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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 変わる世界
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謀略

2026年(令和8年)11月9日【地球極東 『タカマガハラ』エリア・富士 イスラエル連邦首相官邸】


 イスラエル連邦首相ベンジャミン・ニタニエフは、執務室で火星日本列島に居る立憲地球党の我妻代表から急に架かって来た電話に応対していた。


 首相執務室の壁に備え付けられたテレビからは、対馬市で起きた爆発を速報する火星NHK放送が流れている。


『—――—――この爆発で、演説を聴こうと集まっていた市民や警護官を含む24人が即死、155人が重軽傷を負って病院へ搬送されました。

 また、爆発に巻き込まれた澁澤総理大臣は対馬市総合病院に搬送された模様ですが、詳しい容態は不明です。

 警察関係者によりますと、爆発が起きた場所からプラスチック爆弾と思われる破片が収集されており、今回の爆発は自爆テロである可能性が高いとの事です』


「—――—――ええ、お気の毒です。貴国国民の犠牲者に哀悼の意を表します。

 また、澁澤首相の一刻も早い回復をお祈りしております。イスラエル連邦共和国は、貴国と共に在ります……」


 通話先の相手に弔意を伝える、イスラエル連邦共和国首相ベンジャミン・ニタニエフだった。


『ニタニエフ首相閣下の丁重なお悔やみに感謝します。

 ところで、私は"そこまで"やって欲しいとお願いしたつもりは有りませんぞ!私は、情報提供をお願いしただけであって、決して暗殺など――――――』


「そこまでです!ミスターアガツマ」


 ぴしゃりと我妻の言葉を遮るニタニエフ。


「この回線は通常回線ですよ?用心して頂きたいですな。

 それに、我が国はこの"テロ"に関与しておりません!言い掛かりも甚だしい」

冷徹に応えるニタニエフ。


『ですが、首相の対馬市訪問予定を閣下に知らせたのは私の――――――』

「ですから!その様な陰謀に我が国は関与しておりません。ミスターアガツマは小説の読み過ぎではありませんか?」


 尚も問いかける我妻の言葉を再度遮りながら、襲撃関与を強く否定するニタニエフ首相。


「—――—――そんな事よりも、1週間後は投票日ですよ?その様な辛気臭い雰囲気で、選挙対策本部へ出向いてマスメディアの取材に応じるおつもりですか?

 貴方は来週には日本国内閣総理大臣となられるお方でしょうに。堂々として頂かないと、我が国としても、地球連合防衛条約加盟国の一員としても、人類の未来に不安を抱いてしまいますぞ?」


『……そうでした。取り乱してしまい申し訳ない。ニタニエフ首相閣下』


「そうです。その調子です。

 貴党の勝利が確定した段階で、あらためてお祝いをお伝えさせて頂こうと考えています。

 そして、情報提供の対価についてはミスター・アガツマの誠実なご判断を心より願っておりますよ?それでは……」


 我妻の返事を待たずに受話器を戻すニタニエフ。


「……やれやれ。タロウとは胆力の差が歴然としているな」


 通話を終え、応接セットのソファーにどっかと持たれながら呟くニタニエフ首相。


「……しかも、通常回線で不用意な会話をしてしまう無神経さ。

 あれでは、日本国も長くは持たんぞ?あんな政治家を支持する日本国民は、まさに平和ボケの極みに在ると言えるな」


 他国の事ながら、首脳としての脇の甘さと国民の甘い認識を酷評するニタニエフ。


「ですが、わが国が主体で地球復興を推し進めるには日本国の"協力"は必要不可欠です」

ニタニエフの対面に座るモサド(諜報特務庁)長官が応える。


「分っている。……アガツマを確実に首相に据えるには、もう一工夫必要だろう?」

「ええ。その工夫も間もなく整うでしょう」


 ニタニエフの問いに答えるモサド長官。


 立憲地球党の我妻党首がニタニエフ首相に電話した1時間後、自由維新党の後白河政徳外務大臣が緊急電話会談をニタニエフ首相に申し込んでいた。


          ☨          ☨          ☨


 澁澤総理大臣は青年が自爆する直前、目の前に飛び込んできた警護官の身体が爆発から身を守る盾となったお陰で、即死は免れたものの、鉄片が太腿と腹部を貫通し、大量出血のショック状態で対馬市総合病院へ搬送されていた。

 集中治療室で医師団による懸命な処置が行われたが、大量の内出血が臓器不全を引き起こし、意識不明の重体であった。


 長崎県警と警察庁は自爆犯の遺留品から、第二次朝鮮戦争当時日本旅行中だった朝鮮半島出身者の身元を特定、自爆現場と死傷者の状況から自爆犯はTNT火薬20Kg相当の高性能プラスチック爆弾を衣服に纏って使用したと解析された。


 警察・公安は大量の高性能プラスチック爆弾の入手ルートを辿るべく、警察組織の総力を挙げて捜査を開始した。


 対馬市で起きた自爆テロによる澁澤首相暗殺未遂事件は、政治的安定を当たり前の日常だと思い込んでいた日本国民を激しく動揺させ、ネットでは有力な政敵だった立憲地球党が黒幕に違いないと、まことしやかな噂が流れた結果、同党HPに全国から批判・抗議メールが殺到した。

 東京代々木の立憲地球党党本部にも怒り狂った自由維新党支持者が半ば暴徒化して詰めかけ、警備中の機動隊や駆けつけた立憲地球党支持者と激しい揉み合いに発展した。


 両政党支持者による衝突が都内各地に飛び火して、大規模騒乱に発展する事態を恐れた日本国政府は戒厳令を東京都心部に布告、陸上自衛隊が首都圏近郊にある各駐屯地から出動、都内要所に治安維持部隊として配置された。


 澁澤首相暗殺未遂事件を機に、日本国内は一気に不穏な情勢に陥るのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m

 

【このお話の登場人物】

・我妻=立憲地球党代表。

・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦共和国首相。

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