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転移列島  作者: NAO
火星編 コンタクト
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再会

2021年9月3日午前5時30分【東京都千代田区 JR東京駅 28番線ホーム】


「大月さん!こっちです」


 ホームの売店近くにいた春日が手を振っている。


「おはよう。……早いな、春日は」


 ムスッとしながら、膨れ上がったリュックサックを抱えてドタドタと駆け寄るスーツ姿をした大月の息は荒い。


「ういっすです!春日」


 大月のすぐ後ろから、足取りも軽く颯爽と旅装を整えた西野が追いついた。


「まったくもー。だらしないですよぉ、”あなた"」


 いたずらっぽく笑いながら大月の乱れたスーツを整える西野。


「……あのなぁ。官房長官に電話で女房気取りを認められたくらいで、はしゃぐなよ」

荒い息を整えながら、照れ隠しのためか呆れたような反応をする大月。


「むーっ!そこは"いつもすまないねぇ"と返すお約束じゃないですかぁ!」

わざとらしく頬を膨らませる西野。


「……あー。お二人とも取り敢えず、お疲れ様です。出向早々、出張とはさすが首相官邸ですね!」


 目の前で夫婦漫才になりそうな展開を察した春日が、リア充を見たくないと言わんばかりに強引な話題切り替えを図る。


「そうだな。もっとも、事情が事情だけに対応できる人間は限られているしな……」

応える大月。


 首相官邸に出向した初日だった昨日、大月は日付が変わるまで首相官邸に留まって、東山と共にマルス人へ供給する物資の仕分けをしており、とっくに身支度を整えていた西野に叩き起こされるまで爆睡していた。

 ちなみに西野は内閣官房の手配で大月の隣の部屋を用意されており、昨日はほぼ定時で首相官邸から赤坂のホテルへ戻っている。出向初日で扱いが違う、と思い出した大月がムッとする。


「そうですね。でも、そうであればどうして新幹線なんです?政府専用ヘリとかで一気にいけないんですか?」

首を傾げる春日。


「言っただろ、春日。まだ異星人とのコンタクトは公表されていないんだ。ここで派手に動いたら騒ぎになるだろ?」

声を落として、真面目な顔で説明する大月。


「"あなた"駅弁はサンドイッチですか?それとも鱒寿しですかぁ?それとも、わたし?」


 のんびりした声で、いつの間にか駅弁の入ったビニール袋を掲げながら自らを指差す西野。


「マイペースな西野が羨ましいよ……」

シリアス顔を一気に緩ませる大月。


「えっと、俺の分は?」

淡い期待を抱いて尋ねる春日。


「春日君は釜めし弁当ね。1100円だから」


 素っ気無く別のビニール袋を手渡すと、手のひらを差し出して弁当代を請求する西野。


「酷いっ!」


 泣く泣く弁当代を支払いながら、首相官邸で公務員の彼女を探して楽隠居してやると悲壮な覚悟を抱く春日だった。


 そうこうしていうるちに、新潟行きの新幹線がホームに入ってくる。


「富山で降りるぞ。2時間ちょっとだな」


 大月は西野と春日に声をかけると新幹線に乗り込んで行き、ホクホク顔の西野とやさぐれ顔の春日も大月に続く。


          ♰          ♰          ♰


―――同日午前7時45分【富山県富山市から20Km沖合の日本海上空 航空自衛隊E3A早期警戒管制機】


「レーダーに感あり!北西からUFO急速接近!距離1200、速度マッハ1.3!」

索敵レーダーを操作していたクルーが声を上げる。


「こちらキャッスルリーダー。空域で展開中の各部隊に次ぐ、北西方向から客人だ」


 機長が来訪者の到着を告げる。


『ラセーヌ中隊のジャンヌよ。こちらは客人を目視で確認。凄いわね、本当にUFOそのものじゃない!』

感嘆の声を上げるユーロピア自治区空軍を率いるジャンヌ少佐。


 ジャンヌ少佐が操るラファール戦闘機部隊のすぐ傍を、猛烈なスピードで銀色に輝く円盤が通過していく。その形状は、鏡餅の様なフォルムをした典型的なアダムスキー型円盤だった。


『こちら「セオドア・ルーズベルト」。本艦の対空レーダーも客人を確認した。艦載機にエスコートさせる』


 富山湾に展開していた極東アメリカ合衆国海軍の空母からF18戦闘機部隊が発進すると、スピードをやや落としたアダムスキー型円盤に接近する。追いついたF18戦闘機は円盤の前方に出ると、翼を振って合図しながら尖山上空へとエスコートしていく。


「キャッスルリーダーからエスコート部隊へ。尖山上空までの進路はクリア。幸運を祈る」


 F18戦闘機部隊へ情報を伝えると、機長がヘッドホンを外して隣の副操縦士に呟く。


「何時から極東アメリカがリーダーになったんだ?奴さん達、未だに自分達の事を"世界の警察"だと思っているのか?」


「仕方ないでしょう。英国連邦極東やユーロピアの連中によると、NATOでも同じ振る舞いをしていたようですよ」

副操縦士が肩をすくめて応えた。


 各国の様々な思惑が交差する日本海上空を通過したアダムスキー型円盤は、F18戦闘機に先導されながら尖山上空に向けて飛んでいく。


 地上の富山市内は朝の通勤・通学時間帯であり、サラリーマンや学生の多くが轟音と共に上空を通過していく戦闘機部隊とその後に続く銀色のUFOを目撃して騒然となり110通報が相次ぐのだった。


          ♰          ♰          ♰


 尖山周辺は日本国自衛隊と在日極東アメリカ合衆国軍が封鎖し、両国の警戒ヘリも飛んでいた。


 富山駅に到着した大月から連絡を受けたイワフネは、尖山基地管理システムである『タカミムスビ』の自律防衛モードを解除する。

 周辺を覆っていた竜巻のような気流の乱れが収まると、台形型のピラミッドをした尖山の姿が露わとなる。


「こうやってあらためて見ると、やっぱり普通の山じゃないよなぁ……」


 尖山の登山道入り口で待機していた大月が、感嘆のため息をつく。

 大月の周囲には西野と春日の他に、首相官邸から駆け付けた東山と岩崎官房長官と数名のSPの他、お忍びで駆け付けた各国代表団の姿もあった。


「あっ!大月さん、あちらからUFOが!」


 上空から降ってくる轟音に耳をふさぐ大月の肩を叩いて、西の空を指さす春日。

 鏡餅の様な滑らかな形状のアダムスキー型円盤が尖山山頂に到着すると、山頂が陥没して山体内の基地に収容されていく。


「大月さん。私たちも行きましょうか」

岩崎官房長官が呼びかける。


 岩崎の呼びかけを聞いた大月が再び携帯で合図する。


「イワフネさん。私達もお願いします」


 尖山登山口で待機していた大月をはじめとする一団は、突然淡い水色の光に包まれるとフッと消え去り、少し離れたところで周囲を警戒していた富山県警の機動隊員達が唖然とする。


 大月達が登山口から尖山基地内部へ転送された15分後、澁澤総理大臣は緊急記者会見を開き、異星人と日本列島各国がコンタクトした事を公表した。


          ♰          ♰          ♰


―――同日午前10時10分【富山県立山市 尖山内部 マルス・アカデミー尖山基地】


 とても山の中にあるとは思えない広大な空間を、淡い水色に発光する金属質の壁が柔らかく照らし出している。


「……デカイな。この前とは違う場所だ」


 ぽかんと口を開けた大月がぽつりと呟く。隣で大月の袖を掴む西野は口を開けることはなかったが、驚きのあまり両目を見開いたままだ。

 春日や東山、岩崎官房長官をはじめとする政府側の面々も予想を超える光景に唖然として固まっている。


「此処は、地球各地を廻るために使う連絡艇の格納庫になります」

大月達一行を出迎えたイワフネが説明する。


「―――連絡艇の消毒作業が終了したので、間もなく此方へ降下してきます」


 携帯端末で受け入れ作業を確認したイワフネガ大月達一行に伝える。


 やがて広大な空間の天井の一角が低い駆動音と共に下降すると、直径15ⅿ程の銀色に輝く円盤が姿を現した。


「ジーザス!」


 岩崎の背後にいた各国代表団の数人が、感動のあまり小さな歓声を上げる。


「みなさんお静かに。此処は彼らの基地で、彼らはやっと同胞と再会するのです。好奇心に駆られて邪魔する場面ではありませんよ」


 背後を振り向いて注意する岩崎。


「大月さん。私達は少し下がって彼らを見守りましょう」


 岩崎官房長官は、大月に呼びかけると自ら踵を返して格納庫の壁際へと歩いていく。大月達も岩崎に続いて移動して異星人達の再開場面を眺めるのだった。


          ♰          ♰          ♰


 天井から降下してきたアダムスキー型円盤が格納庫の床に降り立ち、しばらくすると円盤の一部が切り取られたように扉形に浮かび上がると開く。

 円盤の中からは、白銀色の鱗に包まれた身長2m半ばの爬虫類人類2人が降り立つ。円盤に近寄っていたイワフネ達生き残りが二人を囲む。


「遅れて済まない、イワフネ」

アマトハが言った。


「大勢の乗組員を彗星から守れなかった。申し訳ない」

イワフネが沈痛な表情で謝罪する。


「地球人から貰ったデータを見た。あれは、避けようがない。

完全なAI制御|はあの頃の技術では難しいと思う。『ルンナ』は最善を尽くした。イワフネ、君もだよ。よく生き残ってくれた」

アマトハがイワフネ達生き残りを見回して、永年の苦労を労った。


 イワフネ達生存者は感極まって泣いていた。


「―――大月さん」


 しばらくするとイワフネが、基地の片隅で彼らをそっと見守っていた大月、岩崎達政府関係者に近づいてきた。


「心からありがとうと言わせてくれ」

イワフネが薄緑色の鱗に覆われた右手を差し出す。


「・・・どういたしまして」

大月がはにかみながら、両手でイワフネの右手をがっしりと握りしめた。


「貴方がイワフネを見つけてくれたのですね、ありがとう」


 イワフネに続いてアマトハが大月に歩み寄ると、彼の肩を軽く叩く。


「どういたしまして。きっかけは彼女が偶然作ってくれたのですよ」


 照れながら、隣に立つ西野ひかりを紹介する大月。


「まさか、磁石が狂った石をピラミッド状に積み上げただけで中に入れるとは思っても見なかったのですよ?」

西野が笑いながらアマトハとイワフネに話しかける。


「……そうでしたか。私達のエネルギー源は、貴女が言う"磁石が狂った石"を三角に積み上げることで賄っているのです」


 最後に大月と西野に近づいてきたゼイエスが言った。


「原理は後日、説明しましょう」

アマトハが会話を引き取った。


「楽しみです。これ以上同胞水入らずを邪魔するのは無でしょう。今日のところは帰りましょうか」


 いつの間にか二人の背後に近づいていた岩崎官房長官が言うと、大月を含めた日本側関係者が頷く。

 物足りなそうな、未練の残る表情を隠そうともしない極東アメリカや極東ロシアの代表団を宥めすかす岩崎や東山を横目で見ながら、イワフネに目配せする大月。


 僅かな間を置いて、地球人類側の一団は淡い水色の光に包まれると再び尖山登山口前まで転送されていった。

 大月や岩崎達日本列島各国代表団が待機していた陸自ヘリで尖山登山口から離れると、再びタカミムスビの自立防衛モードが作動して竜巻が山体を覆い隠していくのだった。


          ♰          ♰          ♰


 

 翌日早朝、アマトハ、ゼイエスとイワフネ達生き残りは尖山基地を一時閉鎖して、アダムスキー型円盤に乗り込むと日本列島を出てシドニア地区旧アカデミー本部へ向かった。


 旧アカデミー本部でアマトハとイワフネは、プレアデスアカデミー本部へ向けて恒星間通信で、ルンナ生存者の救出と第3惑星人類とのコンタクトを報告した。


『ご苦労だったな、アマトハ評議員、マスターゼイエス』


 ホログラムモニターの向こうに立つ、アカデミー評議会議長の重厚な声が響く。


「勿体ないお言葉です、議長。我々はルンナ生存者の救出のみならず、第3惑星人類と歴史的なコンタクトをなし得たのですから。永いマルス歴史上の転換点に立ち会えたことに誇りを持ちます」

アマトハが殊勝に応える。


『第3惑星人とのコンタクトについては、先般派遣したオウムアムル型救難艦到着まで2年間を文化交流、技術承継に充てることを決定した。生存者代表のイワフネに加え、君とゼイエスを臨時マルスアカデミー使節団に任命しよう。

 ところで・・・奴等が介入した兆しは見つかったかね?』


「いえ。ですがコンタクト時に収集したデータから第3惑星人の歴史を分析すると、明らかに不自然な技術革命、文明の不可解な滅亡が幾度も有りました。限り無く"クロ"に近いと私は判断します」

アマトハが決然とした表情で報告した。


『・・・やはり、そうであるか・・・。救難部隊隊長には君達の研究仲間であるリアを指名した。君達の連携に期待する。救難艦到着まで可能な限り、奴等の尻尾を掴んでくれ』


 アマトハは議長に頭を下げて了承の意を表すと通信を終えた。


「我々だけで奴等の尻尾を掴むのは人手不足だ・・・」


 アマトハは深いため息をつくのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の主な登場人物】


・大月 満 = 総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。

・西野 ひかり= 総合商社角紅社員。大月と同じ部署。内閣官房室に出向。

・春日 洋一= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌きは上手い。内閣官房室に出向。

・岩崎 正宗=日本国内閣官房長官。温和。

・イワフネ=マルス人。月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、地球に降ろされた。

・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。ゼイエスの善き理解者。

・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。

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