お客様1名入りましたー!」」


 琴乃羽と瑠奈に連れられて食堂に足を踏み入れた劉は、目の前に立っている日本人の男女と白銀の鱗に包まれたマルス人姉妹の出迎えを受けた。琴乃羽と瑠奈の紹介に、何故か日本人男女は頭を抱えていたが。


「初めまして。この街の市長をしております、劉です」

「初めまして、劉市長。ディアナ号船長の大月満と申します」「副長を務める妻のひかりですわ、劉市長」


 劉と満、ひかりが歩み寄って握手する。


「お会いできて光栄です。美衣子様、結様」


 満、ひかりと握手した後、二人の背後に控えて居たマルス人姉妹に歩み寄って手を差し伸べる劉市長。

 無言で劉と握手を交わした美衣子と結は、満の服の端を掴むと耳元で何かを囁くと、とてとてと小走りで食堂から走り去っていく。


「彼女達に何か失礼をしてしまったのでしょうか?」

困惑する劉。


「いえいえ。マルス人とはいえ彼女達も人見知りをするのです。さあ、どうぞ、お互いの紹介と情報交換といきましょうか」


 微笑みを湛えた満が、マルス人姉妹は実は内気なのだと明かして劉の困惑を取り除くと、ひかりが温かい烏龍茶を淹れて劉に勧めるのだった。


          ♰          ♰          ♰


 ディアナ号の洗面所で美衣子と瑠奈は両手を丹念に洗っていた。洗い終えた両手を更にレーザー消毒システムに晒して付着した”放射性物質”を分解すると、ようやく二人は息をつく。


「美衣子姉さま。……あの人の息が臭かった。血の匂いがしたわ」


 悲しそうな顔をした結がぽつりと呟く。


「……そうね。典型的な症状だったわねあの人……」


 結の言葉に頷く美衣子の顔も暗い。


「……あの様になってしまった原因を調べてみないと。お父さん、どうか交渉頑張って」


 洗面所に映る自分の顔を見ながら、満の健闘を祈らずには居られない美衣子だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・琴乃羽 美鶴=言語学研究博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事サブカルチャー部門担当者。少し腐っているかも知れない。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・劉=未確認都市の市長。中華人民共和国人民解放軍特務部大佐。

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