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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
259/462

探知



2026年(令和8年)11月22日【火星アルテミュア大陸 中央部ケラウニクス地溝帯】


 砂嵐を避ける為、地溝帯の底に着陸したディアナ号だったが、磁気を帯びた砂に塗れたレーダー・通信システムは依然として回復していなかった。

 巨大ワニの探知・追跡や現在位置の確認が出来ない為、大月家一行は手持ち無沙汰となり、誰ともなく艦橋後方から中央へ移設された掘り炬燵に集まり、のんびりと過ごしていた。


「砂嵐は初めての体験だけど……まるで砂の海に潜っている様な感じだねぇ」


 すっぽりと掘り炬燵に嵌りながら、蜜柑をゆっくりと摘む満。艦橋の窓から見える風景は赤茶けた砂が一面に舞っている状態で視界は無いに等しい。


「惑星が違うと、砂嵐も様相がまるで違いますね」


 満の向かいに座るロンバルト・アッテンボロー博士が頷きながら、3杯目となるお汁粉のお代わりを堪能していた。


「ここまで視界が悪いと、外へ出ても何も見えないのでは?大丈夫かなぁ。瑠奈ちゃんと美鶴……」


 結の左側に座る岬渚紗が、瑠奈と共に船外探索に出た同僚の琴乃羽 美鶴の心配をする。


「琴乃羽さんお一人ですとアレですが、瑠奈も一緒ですし大丈夫かと……。

 ……あれ?うーん……二人とも大丈夫かなぁ」


 微妙から不安げな表情へ移っていく満。


「お父さん。何気に琴乃羽と瑠奈をディスっている」

ポツリと呟く結。


「結、違うわ。お父さんは事実を言っているのよ。船長は時に非情となることも大切」


 タブレット端末で、コロンブス航海記を読んでいた美衣子が結を窘める。


「大丈夫ですよあなた。美鶴も瑠奈も"やらかす"でしょうけど、最後はちゃんとしているでしょう?」


 満の隣に座るひかりが、ずずっと昆布茶を啜りながら二人のフォローを試みる。


「まあ、そうだね。船から遠く離れた訳では無いし、大丈夫だね」


 ひかりの言葉にホットする満。


「……むしろ、大丈夫かどうかで言ったらジャンヌさんの所がもっと大変だと思うわね」

しみじみと呟く岬。


「まさか、日本国がそうそう非協力的にはならないと思うけれど……」


 うーんと顎に指をあてて考え込むひかり。


「あの国が変わってしまったとしても、その時はひかりさんと美衣子達に話したアレが実現すれば、しばらくは何とかなると思うんだけどね……」


 もう一つ蜜柑を手に取ると、皮を剥きながら応える満。


「できれば僕達も当事者になるから同席はしたかったのだけど、この通信状態ブラック・アウトではねぇ」

苦笑する満。


「そんなこともあろうかと、仕込みはしているのだから大丈夫でしょう?」


 お汁粉にご執心なアッテンボロー博士の為に、追加のお汁粉を取りにキッチンへ向かいながらひかりが訊く。


「そうだね。後はジャンヌさん達次第かな……」


 そう応える満は、遠い目をしていた。

 やり慣れない事をした反動か、思い出すだけで頭に血が昇ってのぼせそうになる満は、蜜柑の甘酸っぱさで気分転換を図る。


 その時、艦橋後方のドアが開くと、自分よりも等身大の埴輪ハニワを抱えた瑠奈がとてとてと入って来る。

 ハニワは右手を挙げて口をすぼめたように開いたお馴染みのポーズである。


「ただいま戻ったっス!」


 床にハニワをゴトンと置くと、右手を上げて元気よく満に報告する瑠奈。


「おかえりなさい、瑠奈。ご苦労様。琴乃羽さんはどうしたの?」

おや、と首を傾げる満。


「ほら、美鶴さん!報告っスよ!」


 瑠奈が傍らに置いていたハニワの頭に向け、ジャンピングチョップをかます。

 頭頂部にチョップをかまされたハニワがボロボロと崩れていくと、中から作業着姿の琴乃羽 美鶴の姿が現れる。


「ふあっ!?只今戻りました。

 ……まるで鹿児島の海岸砂風呂に浸かっている気分でした!血流も良好です!」


 我に返った琴乃羽が、血色の良い爽やかな顔で報告する。


「……血流云々の前に、あの状態で呼吸出来たのか不安になるわね」

思わずジト目で突っ込む岬。


「そこはほら、私は液体状にも成れるから砂の隙間の空気を"肌"呼吸でねっ!」


 片目でウインクして答える琴乃羽。

 福音攻撃を受けて液体化して以来感情が高ぶるとうっかり液体になる体質だが、彼女はもはや気にせず、その体質を楽しむ様になっていた。


「美鶴さん……ご無事で何よりですけれど、先ずはその足元の砂を片付けて欲しいですぅ」


 艦橋後方のキッチンから、追加のお汁粉を入れた小鍋を持ったひかりが困った顔をして、琴乃羽の足元を指さす。


「ありゃ~すいません。直ぐに片付けますね」


 念導力で足元の砂をササッと集めると、艦橋の外へと運んで行く琴乃羽。


「……何だか今、物凄くアメージングな光景を目の当たりにしたのだが?」


 お汁粉の具として入っていた餅を箸で掴んだまま固まったアッテンボロー博士が呟く。他の面々は割と日常茶飯事に見られる光景なので、大して気にしていない。


「え?何がですか?そんな事よりも、瑠奈。外は視界ゼロだっただろう?」


 アッテンボロー博士の呟きを首を傾けて「なにを今更」とばかりに聞き流した満が、瑠奈に報告を促す。


「報告するっス!甲板からは視界ゼロだったので、琴乃羽がマストを登って観測を試みたっス!」

「それで砂まみれになったと?」


「そうっス!」

「で、視界もゼロと?」


「ん~、琴乃羽が何か見つけたみたいっス!」


 瑠奈が頬に指をあてて思いだしながら答える。


「……町がありましたよ?」


 艦橋の外へ砂を移動させた琴乃羽が、ドアを開けて入るなり報告する。


「町?ですか。かつてのマルス・アカデミー研究施設でしょうかね?」

訝し気な満。


「……それはない。ケラウニクス地溝帯はかつて湖沼帯だった。アカデミー評議会お墨付きの自然保護区だったから、大規模な施設は無い筈」


 満の隣で首まで炬燵に潜り込んでいた結が、タブレット端末で施設データを確認しながら応える。


「え~?そうなの?私にははっきりとドーム型の建物とか、煙突チムニーの様な物が遠目に"探知"出来たのだけれど?」


 もぞもぞと岬の隣に潜り込みながら、コテンと首を傾げる琴乃羽。


「ニューガリアとボレアリフの間に、人類都市から進出した開拓村が在るとは聞いていませんねぇ」

顎を擦るアッテンボロー博士。


「……じゃあ"モグリ"の開拓村ですかね」

ぼそりと呟く琴乃羽。


「……美鶴。またそんな都市伝説を……」

呆れる岬。


 掘り炬燵に潜り込んでウーンと腕組みして考える大月家一同。


「どの方向かしら?」


 腕を組んだまま、目を瞑って思考中のひかりが訊く。


「ん~、ここからもう少しあっちに行った辺りかな」


 蜜柑を手に取りながら視線を天井から右側に向けて答える琴乃羽。


「じゃあ、砂嵐がもう少し治まったら移動してみよう。近くなら砂嵐から大きく外れる訳でもないからね」


 腕組みをしながら、炬燵に潜り込んだ面々に指示する満だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月 ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・琴乃羽 美鶴=言語学研究博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事サブカルチャー部門担当者。少し腐っているかも知れない。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・ロンバルト・アッテンボロー=ユーロピア共和国学芸庁火星生物対策班長。生物学博士。

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