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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 変わる世界
225/462

招待

2026年(令和8年)11月7日6時40分【火星日本列島 京都府舞鶴市沖80kmの日本海 英国連邦極東海軍航空母艦『クイーン・エリザベスⅡ』】


 白波を立てて冬の日本海を西へ向かう航空母艦甲板で、水兵に混じってジャージ姿で朝のラジオ体操に勤しむ二人の日本人女性が居た。


「……うぅ。寒っ!風冷たっ!眠いっ!」


 ぶつぶつと文句を言いつつも、身体を動かす琴乃羽美琴。


「健康な身体は毎朝の体操から始まるのです!」


 琴乃羽の隣で溌剌とラジオ体操の音楽に合わせて身体を捻る岬渚紗。


「……朝から叩き起こされて、寒い中で体操なんて。……こんな事なら仁志野さんの家でゴロゴロしていれば良かった」


 ぼやく琴乃羽が、既に体力が尽きてきたのか、ラジオ体操リズムよりも遅い動きで腰に手をやって身体を後ろに反らす。


「……あのね、美琴。私達は今、社員寮を追い出された家無し子なんですから、大月社長のおじ様宅に居候しているのですよ?

 NEWイワフネハウスみたいに一日中ゴロゴロ出来る訳無いでしょうに」

呆れてため息を吐きながら諭す岬。


「……そうね。まあ、でも、せっかく貯まっていた有給休暇を消化する意味でも、このツアーに参加出来たのは良い気分転換なのかもね」

深呼吸をして息を整える琴乃羽。


 先日、長崎県観光協会からリピーター向けに『五島列島海獣襲来記念、クイーン・エリザベスⅡで行く日本列島周回謝罪ツアー』という、何とも言い難いセンスの招待状が送られて来たのである。


「旅行サイトだと"イギリス空母日本一周クルーズ"は抽選倍率が200倍を超える意外な人気ツアーなんですから、楽しまないと損ですよ?

 って、次は第2体操なんですけどっ!」


 勝手にラジオ体操を終えようとしている琴乃羽に突っ込む岬。


「え?第2体操なんて有ったっけ?」


 キョトンと首を傾げる琴乃羽。

 小学生の頃から運動音痴を自覚していた琴乃羽に、朝からラジオ体操に勤しむ習慣は無かった。


「……イギリス空母の甲板で日本のラジオ体操なんて、変な感じ」


 真面目に第2体操をする岬や水兵達を見回して呟く琴乃羽。


「そんなに、変ですかね?

 アメリカ空母の、ロナルド・レーガンでも、4年前から、流行ってましたよ?」


 琴乃羽と会話しつつも、両腕を開いて勢いよく上へつき上げながら両足を軽く屈伸する岬。若干、息が荒くなってきたのは運動不足故か。


「全国同時に朝のラジオ体操なんて日本独自の文化だと思っていたけれど、外国の軍艦で広まっているなんてね」


 不思議そうに呟く琴乃羽は、岬の突っ込みを受け流しながら既に体育座りをして見物人の振りを決め込んでいた。


 息が上がりつつも、最後までラジオ体操を終えた岬と体育座りをしていた琴乃羽達に、高級士官の軍服を着た中年男性が歩み寄ってきた。


「おはようございます、レディ」

丁寧なお辞儀をする高級士官。


「……ごきげんよう、艦長」


 口調はお淑やかだが、体育座りのままで応える琴乃羽。


「おや?目敏いですな」

感心する艦長。


「艦長自ら観光客の接待をなさっていらっしゃるのですか!?」

軽く驚く岬。


「この日本一周クルーズは、英国連邦極東の重要な外貨獲得任務ですから」

営業スマイルの艦長。


「そう言えば、以前五島列島へバカンスに行った時も綺麗に島の設備が整備されていましたね」

納得した様に頷く岬。


「それで、建前は置いておくとして、艦長自らお声がけに来られた理由は?」


 体育座りから立ちあがりながら訊く琴乃羽。


「申し訳ございませんが、ツアースケジュールが変更となりました。お二人には朝食後、艦載ヘリで此処から長崎佐世保のダウニングタウンへ向かって頂きます」


 営業スマイルのまま、勧告する艦長。


「あら、オプションは頼んでいないのですが?」

首を傾げる岬。


「こちらのオプションは"当社のオーナー"から是非とも受けて頂きたいとの事で……未知の生物を研究する体験教室ですが――――――」


「行きますっ!今、すぐにでもっ!」


 突如目の色を変えて尺変した岬が、喰いつき気味に艦長へ迫る。

 歴戦の強者である筈の英国紳士が、岬の尺変ぶりに思わず一歩引く。


「はっ!?失礼しました艦長。

 オプションツアー、謹んでお引き受けいたしますわ」

ふと我に返った岬が、取り繕うようにおほほと上品に微笑む。


 営業スマイルを崩す事は無かったものの、冷や汗を垂らしながら艦橋へ戻っていく艦長を見送る二人。


「……美琴。オーナーって、"ケビン首相"の事だよね?一応、大月社長に連絡しておきましょう」

「……渚紗。大月さんはもう社長じゃないのだから。でも一応、連絡しておいた方がいいかもね。

 間違いなく火星生物絡みのトラブルでしょうし……」


 未だに大月満を社長と呼ぶ岬に注視しながら、甲板下に在る客室へ向かいながら琴乃羽は思考を速めていく。


「……なんか、嫌な予感がする」

呟く琴乃羽。


 1時間後、岬と琴乃羽を乗せた艦載ヘリコプターが空母から飛び立つと、一路長崎県佐世保市ダウニングタウンに在る、英国連邦極東首相官邸へ向かった。


 ダウニングタウンで彼女達に面会したケビン首相は、地球極東の新日本海で討伐した巨大ワームの細胞分析と言う建前で、秘かに新日本海で採取された操縦士の体液から採取された遺伝子と、かつてナスカ基地攻略時に捕虜となった黄少佐の遺伝子分析を依頼するのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・岬 渚紗=ミツル商事海洋養殖部門、医療開発部門担当。海洋生物学博士。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・琴乃羽 美鶴=ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

イラストはイラストレーター更江様です。

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