未確認移動物体(URO)
――――――火星日本列島から脱出した大月家一行が、第1衛星フォボスに在るダンケルク宇宙基地で暫しの休息を取っていた頃。
2026年(令和8年)11月20日午前2時30分【火星アルテミュア大陸西海岸 人類都市『ニューガリア』ユーロピア共和国軍指揮・通信センター】
「ニューガリア東部を哨戒中の偵察ドローン22号が、地上から接近する複数の移動物体を探知。都市郊外から70km地点です!」
レーダー担当オペレーターが当直司令に報告する。
「IFF(敵味方識別信号)は?」
「有りません。当該物体群をURO(未確認地上移動物体)と認定します」
オペレーターの宣言と共に、指揮・通信センター内に警報態勢を告げるサイレンが鳴り響く。
非番のオペレーターも呼集されたことで、センター内が俄に慌ただしくなっていく。
「未確認移動物体だと?どこの国にも属さない”もぐりの開拓村”から来た密入国者か?」
怪訝な顔をしながらオペレーターの背後まで歩み寄る当直司令。
当直司令の記憶にある限り、火星日本列島の生活に馴染めずに飛び出した者が作り上げた未登録の開拓村から、過酷な開拓生活に堪えかねて人類都市に駆け込んでくる事はアルテミュア大陸では多少有ったがそれらは単独行動であり、集団での人類都市密入国は初めてであった。
未経験な事態に緊張感を強めていく当直将校。
「ドローンの映像をメインスクリーンへ転送しろ」
薄暗い通信センター中央に設置された5m四方のメインスクリーンに、ドローンからリアルタイム映像が投影される。
夜明け前の荒涼とした火星大地を、砂埃を立てる巨大な5つの黒い影が西へと突き進んでいた。
「……デカい。……20mはあるな。地球戦線で使用された陸ガメというシャドウ帝国の陸上戦艦か?」
モニターをじっと視ながら呟く当直司令。
「赤外線探知情報入りました。熱源反応は概ね30度から40度。機関燃焼温度としては低過ぎます」
当直将校の呟きに否定的なデータを報告する情報参謀。
「という事は火星生物か?……該当種を検索しろ」
「MDB(火星開拓局)データーベースにアクセス……該当種有りません」
直ぐにデーター検索にかかった情報参謀が首を横に振る。
「ならば今からこの未確認移動物体を新種火星生物『X』とする。各種データー分析急げ!ニューガリア行政府と佐世保に緊急報告!」
緊張の度を高めていく状況にオペレーター達が各所へ連絡を取ろうと動き回る中、突如としてメインスクリーンの画像がブツリと途切れる。
「何だ!」「どうした!?」
どよめくオペレーター達。
「ドローンからのシグナル途絶!」
レーダー担当オペレーターが叫ぶ。
「こんな時に故障か!?ダンケルク基地からのレーダー探知は?」
渋面になりつつ、すかさず確認する当直将校。
「ダンケルク基地とレーダーリンク継続中。反応が消失したとしか……」
「撃ち落とされたというのか!?」
愕然とする当直将校とオペレータ。
「……ニューガリア駐留の各国部隊に警告と迎撃要請!陸上戦力を東部郊外に集めるんだ!」
「英国連邦極東は分かりますが、親善訓練中の日本国自衛隊もですか!?」
「日本の新政権は地球連合防衛条約を破棄しているが、我がユーロピア共和国と火星転移直後から相互防衛条約を結んでいる。よって連絡する義理もあるだろう。
それに自衛隊はパワードスーツを持って来ているじゃないか。……もしかすると実戦でお手並みを拝見出来るかも知れん」
かつて、観戦士官として第一次アルテミュア大陸上陸作戦に参加した強襲揚陸艦に搭乗していたところを巨大ワームに襲われた経験のある当直司令は、背筋に悪寒を感じながらも培った生存本能に基づいて思考を巡らせていく。
「それと”お嬢”=ジャンヌ首相にも報告すべきだろう。首相は今何処に居る?」
「首相のラファール戦闘機中隊は日本空域での訓練を終えて帰投中。30分後に到着予定です」
「帰投中だろうが構わん。緊急通信を送れ『未確認移動物体がニューガリアに接近中。警戒されたし』」
「ダンケルク基地から入電!」
『こちらダンケルク宇宙基地。火星生物X、ニューガリア東部郊外40kmまで接近』
「学術庁のアッテンボロー卿、英国連邦極東研究所のミサキ、コトノハ顧問に至急連絡を取れ!」
未知の火星生物にセンター内の緊張は更に高まっていくのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m




