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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 変わる世界
226/462

逢瀬

2026年(令和8年)11月8日【地球極東地区"新日本海"航空・宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』格納庫】


 灰色に濁った海上を南下するホワイトピースの格納庫で、久しぶりとなる恋人同士(AI同士)の逢瀬が始まっていた。


『久し振り!逢いたかったよ、パナ子さん』

『私も!嬉しいわ、ケンさん』


『君が居ない間、心配で電気も喉を通らなかったよ』

『まあ、食いしん坊のケンがそこまで……嬉しいっ!』


「……あのさぁ。わざわざスピーカーモードで話さなくてもいいんじゃないかしら?」


 パワードスーツ『サキモリ』の足元から、恨めしそうな顔でコクピットを見上げて物申すソフィー大尉。


『あら、私としたことが恥ずかしいですの。……消音モードですの――――――』


 格納庫に響き渡る恋人同士の会話が止むと、何時も通り整然と作業を再開する整備班の面々。

 だが、ソフィーは相変わらず恨めしい顔のままだった。


「まあ、パワードスーツ専用AIだからパイロット専用タブレット端末には居ないとダメなんだろうけどさぁ……」


 傍らに置いてあるタブレット端末を見つめながらプルプルと肩を震わせるソフィー。


「だからと言って、端末の中でイチャつくんじゃねぇーっ!データーベース内でイチャついてろっつーの!」


 端末に向かってキンキン声で怒鳴り込むソフィーに、周囲で整備作業に勤しんでいた隊員達がびくっと体を震わせる。


「みっともないぞ、大尉」


 サキモリと並んで整備を受けているパワードスーツの足元で黙々と報告書を作成していた高瀬中佐がソフィーに注意する。


「だってぇ~、羨ましいじゃないですかぁ……」


 不満そうにぶすっとした顔のソフィーだが、チラチラと高瀬の顔をじっと見つめている。


「……ん?何だ?腹でも減ったのか?」


 ソフィーの声を聴きつつも、端末に顔を向けたままの姿勢で応える高瀬。


「はあ~っ。これは先が長そうね……」


 高瀬を見つめながらため息をつくソフィー。


「中佐殿。せっかく帰還したのに、どうして私達だけが格納庫で作業をしなければならないのでありますか?」


 ウエットスーツがパワードスーツの操作で汗まみれになっているのに、なかなか格納庫から出してもらえない状態に憤るソフィー大尉。彼女は早くシャワーを浴びたいのだ。


「今現在、当艦はイスラエル連邦軍の監視下にあるんだ。

 重要軍事機密の詰まったパワードスーツとそのパイロットが自由に動くと、奴さん達の目に留まってもっと大変な事になる。だからイスラエル連邦軍戦艦から離れるまでは此処で缶詰だ。諦めろ」


 素っ気無く肩を竦めて応える高瀬。


「ぶぅ~」


 むくれるソフィーだった。



『ところで、ケンさんは何時いらしたですの?』

『さっき、パナ子さんが巨大ワームと戦っていた時だよ。パナ子さん苦戦している様だったから、ちょっとだけサポートさせてもらったよ』


『へ、へぇ~、それはありがとうですの。

 でも、私特に駆動系が向上したとか、サポートを感じていなかったですの』

ちょっとだけ口許が引きつるパナ子(*あくまでもタブレット端末画面内の描写)。


『いやいや、パナ子さんの機体には何もしていないよ。ちょっとだけ、パナ子さんが敵を近接戦闘で仕留め易くしただけだよ』


 パナ子の微妙な表情の変化に気づかないまま、爽やかに説明するケン。

 

『……それって』


 瞳から光が急速に失われていくパナ子(*あくまでもタブレット端末画面内の描写)。


『そう!パナ子さんの機体を速やかに巨大ワームの中まで誘導してあげたんだけど、わかったかな?』


 気付かないまま、ニコニコと顔を覗き込むケン。


『……そう。私の機体の足を掴んでワームの眼前に放り投げたアレね。……よく分かったわ』


 遂に身体から闇のオーラが漏れ出てくるパナ子。


『分ってくれて嬉しい、よっ?』


 遂に気付いたのか、ビクッと声が上擦るケン。



 次の瞬間、サキモリのコクピットから、やや強めの紫電が隣のパワードスーツコクピットへ向けて放たれ、高瀬機のパワードスーツを整備していた隊員達が慌てて機体から距離を取ったが、報告書作成に没頭していた高瀬中佐だけが僅かに反応が遅れてしまう。


『あ・り・が・と・う、ですのっ!』


 まるで暗黒卿の様に指先からバリバリと放たれる紫電(*あくまでもタブレット端末画面内の描写)。


「『あばばばば』」


 タブレット端末内外で紫電に感電して痺れるケンと高瀬中佐。



『ふんっ!』


『相変わらず、痺れるくらいに素敵だよパナ子さん……』

「なんで俺まで……」


 そっぽを向くソフィー大尉とパナ子が操る『サキモリ』の傍らで、プスプスと薄い煙を上げる高瀬機と足元で気絶する高瀬中佐を、整備隊員が呆れたような眼差しで避けながら作業を再開していくのだった。


          ☨          ☨          ☨


――――――同時刻【『ホワイトピース』艦橋】


 艦長の名取少将は、急遽乗艦してきたイスラエル連邦軍戦艦『ベングリオン』艦長を務めるマイケル・バーネット陸軍中将と握手を交わしていた。

 バーネット中将は僅かな護衛だけを連れて乗艦しており、ホワイトピースを制圧しようとする意図は無さそうだった。


 だが、艦橋から50m程離れた前方の低空には、完全重装備のイスラエル連邦軍所属WB21空中戦闘砲台が2機、並んで飛行しており、更に100m前方に4機が編隊を組んでホワイトピースを誘導する様に飛行しており、空中砲台の母艦であるイスラエル連邦軍戦艦は、ホワイトピースの直ぐ後方を航行している様だ。

 ブリッジの後部モニター画面には、イスラエル連邦軍戦艦が3連装砲塔を此方へ向けているのが映っている。


「ようこそ『ホワイトピース』へ」


 それでも作り笑顔で出向かる名取艦長。


「これがマルス・アカデミー技術を応用した多目的戦艦ですか……。大したものだ」


「海上をホバー走行する画期的な巨大戦艦である貴艦に比べれば、まだまだです」

謙遜する名取。


「何をおっしゃる。貴艦には、あの新型機動兵器が搭載されているでは有りませんか。是非とも実物を拝見したいものだ」


 興味深そうな顔で名取を伺うバーネット中将。


「ところで中将自らご来艦、光栄でありますが、本艦に何かご用でありますか?」


 さり気無く重要機密となる兵器を調査したいと仄めかす中将に、警戒した名取が話題を逸らす。


「うむ。貴艦は日本国自衛隊の最新鋭機動戦艦であり、最強の機動兵器を搭載していると聞いている。

 地球連合防衛軍の中でも最重要な貴艦をエリア・富士まで護衛するのが、司令部が私に下した任務なのだ」

鷹揚に応えるバーネット中将。


「手厚いご対応に感謝いたします。

 それにしても、貴国にこの様な素晴らしい戦艦が在るとは知りませんでした。自分の認識不足を恥じるばかりです」


「いや、少将がご存知ないのは無理もない。『ベングリオン』は先週”成都”で完成したばかりですからな。慣熟運用をするために『成都』の基地を出てこのエリアまで足を伸ばしていたのですよ」


 バーネット中将から、何故かシャドウ帝国第11都市の名前が出た事に眉を顰める名取。


「確か、シャドウ帝国軍にもホバークラフト戦艦が在ったと北米攻略部隊から報告にありましたが、早速運用されているとは。貴国のご慧眼には恐れ入ります」


 探りを入れるべくわざとへりくだる名取。


「いやいや。これは我がイスラエル連邦の"新しい友人"からの贈り物でしてね。

 北米のエリア51が壊滅して奴らが緩やかな破滅に直面していた時、()()()()、わが軍が救難信号を捉えて物資を支援した見返りとして、彼らから贈られた"友好の証"なのですよ」


 名取の態度に気を良くして自慢げに話すバーネット中将。


「その様な興味深い話は初めて聴きました。是非とも地球連合各国で共有すべき情報ですね」

頷く名取。


「ええ。間もなくそれが実現して、大いなる絶対神ヤハウェイのお導きにより、全ての人類が地球復興に邁進する事になるでしょう」


 恍惚の表情を浮かべながら高揚した口調で名取に告げるバーネット中将だった。


 3時間後、エリア・富士に到着したホワイトピースは補給を終えた後、イスラエル連邦軍司令部の唐突な命令によって搭乗員の艦内待機を命じられるのだった。


          ☨          ☨          ☨


――――――同時刻【北米大陸 エドワード橋頭保司令部】


「ロイド提督、ジョーンズ中将。我々陸上自衛隊第7師団はタカマガハラへ移動する事となりました!お世話になりました!」


 地球派遣群司令の鷹匠准将が移動前の挨拶で司令部を訪れていた。


「む。ミスター鷹匠は火星へ帰るのではないのかね?」


 答礼しつつも、意外そうな顔で尋ねるユニオンシティ防衛軍司令のジョーンズ中将。


「火星日本国の国会召喚から戻って来たばかりと言うのに、忙しい事ですな……」

同情気味のロイド提督。


「実は、極東『タカマガハラ』のイスラエル連邦軍司令部から連絡を受けまして。

 衛星軌道で待機していた強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』が緊急事態で日本海に不時着水して、イスラエル連邦軍保護下にある様です。そちらへの対応をしなければなりません」

鷹匠が肩を竦めながら応える。


「それにしても、シャドウ帝国指導部が壊滅した今、地球で新たな戦争が起こる可能性は低い。それなのに何故、日本自衛隊の地球撤収が行われないのか不思議だな」

怪訝そうなジョーンズ中将。


「我が部隊はこれからイングランド島を復興させ、やがてヨーロッパをも再生させなければならないし、ジョーンズ中将の部隊も北米を復興させなくてはならないから、この地に留まるのは当然だ。

 だが、貴官率いる師団のお国は火星に在るではないか。何故、地球に留まらねばならないのか理由が分かりませんね……」

眉を顰めるロイド提督。


「まさか、貴国自衛隊がかつてイラクで成し遂げた"復興支援PKF"というものへの移行含みなのか?」


「いや。それならば尚の事、機甲師団は必要ないだろう?戦車や自走砲で治安維持を行うのかね?クレイジーだ!」


 疑問を述べるロイド提督と呆れた様な反応をするジョーンズ中将。


 いろいろとお互いの見解を言い合う二人を見ながら、火星日本列島で何かが起きているに違いないと確信する鷹匠だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソフィー・マクドネル=日本国自衛隊特殊機動団パワードスーツ『サキモリ』パイロット。17歳、女性。ユニオンシティ防衛軍出身。

挿絵(By みてみん)

*イラストは鈴木 プラモ様です。


・パナ子=機動兵器サキモリの機体制御システム担当人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊特殊機動団隊長。パワードスーツパイロット。


・ケン=高瀬中佐の乗るパワードスーツに装備された機体制御AI。

 公益財団法人 理化学研究所(理研)が開発した人工知能で、美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでパナ子とゴールインした。天体観測を生かした遠距離射撃が得意。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・名取=日本国航空・宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長。准将。

・鷹匠=地球連合防衛軍 北米大陸攻略作戦司令官。日本国自衛隊地球派遣群司令。准将。


・ロイド・サー・ランカスター=地球連合防衛軍欧州抵抗部隊指揮官。英国連邦極東軍中将。

・ジョーンズ=ユニオンシティ防衛軍司令官。中将。

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