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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
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墓参

2026年(令和8年)9月18日 午前9時【神奈川県横浜市中区山手 外国人墓地】


 横浜港を望む丘の一角に在る外国人墓地の片隅に作られた、新しい墓標の前に立つ大月家とミツル商事一同。


 墓標は一枚の石板が埋め込まれたものであり、地球欧州英国上空で戦死したワイズマン中佐のものである。


 満は、ワイズマンの墓標に花を手向け、お供えを置くと線香を焚いて両手を合わせる。


 多分、ワイズマン中佐はユダヤ教徒でも無かった。もっとも、仏教徒でもないのだが……。

 だからこの際、悼む気持ちのままに皆が好きにお参りすれば良いと思う満。


 ワイズマンの遺品整理をした際、宗教系の私物が何一つ無かった事からも、彼の無宗教的傾向が伺える。

 瑠奈もワイズマンと行動を共にしていた期間、彼がお祈りをした姿を視ていなかったという。


 満がワイズマン中佐の墓標に語りかける。


「中佐は瑠奈に出会って物凄く大変だったろうね。今まで瑠奈を、皆を守ってくれてありがとう。どうか安らかにお休みください……」


 満は手を合わせて冥福を祈ると一歩下がってひかりや美衣子、岬達に場所を譲り、ひかり達は花輪や線香、おはぎを供えると、それぞれ手を合わせるなり黙祷していく。


 祈りを奉げる彼女達の後姿を見ながらワイズマンの冥福を祈りつつ、ふと今までの思い出に耽る満。


……あの時、ひかりと一緒に登った尖山で美衣子に出会った事で、人生が一変した。自分の人生だけに留まらず、火星に転移した日本列島や、残された地球の将来が物凄く変わってしまったと思う。別に悪い意味で言っているんじゃなくて。


 取りとめもなく思索を続ける満。


……今までは周りに突き動かされて流される様に生きて来たと思うし、これからもそれは変わらないだろう。

 自分らしく生きる事の意味なんて、まだまだ漠然とし過ぎて分かっていないけれども、今は美衣子達マルス・アカデミーと地球人類の交流が円満に続く様に、地道に働きたいと思っている……。


……別に何か大きな事を成し遂げたいとか、名前を後世に残すとか、そんな事は考えてない。

 自分に納得して、恥ずかしくない生き方がこれかな?と思っている感じだ。


 満が心の中で長い独白を終えると、いつの間にか傍らにひかりが立っていた。


 ひかりは黙って満の右腕を取ると、寄り添って頭を満の肩に預ける。

 それを見た美衣子、結、瑠奈が満の背中や左腕にしがみ付く。

 腰に来る重圧を根性で耐える満だが、最近は三姉妹の甘えっぷりが増したと言うべきか、割とこのパターンが多くて踏ん張りどころが分かってきたかもしれない。


 JR山手駅に続く坂道を下りながら満の心の中では、これからの人生でひかりと共に歩みながら美衣子達三姉妹を守る為に必要な事は何か、あらためて考え直してみようと思うのだった。


          ☨          ☨          ☨


2026年(令和8年)9月20日【東京都千代田区永田町 首相官邸総理大臣執務室】


『シャドウ帝国軍の”レールガン”という危険極まりない兵器があるにも関わらず、貴方は何故、事前に戦車部隊前面に出て、空中戦艦の電磁シールドを展開させなかったのですか!?』

詰問する立憲地球党の我妻代表。


「……マンスフィールド級空中戦艦は水素燃料の消費が早い為に、稼働時間が1時間弱と短いのです。

 その上電磁シールドを展開すると更に燃料消費が加速してしまい、実働25分が限界です。戦闘発生前の段階でシールドを展開してしまうと、戦闘中に燃料切れを起こしてシールドが消失、敵の攻撃を防ぐ事が困難となる可能性が有り現実的では有りません」


 強張った顔で答弁する地球派遣群司令の鷹匠准将。


『では、貴方は戦闘開始までの間に自衛隊員の命が無為に失われる事を知りながら、無謀とも言える作戦を強行したのですね?

 貴方はこの21世紀に、先の大戦最大の愚行として知られる"インパール作戦"を再現してしまった。相違有りませんね?』

詰問を続ける我妻代表。


 執務室の卓上テレビでは、北米攻略作戦指揮官を務めた鷹匠准将の証人喚問中継が流されており、野党である立憲地球党の我妻代表が執拗な質問を繰り返し、鷹匠准将が懸命に答える場面が続いていた。


「これじゃいかん。……解散しよう」


 苦々しい顔でテレビを視ながら呟く澁澤総理大臣の一言に眉を顰めた岩崎官房長官が確認する。


「総理。本当に解散するおつもりですか?」

岩崎官房長官が確認する。


「ああ、やるとも。

 これ以上、無意味な証人喚問による”軍事素人”の突き上げで現場自衛官の活動を妨げてはならん。作戦内容の精査は外部のプロに任せるべきだ。

 証人喚問は最早、野党を目立たせるだけの政治ショーになり下がってしまっている」


 戦闘中には見せる事が無かった苦渋に満ちた表情で答弁を続ける鷹匠准将を痛まし気に見る澁澤。


「これから木星へ逃亡したダグリウスを追跡するに当たり、これ以上政治的に足を引っ張る輩を野放しにするのは限界だろう……。

 "今回は"自衛隊がやり玉に上げられたが、次はAIの軍事利用で我妻と対立していた経済産業省か、植物化人類治療を進めようとしている厚生労働省かもしれん。

 その度にいちいち対応していては、いざという時に動けん。此処で終いにするぞ!」


 断固として言い放つ澁澤総理大臣だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ミツル商事社長。

・大月ひかり=ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・澁澤 太郎=日本国総理大臣。自由維新党総裁。

・岩崎 正宗=日本国内閣官房長官。

・鷹匠=日本国自衛隊地球派遣群、北米攻略作戦司令官。准将。

・我妻=立憲地球党代表。

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