特命
――――――【長崎県対馬市 福江島 英国連邦極東軍研究所】
「美鶴!ケビン首相から私達に特命よ!」
地上の土産物店から駆け下りてきた岬渚沙が、水槽で飼育しているミズクラゲに餌をやっていた琴及羽美鶴に駆け寄って告げる。
「特命ですって!?……遂に私の隠れた才能が世界の謎を解き明かすのよ!私のターンきたー!」
感極まった表情で自分の身体をガシッと抱き締める琴及羽。
「隠れた才能?世界の謎?……何言っているかわからないけど。
まあ、今回は取り敢えずアルテミュア大陸西海岸のニューガリアへ向かって向こうの研究者と調査らしいわ」
琴及羽のオーバーリアクションにちょっと引きながら特命について説明する岬。
「ふーん。でも今は珍味君の餌やりを済ませないと」
我にかえった琴及羽が餌やりを再開する。
と、背後から現れた水兵の制服を着た男性数名が、琴及羽の手から餌を取り上げると、一礼する。
「失礼、レディ。首相閣下の特命は急を要するものです。既に迎えを地上に待たしておりますので……」
パイロットスーツとヘルメットを琴及羽に押し付ける水兵。
「……えーっと?」
キョトンとした琴及羽が隣の岬を見ると、彼女も同じ装備を渡されて困惑していた。
「さあさあ!参りましょう。時間は有限です!我々英国連邦極東自慢の乗り物がレディをお待ちしておりますゆえ」
せかせかと水兵達に追い立てられるようにして地上の土産物店へ移動した岬と琴及羽の目に、翼を並べた2機の複座型ハリアー垂直離着陸(VTOL)戦闘機が店の駐車場に鎮座している姿が映る。
「操縦はそれぞれ、前席のパイロットが担当します。レディのお二方は、後部座席に座るだけの簡単な任務です。それでは!良い旅路を!」
あれよあれよとパイロットスーツを着せられ、ヘルメットを被らされて後部座席に押し込まれた二人に水兵がビシッと敬礼する。
唖然と水兵を見返す岬と琴及羽を乗せたハリアー戦闘機は、轟音と共にエンジン出力を増してフワリと20メートル程の高さまで浮かび上がると、ぐんぐんと加速して西の彼方へと飛び去るのだった。




