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転移列島  作者: NAO
火星編 コンタクト
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試食会

2021年10月2日午前11時30分【富山県立山市 尖山 マルス・アカデミー尖山基地内】


「春日。仕込みはまだか?」


 丸いテーブルを両脇に抱えてよたよた歩く大月が、広大な連絡艇格納庫の片隅で料理人と共に具材を刻んでいる春日に問いかける。


「あと1時間で汁物は完成します。揚げ物始めますか?」

答えつつ、次の段取りを確認する春日。


「始めてくれ。揚げ物は量が多いからな。出来立ての熱い奴が苦手な者も居るだろう。冷めても美味しい様に味付けに気を付けろよ?」

合図を出す大月。


「東山さん。極東アメリカのパイナップルが入ったコンテナは何処ですか?」


 格納庫中央に辿り着くと、テーブルを組み立てながら東山に呼び掛ける大月。

 習志野から来た応援の料理人達は、クーラーボックスから食材を取り出すと手際よく即席キッチンで調理を始める。


「すいません。極東アメリカが出し渋っていましたが、嘉手納からブラックホークヘリで急行中との事です!あいつら、異星人絡みだと知るやいなや手のひら返しやがって!」


 ワインやカクテルの準備にてんてこ舞いの東山が、手を休めずに返事をしつつ愚痴を零す。


 早朝、皆神山山頂に着いた大月達一行は、そこから尖山基地内へと転送され、連絡艇が収容されている格納庫のど真ん中で試食会場のセッティングに勤しんでいた。テーブルや飲み物、食材、助っ人の宮内庁料理人やソムリエ、茶人達は、陸上自衛隊習志野駐屯地から大型輸送ヘリで皆神山頂まで運ばれている。


「大月さーん。東山がドリンクバーの種類で相談があるみたいですぅー!」

空間中央のテーブルが並べられた場所で西野が手を振って大月を呼ぶ。


「……ちょっと待って。身体が重い……」


 ぜえぜえと荒い息をつきながらテーブルを床に置いて組み立てると、西野の所へよろよろと歩いていく大月。


「……どうしてこうなった」

淡い水色に照らされた空間の天井を見上げて呟く大月。


 昨日マルス人生き残りリーダーのイワフネと話した際、西野が「そう言えば皆さんのお食事はどんなものですかぁ?私はヴァイキングビュッフェに嵌っていてですねぇ―――」と取りとめもなく質問した所から話がトントン拍子に拡大し、異星文明交流を兼ねた格好の情報収集時だと思い立った岩崎官房長官のバックパックを受け今日に至っている。

 因みに列島各国は情報を聞きつけるなり参加を熱望したが、"持ち回り"で開催する方向で前向きに検討すると岩崎官房長官に言葉巧みに説き伏せられて参加を自粛している。


          ♰          ♰          ♰


「それでは、これより大試食会を開催いたしまーすっ!どんどんパフパフー!」


 司会に立候補した西野の無駄に元気な声がハンドスピーカーから大音量で流れる。大月と春日はドン引きしつつも西野に合わせて「ウェーイ♪」と囃し立てる。

 ウェーイ♪って、それ日本語なの?と大月は、悪徳勧誘商売会場に連れ込まれた被害者の様な諦めの笑顔を浮かべつつ、健気に西野と春日が買い与えたパーティーグッズのタンバリンやメガホンでどんどんパフパフしていた。

 東山は次々と出来上がる料理を並べたり、マルス人に提供する各種飲料の吟味に忙しく、突っ込み切れなかった。


 暫くして立ち直った大月が、西野から手渡されたハンドスピーカー片手に、


「これからマルスの皆様と我が国が交流を深めていくにあたり、皆様の好みを知りたいと思いまして、試しに作ってみました!どうぞっ!じゃーん!」

大月が格納庫の中央を指し示し、春日と西野、料理人がウェーイとはやし立てる。


 日本国政府側が持ち込んだ暖かみのあるオレンジ色の照明に照らされた格納庫中央には、バイキングビュッフェよろしく各種料理が大皿に盛り付けられ、各種飲み物が並べられていた。


 鳥の照り焼き、レバーの串焼き、鳥の唐揚げ、カエルの唐揚げ、イナゴ・コオロギの佃煮、蜂の子ご飯、カボチャのポタージュ、ツナとラディッシュ・ニンジンのサラダ、サツマイモの蒸したもの、芋羊羮、バナナ料理、パイナップル、ミカンを使ったジュースやお酒等 多彩にわたる。

 春日、宮内庁料理人、上野動物園 爬虫類 飼育係が監修した、異色(いしょく)のコラボレーションメニューである。


 料理の背後では、給仕として秘かに立候補していた宮内庁料理人が数名、料理の盛り付けと温度を保つために忙しく料理の間を動き回っていた。


 イワフネ達マルス人は、テーブルに所狭しと並べられた絢爛豪華な食卓を見て驚きの声を挙げる。イワフネの部下は携帯端末で撮影を始める。異星人にもインスタグラムの習慣があるのですねぇと、隣に立つ西野が呟く。


「よろしければ、味見をお願いします。お口に合わないものも有ると思います。その時は是非教えてください!出来れば好みの味付けなどアドバイスもよろしくお願いいたします」

大月が試食を促した。


 食材の準備には、大月、西野、東山までもが列島各地を東奔西走した。

 永年、宇宙船や外惑星基地でサプリメントや栄養補給ゼリーやカロリーバー等の合成食品を主食としていたマルス人にとって、大月達の料理は色彩豊かで美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐり、口の中を本能的にじゅるりと唾液を分泌させるのに充分だった。


 マルス人達は、おっかなびっくり大きなスプーン(おたまとも言う)や特注した巨大フォークで大皿に群がり、瞬く間に未知の食文化に触れたマルス人の理性が決壊するとイワフネやゼイエスが極東アメリカが持ち込んだパイナップル酒で酔っぱらい、アマトハに介抱されるレアな場面も目撃され、試食会場は宴に突入した。


 感極まったゼイエスは蛙のから揚げを頬張りながら、「これは宇宙料理の真理を追究する新たな学問誕生の瞬間です!」とよく分からない事を言ってアマトハを苦笑させていた。

 そんなアマトハも、永年観察していた地球人類がこの様な果実をもたらすとは思っていなかったらしく、感無量となっていた。

 そんな彼らに笑顔で料理を振る舞い続ける大月、西野、春日、東山達だった。


 試食会の反響は大きく、大月達はこの日を境としてマルス人達と交流を深めて行くのであった。

 大月の発案で、尖山基地へ定期的に"給食"としてこれ等の料理が日本国政府宮内庁から定期的に届けられるようになった事も影響しているのかもしれない。

 また、サプライズで悪戯好きな皇族がお忍びで料理人達に紛れ込んで給仕を行い、イワフネ達と交流した事で東山はしばらく胃が痛かったという。


 こうして日本国は、列島各国に先駆けてマルス人と交流を深める事に成功するのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


【このお話の主な登場人物】


・大月 満 = 総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。

・西野 ひかり= 総合商社角紅社員。社長の孫娘。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、絵師 里音様です。


・春日 洋一= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌きは上手(うま)い。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター 更江様です。


・東山 龍太郎=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター 更江様です。


・イワフネ=マルス人。月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、地球に降ろされた。

・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。

・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。ゼイエスの善き理解者。

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