新世紀日本の夜明け
2026年(令和8年)11月9日午後11時30分【東京都千代田区九段 法務省合同庁舎 東京地方検察庁 特別捜査本部】
「東京地検さんにお手紙で-す」
庁舎入り口に在る守衛室のテレビからNHK開票速報が刻々と各政党の得票状況を伝える中、郵便局員の制服を着た男が白い息を吐きながら用件を告げ、ずしりと重たい分厚い書類の入ったA3サイズの封筒を守衛に渡すと、そそくさと黒いバイクに乗って走り去っていく。
「こんな遅くにご苦労さんだ」
男の後姿を見ながら労う言葉を発した直後、送り人名の書かれていない、切手も貼られていない封筒を見て固まる守衛。
数分後、非常通報で駆け付けた九段下署の警察官と東京地検担当者立ち会いの下、慎重に封筒が開封されたが特に不審な物質は入っておらず、封筒は東京地検担当者が自分のデスクへ持ち帰った。
地検担当者はデスクに戻って封筒の中身である書類の内容を読み進めると、特捜部の在るフロアーから全職員の出入りを遮断するブザーを発信させて予め定められていた符丁を叫ぶ。
「黒い八重桜!繰り返す!黒い八重桜っ!」
符丁が叫ばれた10分後、衆議院選挙における公職選挙法違反摘発の号令を下すべく待機していた特別捜査本部長が予定を変更して法務大臣官房室に飛び込むと、多数の与野党国会議員と経済界が関与した告発状を受理した旨を伝え、捜査の開始を宣言するのだった。
法務省合同庁舎は深夜にも関わらず、職員が庁舎内を慌ただしく駆け回り、灯りが絶える事は無かったが、人の出入りは禁止され、外部からの電話も接続不能となった。
♰ ♰ ♰
2026年(令和8年)11月9日午後11時55分【神奈川県横須賀市内 後白河 衆議院議員事務所】
自由維新党役員会中に、イスラエル連邦共和国大使館員から電子メールを受けて急遽東京から地元へ戻った後白河外務大臣は、予定されていたテレビ出演予定を体調不良でキャンセルすると、事前に登録していた連絡先へ電話を架けた。
たったの1コールで相手が出る。
「これで準備が整いましたね。同志」
後白河が相手に話しかける。
『—――—――ええ。新世紀日本の夜明けです。同志』
立憲地球党党首の我妻がしっかりとした声で応えた。
後白河は、我妻の返答を聴くと直ぐに通話を切って、支持者とマスコミが待ち構えている事務所前へ、満面の笑みで向かうのだった。
♰ ♰ ♰
2026年(令和8年)11月10日(投票日翌日)午前5時30分【東京都大田区田園調布1丁目 角紅社長 仁志野清嗣の自宅】
無職だが、いつもの習慣で起床してしまった満は、先に起きて朝食を準備していたひかりから深刻な顔で無言のまま、朝刊を渡された。
昨晩ひかりが不機嫌になるような事をベッドでしてしまったか?と寝ぼけ眼のまま、記憶を辿りながら新聞朝刊を目にした満の頭が、見出しを見た途端にフリーズする。
「なっ!?」
思わず呼吸をするのも忘れて朝刊を見返す満。
『自由維新党幹部、甘木経済産業大臣、火星鉄道(MR)計画をめぐりJR各社、角紅、菱友銀行から収賄か?』
『立憲地球党幹部もMR収賄に関与か!?』
『立憲地球党幹部、首相選挙遊説計画を漏えい、対馬テロ犯を隠匿か?』
絶句して朝刊を手にしたままリビングで立ち竦む満の耳に、家宅捜索の為に到着した東京地検特捜部係員達が玄関のインターホンを鳴らしながらドアを激しく叩く音が耳に入ってくるのだった。
新しい夜明けが始まった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・大月満=元ミツル商事社長。自己破産して現在求職中。
・後白河 政徳=日本国外務大臣兼財務大臣。自由維新党青年会部長。
・我妻=立憲地球党代表。




