辞任
2026年(令和8年)11月9日午前2時30分【長崎県対馬市 対馬市総合病院 集中治療室】
自爆テロ犯の爆発に至近距離で巻き込まれた澁澤太郎総理大臣は、鉛の破片が腹部を貫通し腎臓と肝臓が破裂、大量出血で昏睡状態だったが入院翌日の深夜、不意に目を醒ました。
日夜集中治療室脇の待機場所で澁澤の容態を見守っていた警視庁SPが最初に澁澤の目覚めに気付き、当直医師と隣島で英国連邦極東首相と会談していた岩崎内閣官房長官へ直ちに連絡を行った。
SPの連絡を受けて首脳会談を切り上げた岩崎が対馬に駆け付けた時には、再び澁澤は昏睡状態に戻っていた。
当直医師は岩崎に対し、集中治療室に備え付けられていた視線入力による意思伝達装置が使用されたと説明した。
それによると澁澤は「辞任する」と一言だけ視線入力で意思表示したとの事だった。
「……お疲れ様でした」
医師の説明を受けた岩崎は、集中治療室の澁澤を映すモニターに向かって一礼するのだった。
同2時35分、澁澤総理大臣は辞任意思を表明したと判断され、直ちに首相臨時代理を務めていた岩崎正宗内閣官房長官はテレビ会議による臨時閣議を開催、閣僚全員の辞表を取り纏めた上で、暫定首相に就任、全閣僚を暫定閣僚として再び任命した。
澁澤総理大臣は2021年1月に発生した、日本列島火星転移の数年前から首相に就任しており、在職期間は4年を超え、日本建国以来初の異常事態が次々と発生した時期にも関わらず、比較的長期政権を維持した極めて優秀な政治家だったと言えよう。
なお、澁澤太郎は視線による総理大臣辞任の意思伝達後、表情を一瞬緩め、まるで重荷から解放されて一息ついた様にSPには見えたのだが、その事は誰も知らない。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・澁澤 太郎=日本国内閣総理大臣。
・岩崎 正宗=日本国内閣官房長官。




