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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 火星新大陸
247/462

些事

【火星北半球アルテミュア大陸西海岸 ユーロピア共和国首都『ニューガリア』 首相府首相執務室】


「ジャンヌ首相閣下。我が国自衛隊は国会決議の無い海外派兵と戦闘行動は認められていないのであります」


「はぁ?戦闘行動しないですって?貴方正気なの!?」


 開口一番に理解不能な発言をした日本国自衛隊政治将校に対し、思わず素の口調で問いただすジャンヌ・シモン首相。


 東の荒野から接近する謎の火星巨大生物を撃退する為の軍事支援を要請する為に駐留していた日本国自衛隊の指揮官を直接呼び出していたのだが、呼び出しに応じて現れたのは駐留部隊指揮官ではなく、”政治将校”という聞いた覚えのない軍隊組織の肩書を持つ若手将校だった。


「はい。大変申し訳なく、お役に立てず痛恨の極みにございます。

 ですが、これは我が国人民が平和を愛するが故に選択した専守防衛と海外派兵禁止の国是であります。

 よって貴国滞在中の我が部隊は戦闘行動を基本的に行わない方針です。邦人救出任務を終えた後は速やかに本国へ帰還することになるでしょう。貴国人民への精神的支援と人道支援は手厚く行うよう総領事館には小官から伝言させていただく所存であります」


 言い訳がましい言葉を並べ立てる政治将校。


「……あなたでは埒があかないわね。ムッシュ我妻を直接問いただすしかないわね。もういいわ」


 ため息をつくと、傍らで控えていたクロエ・シモン首相補佐官に合図して自衛隊政治将校を執務室から退出さえるジャンヌ首相。


「なんなの、アレ。全然軍人らしさの無い口だけ回る偽善者ね……腐れ英国紳士のケビンの方がまだマシね」


 一人になった執務室でイライラと室内を歩き回りながら愚痴を零すジャンヌ首相だった。


          ☨          ☨          ☨


2026年(令和8年)11月20日午前5時10分【東京都千代田区 首相公邸】


「総理!アルテミュア大陸西海岸ユーロピア共和国首都ニューガリアに未知の火星生物が接近。現地自衛隊はユーロピア共和国防衛軍と共に迎撃態勢に入りました」


 立憲地球党出身の防衛政務官が、公邸玄関から首相官邸へ向かうワゴン車に乗る寸前の我妻首相へ駆け寄ると、我妻の耳元に囁く様に報告する。


 報告を受けた我妻首相はSPに命じて周囲の番記者や報道陣を遠ざけると、公邸へ引き返して玄関脇の控室で防衛政務官から詳しい説明を受ける。


「何だと!それはいかん!直ぐに現地の邦人を退避させ、自衛隊は退避を支援するのだ」

我妻が防衛政務官に指示する。


「しかし総理、我が国とユーロピア共和国には日ユ相互防衛条約があります。どちらかの国が攻撃された場合、自動的に参戦する条約となっております」

指摘する防衛政務官。


「何を言っているかね君は!それは"日本列島内"における有事の場合だろう?アルテミュア大陸は日本列島の"外"にあるのだ。

 自衛隊は国会決議で憲法改正がなされない限り、海外で戦闘を行ってはならんのだ!」

防衛政務官の指摘に独自の理論を主張して反論する我妻。


「とにかく!自衛隊は在留邦人脱出支援だ!その後は最小限の人員で情報取集に務めるのだ。戦闘行為は禁止だ!いいね?

 ……そんな事よりも、直ぐに公邸を出なければ。地球行きのシャトルに遅れてしまう」


 慌てて上着を着ると、再び公邸玄関に向かって速足で向かう我妻。


「総理!ユーロピア共和国ジャンヌ首相から救援要請です」


 公邸内の通信室から飛び出してきた外務政務官が我妻の元へ駆け寄って報告する。


「私はイスラエル連邦共和国のニタニエフ首相閣下との首脳会談に向けて地球へ向かう準備で忙しいのだ!

 ”そういう些事”は外務大臣の後白河君に報告したまえ。

 東京に火星生物が攻め込まない限り、報告は後にしてくれ!」


 ユーロピア共和国の要請を聞こうともせずに外務政務官を振り切ってワゴン車に乗り込む我妻首相。


 唖然とした外務政務官は、玄関口で立ち尽くしたまま走り去るワゴン車を見つめるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機も操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・我妻=日本国総理大臣。地球復興・帰還を第一とする『立憲地球党』出身。政権交代で総理に就任した。

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