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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
216/462

第11都市防衛戦

2026年(令和8年)10月17日【地球アジア地区 人類統合第11都市『成都』(旧中華人民共和国 四川省)】


 都市代表戦死によって都市機能中枢に電力供給していた原子炉が停止し、それと同時に襲撃してくる巨大ワームとの攻防戦が始まって2か月が経過していた。


 成都防衛戦最初の1か月で僅かに生き残っていた学徒兵とベテラン兵士が全滅、羅大佐の呼び掛けに応えた素人同然の市民が武器を手に奮戦していたものの、主動力源や燃料が枯渇した状況下での抵抗は限られていた。


 人類統合第11都市『成都』を守るべく、都市外縁部にロシア製T72戦車が数珠繋ぎの如く車列を幾つも形成して砲塔を都市外縁に向けている。車列の合間には155mm野戦砲が砲口を最適と言われる45度では無く、敢えて”水平方向”へ向け、外部から襲来する巨大ワームを迎撃すべく待機していた。


 これらの戦車や野戦砲を操作しているのは、茶色の人民服を着た一般市民の老若男女だった。


 戦車部隊内側の都市建物の屋上にもロシア製対戦車ミサイルRPG-7や対戦車ライフルを構えた人民服姿の一般市民である老若男女が顔を強張らせ、都市外縁の荒野を見つめている。

 建物の中層階にも、空き瓶にアルコールや化学燃料を詰めた”モロトフ・カクテル”※=火炎瓶を足元に並べて投擲準備に勤しむ多数の市民が居る。


「第1小隊から第5小隊はポイントE1からE3、第6小隊から第10小隊はE4からE6に侵入した巨大ワームだけを狙え!

 砲弾節約と敵に隙を見せないように、偶数部隊が先制攻撃、奇数部隊は偶数部隊が撃ち漏らした奴を撃て!」


 羅大佐が都市内に張り巡らされていた広報用スピーカーで部隊に作戦指示を出していく。


「各小隊に告ぐ。

 都市燃料が枯渇に近い状態だ。戦車砲弾は有るが、移動させる燃料が無い。よって戦車は固定砲台だと思え。

 義勇兵市民諸君は建物上層階から巨大ワームを狙い撃て。地面に直接降り立っての迎撃は巨大ワームに喰ってくれと言わんばかりの愚行だ。

 市民諸君が防衛している間、私は他都市に救援要請を送り続ける。我々はまだ負けてはいないのだ!第11都市万歳マンセー!」


 羅大佐が各部隊への指示を終えた直後、都市外縁の河川跡から巨大ワーム群が砂塵を噴き上げて現れると一斉に成都へ襲いかかる。


          ☨          ☨          ☨


――――――攻防戦開始1時間後。


 襲撃を受けた当初は必死の集中砲火で巨大ワーム群を撃退し続けていた戦車・砲兵部隊だったが、絶え間ない襲撃に疲労から集中力を途切れさせた市民が戦車砲の発射を途切れさせた隙間、巨大ワームが戦車部隊に体当たりで突入し、戦車や野戦砲を薙ぎ倒し巨体の下敷きにしながら車列を突破すると、雪崩れ込むように成都市街地へ侵入していく。


「羅大佐!巨大ワームが都市外周に配置していた戦車・砲兵部隊を突破。市街地に侵入しました」


 都市中心部ピラミッド上層から双眼鏡で防衛線を確認していた羅大佐に通信機を背負った初老の市民が駆け寄って報告する。


「……市民を総動員したが、ダメだったか」


 落胆する羅大佐。


 市街地に侵入して街路をうねりながら進む巨大ワームに向け、街路に面した建物から市民が火炎瓶を投げつけるが、小さな火炎瓶が破裂した所で巨大ワームには痛痒も感じさせる事も叶わず、巨大ワーム群は外壁を突き破って建物内の市民を吸い込み、蹂躙しながらピラミッド近隣まで迫っていた。


「……『誰でもいいから助けてくれ!』と通信機に向かってヤケクソで言ってみたが、奇跡など起きないな。もはやこれまでか」


 諦めた瞬間にどっと出た疲れでピラミッド上層の展望台の床に座り込んでしまう羅大佐。

 

 座り込んだ羅大佐が視線を市街地から曇り空に向けて思考を手放そうとした瞬間、羅大佐の頭上を物凄いスピードと轟音で幾つもの飛行物体が飛び去っていく。


 飛行物体が飛び去った後には、もっともピラミッドに迫っていた巨大ワームが巨体を幾つにも切断されて斃されていた。


「……なんだ!?第12都市からの援軍か」


 我に返って飛行物体を良く視ようと立ち上がる羅大佐。


 羅大佐の頭上を猛スピードで飛び去ったWB21空中戦闘砲台の編隊が都市上空を旋回すると、ピラミッドに迫ろうとする巨大ワームに次々とロケット弾や30mmバルカン砲を掃射して巨大ワームを駆逐していく。


「上空を飛行しているパイロットへ。こちら人類統合第11都市『成都』防衛司令官の羅大佐である。援軍感謝する。貴官らの所属都市は何処だ?」


 傍らにいた初老の市民から受け取った通信機から、全周波数帯を使って呼び掛ける羅大佐。

 羅大佐が呼び掛ける間にも、上空を飛び回る空中戦闘砲台は都市内部に侵入した巨大ワームを掃討し続ける。


 機敏に飛び回ってミサイルやガトリングガンを撃ち放つ空中戦闘砲台以外にも、都市外部から超音速で飛来する青白い光の矢が都市内を徘徊する巨大ワームをピンポイントで貫いていく。


「……あれは。レールガンか?」


 視察先の第5都市バイコヌールで見た陸上戦艦がデモンストレーションで放ったものとは輝きや威力が違う様に羅大佐には見えた。


『—――—――こちらイスラエル連邦大陸派遣軍、マイケル・バーネット陸軍中将である』


 都市外部から飛来し続ける青白く輝く光の矢に見とれていた羅大佐に通信機から明瞭な英語で返答が来る。


「イスラエル連邦、ですか」

『そうだ。我々イスラエル連邦軍は貴官の呼び掛けに応えたものである。まずは、この都市を襲撃している巨大ワームを始末しようじゃないか。

 その際、巨大ワームに抵抗している市民が戦闘に巻き込まれる恐れがある。至急、装備をその場に置いてピラミッドに集まってもらいたい。以上だ――――――』


 西側諸国の中でもあまり聞き慣れない国名に首を傾げる羅大佐に、バーネット陸軍中将が指示を出して通信が終わる。

 

「羅大佐から全市民に告ぐ。戦闘停止!友軍が巨大ワームを迎撃している。双方の誤射を避ける為、直ちに武器をその場に置いて中央ピラミッドに集合せよ!」


 18万人の成都市民を指揮する重圧と絶望的戦いによる極度の緊張と疲労から解放された直後の羅大佐は、バーネット陸軍中将との通信内容が限りなく”武装解除勧告”に近い内容である事に思い至らないまま、市民に戦闘停止と武装解除してピラミッドへの集合を呼び掛けるのだった。


 ピラミッドへの集合を市民に呼び掛ける羅大佐の視界に、東の龍門山脈から飛来するマンスフィールド級空中戦艦と空中輸送艦からなる十数隻の空中艦隊が入ろうとしていた。


2026年(令和8年)10月17日、人類統合第11都市『成都』はイスラエル連邦軍の保護下に入るのだった。



※モロトフ・カクテル=1939年末に勃発したソヴィエトとフィンランドの戦争(冬戦争)におけるソヴィエト外相モロトフの強弁に対し、フィンランド国民がウォッカ(カクテル)の入った火炎瓶でソヴィエト軍に応酬した出来事が由来。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。大佐。

マイケル・バーネット=イスラエル連邦軍陸軍中将。大陸派遣軍司令官。

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