潮時
2026年(令和8年)11月17日午後3時【東京都千代田区永田町 自由維新党党本部】
党本部5階に在る所属議員専用食堂の片隅で、春日陽介国会対策委員長が憔悴した顔で一人、羊羹をもそもそと食べていた。
今回の衆議院総選挙において春日陽介の選挙区では、立憲地球党党首我妻が推す子飼いの候補者が春日陽介の刺客として立候補していた。
強固な支持基盤で刺客など恐れるに足らずと思っていた春日だったが、昔から自由維新党を支持していた筈の地元支援組織が汚職疑惑に幻滅失望し、立憲地球党支持に回った事からまさかの敗北を喫していた。
政治家として駆け出しだった頃に幾度となく落選した経験は有ったものの、ここ20数年は連続当選を重ね、ベテラン議員として国会対策委員長を任されていた春日陽介にとって、今回の落選は心身を酷く痛めつける結果となっていた。
気落ちする春日の耳に、隣で豪華な松花堂弁当に箸を進める同僚議員の会話が入ってくる。
「我が党はキツイ状況だが、立憲地球党も同じだ。こういう時こそ、攻めの姿勢で相手を徹底的に叩くべきじゃないのかね?」
「澁澤さんの後任と目されていた甘木経産大臣自身が検察の捜査対象では、身動きが取れんだろう」
「澁澤さんの女房役だった岩崎さんは、こういう時に前へ出る人じゃないしなぁ……」
「桑田さんは典型的な自衛隊上がりの猪突猛進で頭脳戦はからきしだし、澁澤さんの有能さを今になって思い知るとはなぁ……」
「そう言えば例の誘いだが、お前のとこに来たか?」
「ああ。3日前にな。新しい政府で国民と共に地球へ帰還して人類復興を成し遂げて地元へ錦を飾ろう!なんて誘われたら流石に心が動くよ……」
「地球再生と人類復興なんて、狭い日本列島の中だけじゃ絶対に出来ない事だからな!」
「そうだとも!親父から受け継いだ地元組織を活性化させる為にも、ここで勝負してみるのもいいかもしれん!」
1個数千円はする豪華な弁当の大半を残したまま、そそくさと席を立って食堂を出て行く同僚議員を虚ろな眼差しで見送る春日。
「潮時かねぇ……」
ため息をついた春日は携帯電話を取り出すと前々から考えていた事を実行すべく、長らく身元を後見していた甥に連絡を取るのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・春日 陽介=自由維新党国会対策委員長。春日洋一の叔父。




