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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
208/462

収束

2026年(令和8年)8月18日午前3時【地球北米大陸 旧アメリカ合衆国ネバダ州グルームレイク 人類統合第1都市『エリア51』郊外上空 マンスフィールド級空中戦艦『播磨』】


 エリア51の地下ニュートロン施設から強烈な光と炎の柱が天空まで立ち昇り、暴走した原子加速器の閃光が辺り一帯を包み込んでから3時間が経過した。


 巨大な閃光が収まり、再び暗く寒い夜の闇が戻った中、もうもうと煙を吐き出す巨大クレーター外縁部に、東西から進撃した攻略部隊と支援の空中戦艦が到達し、残敵掃討と生存者の捜索を行っていた。


「クレーター内部の放射能レベル4、セシウム半減期は暫定で25年。クレーター内表面部に生体反応有りません!」


 計測機器に眼を凝らしながら報告するオペレーター。


「衛星軌道艦隊『ホワイトピース』から観測結果来ました!電波発信並びに作動している施設は皆無との事です」

情報通信担当オペレーターも報告する。


「あれだけの核爆発だ。まともな生物は生存できまい」


 オペレーターの報告に頷く鷹匠少将。


「ロッキー1から全攻略部隊へ告ぐ。

 これより、コンディションレッドからイエローへ移行する。化学防護部隊は西海岸エドワード橋頭保と最低限の補給路を確立、月面ユニオンシティに居る大月結宛て、放射能分解レーザー照射要請を出せ。放射能汚染を取り除かない限り、まともな地上活動は出来ないからな。

 放射能除去後、地上部隊は当地から西海岸エドワード橋頭保までの補給路を確保しつつ、周辺地域を偵察警戒せよ。エリア51以外の地域にも、南米・欧州地区から来ていたシャドウ帝国人類統合都市所属の部隊が居る筈だ。気を緩めるな!」


 当面の課題処理手順を確認しながら、残存勢力の抵抗を警戒する鷹匠少将だった。


「そう言えば、"協力者"とヤマタノオロチ的化け物は何処に居るのだ?」


ふと、エリア51消滅直前のシールドを展開した舞やマリネの事を思い出す鷹匠。


「巨大爆発収束と共にシールドは消滅、協力者も消えたままです……」

応える作戦将校。


「急に現れ、急に消え去る、か……」


 少しだけ協力者の消息が気になった鷹匠少将だったが、火星日本市ヶ谷への報告はもとより、世界各地から入電する連合防衛軍からの支援要請に忙殺された為に、協力者について考察する事が出来なかった。


          †          †          †


――――――同時刻【北米大陸西海岸 旧アメリカ合衆国カリフォルニア州 人類統合第2都市『バンデンバーグ』郊外 マンスフィールド級空中戦艦『レナウン』】


 "訪問者"である黄星姉妹の攻撃で都市中枢の防衛司令部を失い、シャドウ帝国首都であるエリア51からの交戦命令も途絶えた事で、僅かに生き残った学徒部隊は戦意を喪失、ロイド提督率いる部隊に降伏していた。


 レナウンから降下した少数の偵察部隊が、戦闘から帰還したWB21空中戦闘砲台が上空を警戒飛行する中、第2都市バンデンバーグへ進入していく。


『ロイド提督。都市中心部を探索しましたが、指揮官及び佐官クラスの者は溶解しています。さらに、此処の住民の健康状況は深刻です。必要な栄養素が、まるで足りていない様です』


 惨状を目の当たりにした黄少佐が強張った声で報告する。


 ロイド提督は、第3都市ナスカで救出した黄少佐に、降伏した部隊の管理と第2都市の状況把握を要請した。

 ロイド提督の要請を受けた黄少佐は、投降した学徒兵協力のもと、第2都市バンデンバーグ内部に足を踏み入れて都市の状況確認を行っていた。


 途中、何度も学徒兵達は体力消耗から倒れかけたが、黄少佐に随行していたロイド提督配下の衛生兵が、かつて黄少佐にも使った補助栄養剤を投与して応急処置を施している。


「それでは、都市住民の大部分が黄少佐が経験されたような飢餓状態であるという事ですね?」

確認するロイド提督。


『肯定です。提督。

 生き残った都市住民の大半が、住居から出歩く事もままならない状態です。

 おそらく、ここ数日は充分な栄養が補給されていなかったと思われます』


 1軒の住宅入り口から中を覗き、倒れ伏した住人を確認しながら報告する黄少佐。

 黄少佐の脇を通り過ぎて住宅内に入った衛生兵が、倒れている住人の状態を看る。

 衛生兵は住人の脈を取ると、黄に顔を向けて首を横へ振る。


『……速やかに、大規模な処置が必要です』


 希少薬品を含む多くの物資量を調達出来るのか不安になりながらも、状況を報告する黄少佐。


 空中戦艦『レナウン』のブリッジで、黄少佐とロイド提督のやり取りを聴いていた将校達は、其々の持ち場の計器を操作して、手元の必要物資量を再計算し始める。


「提督。わが部隊に余剰物資など有りませんが……どうなさるおつもりですか?」


 見積もりを終えた作戦将校が、躊躇いがちにロイドに尋ねる。


「この際、西海岸エドワード橋頭保を当てにするしかあるまい……。

 日本の自衛隊や東部五大湖のユニオンシティ部隊は、部隊の損耗が激しいから此方を顧みる余裕は無いだろう。だからと言って、何時までも此の地で足止めを受ける訳には行かんのだ」

応えるロイド提督。


「此処は一つ、”協力者”の力を借りねばならぬ様だ」


 そう呟いたブリッジの艦長席に座るロイド提督が後ろを振り返ると、さも、前から其処に居たかのように黄星姉妹が妖精バージョンで佇んでいた。


「こんな事もあろうかと~」


 のほほんと頬に手を当てて首を傾げる守美。


「呼ばれる前に登場している所が、ポイント高いのだぞっ!」


 腰に手を当ててふんぞり返る輝美。


「……ふむ。話が早くて助かる。お二人は、あの都市の住人を救う事が出来ますかな?」

単刀直入に訊くロイド提督。


「救う?」

首を傾げる守美。


「苦痛に塗れた悲惨な死ではなく、安らかな死をもたらして救うのですか~?

 それとも、死の運命から救われるかもですが、苦難の道を歩む未来を選びますか~?そもそも、それは貴方達が決める事なのですか~?」


 覗き込むようにロイドを見ながら訊き返す守美。


 思わぬ返答に一瞬虚を突かれたロイド提督だったが、苦笑すると頭をかく仕草をする。


「失礼しました、レディ。……私が驕っていた様です。

 時間はあまり残されていませんが、都市住民の意向を聴くとしましょう。バンデンバーグに入った黄少佐を呼び出して下さい」


 黄少佐を通じて意向を聴き出す事様に手配を急ぐロイド提督だった。


 2時間後、瀕死の人類統合第2都市バンデンバーグ住民は、生き延びる道を選ぶのだった。


          ☨          ☨          ☨


――――――【統合第2都市バンデンバーグ上空】


 ロイド提督から住民の選択結果を聴かされた黄星姉妹は、空中戦艦のブリッジから瞬時に都市上空へ転移して現れた。


「輝美ちん。此処の人達の生体細胞を、全てリセットして代謝速度を日本人並にすれば良いのよね~?」


 傍らに浮かぶ妹に尋ねる守美。


「15万を超えるクローン人間"各個"の細胞調整……ちょっと大変だぞっ!

 ”あんな身体”で生き延びたいだなんて。……信じられないのだぞっ!」


 理解し難い回答を得たと言わんばかりに頭を振る輝美。


「それでも、選択肢を提示したのは私達です~。間違っていましたかぁ~?」

首を傾げる守美。


「間違っていないのだぞっ!生きる権利は、全ての生物にあまねく与えられる物だぞっ!守姉は正しいのだぞっ!」

守美の選択を認める輝美。


「ただ守姉、此れを使うと暫くは……」

少しだけ神妙な顔になる輝美。


「そうですねぇ~。今まで"ホウライ世界到着"に備えて蓄えた力を、かなり消耗してしまいますねぇ~。

 とは言うものの、大月家の皆さんに地球人類世界滞在許可の為に贖罪を誓った手前、やると引き受けてしまった以上は、やるしかないのですよ~」

苦笑する守美。


「ふう……。まぁ、プリンとスイーツの為なら、仕方ないのだぞっ!」


 そう呟くと妖精形態の輝美が、頭上に暗黒球を出現させ、都市中心部へ移動させると次第に暗黒球を拡大させ、やがて都市全体をすっぽりと覆うように展開する。


「守姉!今っ!」


「はいなっ!後は任せるですぅ~」


 妖精形態で佇む守美の背中で金色に輝く羽から、一際大きい光の奔流が迸ると、輝美が形成した暗黒球へ吸い込まれる様に注ぎ込まれる。


 暗黒球に包まれていた統合第2都市バンデンバーグは、光の奔流を吸い込むと、幾度も内部の明滅を繰り返し、時折、周囲へ稲妻の様な紫電を放つ。

 やがて、暗黒球中心部から眩い白光が拡がって行き、暗黒球を内側から侵蝕する様に膨むと瞬時に拡散した。


 拡散した光が収まり、再び姿を現した都市に暗黒球による破壊が行われた形跡は見当たらなかった。

 

 『レナウン』から一部始終を視ていたロイド提督は、協力者姉妹の姿が見当たらず連絡も無い事から、直接状況を確認すべく、バンデンバーグに一人残って居た黄少佐へ連絡を入れると、空中戦艦を都市上空へと進めさせるのだった。


 衰弱して住居に伏せていた都市住民達は、空から響く轟音を耳にしてベットから起き上がって住居から出ると、轟音を響かせながら都市上空に現れた空中戦艦を、不安そうな表情で見上げるのだった。


「……助かった。怠かった身体が、嘘のように身軽に感じる……。恐らくは、あの異様な力を放つ妖精のおかげだと思うが……。

 さて。これから我々はどう生きて行くべきだろうか……」

空中戦艦を見上げて呟く黄少佐。


 協力者姉妹が繰り出した出鱈目な破壊力を目の当たりにしていた黄少佐は、地球連合防衛軍へ投降すべきだと住民を説得した手前、自ら都市住民の世話役をロイド提督に申し出ていた。


 黄少佐が人類統合第2都市指導部に代わり、自ら都市を率いる体験は未知の領域だが、生まれ変わった様な体長は黄少佐を前向きな気持ちにさせていた。

 そして、自ら生きる事を選択した第2都市住民は、自分達を導いていた指導部が存在しない世界への不安は大きいものの、自主的に考えると言う人生初めての体験に、ときめきさえ感じていたのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・黄星 守美=訪問者。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。北米攻略作戦では協力者として参戦した。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター しっぽ様です。


・黄星 輝美=訪問者。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。北米攻略作戦では協力者として参戦した。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター しっぽ様です。


・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東軍提督。欧州英国から陽動部隊として太平洋東部に展開し、統合第3都市ナスカ、第2都市バンデンバーグを攻略した。

・鷹匠=地球連合防衛軍 北米大陸攻略作戦司令官。日本国自衛隊地球派遣群司令。准将。

・黄 浩宇=少佐。人類統合第12都市『氷城(ハルピン)』防衛軍宇宙機動部隊パイロット。乗機のエンジントラブルでナスカ基地に緊急着陸した。ナスカ壊滅後、ロイド提督率いる攻略部隊に救助され捕虜となる。少佐。

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