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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
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未踏の地へ

2026年(令和8年)11月21日【アルテミュア大陸西海岸 人類都市『ニューガリア』国際・宇宙空港】


 アルテミュア大陸西海岸に誕生した火星で三番目となる人類都市『ニューガリア』。


 この都市は、火星日本列島 長崎県佐世保市に法律上の首都を置くユーロピア共和国主導で今年1月に築かれたばかりである。


 日本国と命運を共にする政策を推進するケビン首相率いる英国連邦極東と対照的に、日本国に頼らず自立した国家を目指すジャンヌ・シモン首相は、第二次アルテミュア大陸上陸作戦後『新大陸』と呼ばれる様になったアルテミュア大陸の開拓を最優先として予算と人員を注ぎ込んでニューガリアは築かれた。


 その新興人類都市に在る国際・宇宙空港では、火星原住生物襲来から一夜明け、早朝から日本列島へ避難を試みる市民が長い行列を作っていた。

 空港に到着する飛行機よりも日本列島へ出発する飛行機の数が多いのだが、空港カウンターに並ぶ市民の列は一向に途切れない。


 滑走路の両端には、東部郊外から撤退してきた自衛隊特殊機動団のパワードスーツ部隊が展開して邦人救出機の警護にあたっている。


 空港ロビーに設置された大画面テレビでは、東部郊外防衛戦を伝える国営ニュース番組が、巨大ワニに踏み潰される装甲車や兵士が食われていく場面を偶然撮影した防犯カメラの映像をノーカットで流し、搭乗手続きを待つ市民達が不安そうに見つめていた。


 先行きへの不安感が色濃く漂うロビーで、外を眺めていた数人の市民が突然素っ頓狂な声を上げて窓の外を指差して騒ぎ出す。


「何だ!?アレは?」「どうして船が!?」


 日本列島へ飛び立って行く旅客機の斜め上から、高度を落とさずに空港上空へ近づく三本マストの帆船に、市民達から驚きの声が上がる。


 多目的帆船『ディアナ号』が、東部郊外防衛戦で撃破した巨大ワニの遺骸を空港に届ける為に来たのだ。


 厳重な警戒の中、巨大ワニの遺骸を空港奥の格納庫へ降ろし、空港で待機していた火星原住生物専門家のアッテンボロー博士、岬、琴乃羽を乗せ、ユーロピア共和国防衛軍から補給を受けたディアナ号は、ジャンヌ首相も加わったラファール戦闘機編隊の見送りを兼ねた護衛の元、ニューガリア国際宇宙空港から慌ただしく旅立つのだった。


          ♰          ♰           ♰


2026年(令和8年)11月21日午後4時【人類都市『ニューガリア』東50kmの荒野上空】


「キャーッ!……戦闘機に乗ったイケメン達に見送られて旅立つ主人公一行なんて、まるでSF小説みたいですっ!……じゅるり」


 ディアナ号のブリッジから、前後左右に展開する護衛のラファール戦闘機編隊を眺める琴乃羽が涎を拭うのも忘れてはしゃいでいる。


「その主人公一行は、これから未知の怪物と闘うと言うのですがねぇ……」


 やれやれといった風にボソッと呟きながら昆布茶を啜る岬渚沙。


「岬さん、琴乃羽さん。この度は遠い所から駆け付けて下さってありがとうございます。あらためてですが、宜しくお願いします」


 満が空港で合流した二人に向かって頭を下げる。


「こちらこそです、社長。こうしてみんなで出掛けるのは、長崎沖のマリネちゃん事件以来ですね。

 ワクワクゾクゾクする様な探検に誘って頂き、感謝します」

ニコッと笑みを返す岬。


「未踏の地、ワクワクします!」

「お気楽ですね……。あの砂嵐の中にどんな怪物が待ち構えているカもしれないのに」

「あなたは相変わらず心配性ですねぇ。どうせ行けば分かるのですから、今から心配しても始まりませんよ」


 岬、満、ひかりはブリッジ後方に備え付けの掘り炬燵に入りながら、暖かい軽食を摂って言葉を交わす。


「ふむ。この甘いスープの具材であるマロンと小豆の感触は堪能しましたが、このモチモチした食感は何でしょうか?」


 うっとりした顔で漆塗りの椀によそわれたスイーツをもぐもぐと味わうアッテンボロー博士。


「このスイーツはオシルコですわ、ムッシュ。そしてこのモチモチは文字通り、お餅ですのよ」


 ひかりがアッテンボロー博士に日本の伝統的スイーツについて説明する。


「あの、アッテンボロー博士。戦闘服の差し入れありがとうございました。日本を脱出する事に夢中でそこまで気が回りませんでした……」


 アッテンボロー博士にお礼を言いながら恥ずかし気に頭をかく満。


「いやいやお気になさらずに。あれはユーロピア共和国政府から君達への支給品だよ。普段着のまま、火星の荒野で活動する訳にもいかないだろう?私の調査活動を支援してもらうのに当たり、必要な物なんだよ」


「この軍服……気に入ったわ」


 サスペンダーを調節しながらカーキ色のデッキパンツの履き心地を確かめると、上機嫌な美衣子。


「ポケットもあちこち有るし、便利。これだとひかりのクッキーが沢山貯蔵出来る」


 早速ポケットに仕舞い込んだひかり謹製のクッキーを取り出すとボリボリと齧る結。


「素材も丈夫!これなら何処で寝ても大丈夫っス!」


 炬燵から離れた床でゴロゴロしながら着心地を確かめる瑠奈。


 美衣子達三姉妹の様子を微笑ましく見守る一同。

 


『こちらラ・セーヌ戦闘機中隊。間もなく砂嵐に到達する。私達の装備ではこれ以上の活動は困難です。名残惜しいですが護衛は此処までとなります。貴君らの無事と幸運を祈ります。よき航海を!』


 ブリッジのスピーカーから、ラファール戦闘機に乗るジャンヌ・シモン首相からのメッセージが流れる。


「護衛に感謝します。貴国の健闘を祈念します!」


 ひかりが返礼のメッセージを送る。


『……戻ったらオシルコとやらを振る舞いなさいねっ!約束したわよっ!』


 拗ねたような声で言うと、ジャンヌが乗る戦闘機は翼を翻してディアナ号から離れていく。



「……一方的に約束されたような。

 さてと、ここからは全く未踏の地となるね。まずはあの砂嵐の中に入るとしようか。皆、よろしく頼むね」


 炬燵から出た満は、皆に軽く頭を下げると船長席に着く。

 ひかり、岬、琴乃羽、アッテンボローもそれぞれの持ち場へと向かうのだった。


「……さて!美衣子達もお汁粉はそれぐらいにして、そろそろお仕事しようね?」


 炬燵の片隅でお汁粉の入った小鍋に、匙を突っ込んで餅と栗の争奪戦を繰り広げていた三姉妹にやんわりと注意する満だった。 


 数分後、緑色に輝くシールドを展開したディアナ号は、赤茶けた砂を巻き上げる巨大な砂嵐の中へと入っていくのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 満=ディアナ号船長。元ミツル商事社長。

・大月 ひかり=ディアナ号副長。満の妻。元ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・岬 渚紗=海洋生物学博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事海洋養殖・医療開発担当。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーターさち様です。


・琴乃羽 美鶴=言語学研究博士。ソールズベリー商会所属。元ミツル商事サブカルチャー部門担当者。少し腐っているかも知れない。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。


・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・ロンバルト・アッテンボロー=生物学者。ユーロピア共和国学術庁火星生物対策班長。

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