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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
207/462

劫火

2026年(令和8年)8月17日22時【ラグランジュ・ポイント ユニオンシティ防衛軍 宇宙空母『サラトガ』】


 地球北米大陸のエリア51を攻略する衛星軌道艦隊への後方支援と月面都市の防衛を兼ねて、地球と月の中間地点に展開していた宇宙空母のブリッジは、数分前に突然発生した異常事態で恐慌状態に陥っていた。


「本艦の全システム、コントロール不能!こちらのコマンドを受け付けません!航法・指揮・通信システム使用不能!レーダーも駄目です!」

悲鳴のような叫びを上げるオペレーター。


「まさか、ハッキングされたのか!?」

愕然とする艦長。


「艦長!艦内隔壁が、次々と解除されていきます!」

副官が報告する。


『こちら格納庫!飛行甲板へ上がるエレベーターが勝手に作動しているぞ!戦闘機の発進準備も出来ていないのに、どうしてハッチを開けるんだ!?』

怒鳴り込む整備班長。


「おいっ!どうにかならんのか?いっその事、全艦の電源を落として再起動してみるか?」


 焦りの余り、アナログな解決法を口にする艦長。


「それでは、生命維持システムも停止してしまいます!」

反対する副官。


「……やむを得ない。幸い臨戦態勢中で皆宇宙服を着用しているから、少しの間は持つだろう。万一に備え、退艦準備。随伴のシャトルと補給艦には、発光信号でコンタクトを取れ!」

艦長が決断した。


 艦のコントロールを奪われて恐慌状態に陥っていた宇宙空母の乗組員は、宇宙空母のサーバーから、とある惑星に関する観測データーがごっそり抜き出されていた事に誰も気付けなかった。


          †          †          †


――――――同時刻【月面都市 ユニオンシティ 防衛軍司令部】


「空母『サラトガ』からのIFFシグナルがロスト!」


 防衛軍司令部のオペレーターが東山に報告する。


「こんな所までシャドウ軍の伏兵が居たのですか!?」

慌てる東山。


「落ち着くのよ、東山。後方かく乱目的のサイバー攻撃よ。それに、単にIFFシグナルがロストしただけよ?レーダー反応は?」

オペレーターに確認する結。


「長距離レーダー反応は『サラトガ』を捉えています」

レーダー担当オペレーターが応える。


「通信は?」

「あらゆる周波数で呼び掛けましたが、応答有りません!」


「間違いない、ハッキングされているわ」

断定する結。


「随伴しているシャトルと補給艦との通信は可能かしら?」

「シャトルや補給艦単体では、出力が足りませんね。精々周囲数百Kmが限界でしょう。月面や地球との交信は不可能です」


「此方から、シャトルへの呼び掛けは可能かしら?」

「此方の通信施設からは可能です。ただし、シャトルからの返答は届きませんが」


「構わないわ。東山、早速随伴シャトルへ呼び掛けるのよ。何もしないよりはマシよ……。

 それよりも、気になるのはエリア51ね。あのエネルギー数値、いくらなんでも異常過ぎる……ダグリウスは何をするつもりなのかしら」


「それと東山、火星の市ヶ谷司令部と『ホワイトピース』の名取と話したいの。両方に回線を繋いで頂戴。」


 結の意見を受け入れて、随伴シャトルへ連絡を試みる東山達司令部要員を眺めながら、地上の動きについて意見具申を試みる結だった。


          †          †          †


――――――同日23時【北米大陸 旧アメリカ合衆国ネバダ州 グルームレイク『エリア51』地下ニュートロン施設】


「追加分も含めた、核燃料棒全て炉心へ追加。原子加速装置、最大出力到達まであと20分」


「上出来だ。ニュートロン施設に併設した、仮設カタパルト接続準備!最大出力到達しだい、加速装置に接続だ」


「閣下、反乱軍空母『サラトガ』データリンク成功。データベースから、第五惑星最深部の正確な座標が見つかりました」


「むぅ。奴ら"重力の底"まで到達していたのか!?」

軽く驚くダグリウス。


「……まあいい。これで新たな研究の地へ向かうことが出来る。人類統合都市住民の諸君は、輝かしい科学と真理追及の礎となるのだ。これ以上に光栄な事はあるまい」


 縦長の瞳を細めて、微かにほほ笑むダグリウスだった。


          †          †          †


――――――同日23時20分【地球北米大陸上空の衛星軌道 日本国航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』】


 衛星軌道艦隊旗艦のブリッジでは、火星市ヶ谷からの指示で急遽地上への戦略爆撃が早められた為、慌ただしく攻撃準備が進められていた。


「MOAB(大規模爆風爆弾)弾頭搭載艦は直ちに所定の座標へ向かえ!10分後に衛星軌道からの戦略爆撃をエリア51へ行う。MOAB弾頭投下後に気化爆弾を続けて投下する。

 爆撃後、PS強襲部隊を載せた降下ポッドを大気圏突入させる。各艦、軌道上の対空監視怠るな!」

衛星軌道艦隊に指示を出す名取准将。


「ユニオンシティ司令部のミス結から緊急です!」

「構わん、そのままスピーカーへ繋げ!」


『エリア51からのエネルギー反応尚も増大中。まもなく臨界寸前になるわ』


 抑揚を抑えた話し方だが、緊張している様子がブリッジのクルーに伝わっている様だった。


「結さん、攻撃まで10分かかります」

『間に合わないわ。其処から退避しなさい。今、直ぐに!』


「攻撃中止!全艦隊、エリア51上空から退避!急げっ!」

叫ぶ名取准将。


 北米大陸上空で爆撃態勢に入っていた火星列島各国の宇宙戦艦が、非常用ブースターを点火して急速にエリア51の衛星軌道上から離脱していく。


          †          †          †


――――――同時刻【北米大陸 旧アメリカ合衆国ネバダ州 グルームレイク『エリア51』外郭防衛線】


 日本国陸上自衛隊第7師団の先頭に立ってシャドウ帝国軍防衛部隊を追撃していた、黄星舞とマルス巨大生物マリネだったが、八つ首から吐き出していた荷電粒子を止め、不意にその場で急停止する。


「むむっ!これは、なかなかヤバいのだぞ!っと」


 マリネの頭上に立ったまま、眉をひそめて呟く舞。

 足元のマリネは、僅かに振動している地面に気付き、そわそわしている。


『こちらライチョウ。どうした訪問者?強力な戦艦でも見つけたのか?』


 後方300mに居る自衛隊偵察警戒車の車長が舞に訊く。


「今直ぐ回れ右っ!地面から何か沸き上がってくるのだぞっ!」


 叫ぶや否や、舞の背中で黄金色に輝く羽根が巨大化して煌くと、自分の数百倍はある巨体のマリネを手毬の様に掴んで後方へ飛ぶ舞。

 マリネの首の一つが偵察警戒車に巻き付いて一緒に連れて行く。


 背中の羽根を使って、マリネと偵察警戒車を護る様に包み込んだ舞は、更に後方へ跳ぶと、第7師団本隊の電磁戦車や自走砲の前に着地する。


『どうしたっ!何があったんだ!』


第7師団の上空に浮かぶマンスフィールド級空中戦艦から鷹匠少将が怒鳴るように尋ねる。


「前を見ちゃダメっ!大地から光が沸き上がるっ!」


 あらゆる能力を使い、周囲の全存在に警告する黄星舞。


 マリネと偵察警戒車を包んでいた舞の羽根が、更に一対出現すると、自衛隊の車列や空中戦艦まで覆い被さる様に展開した。

 

 次の瞬間、エリア51の方角から地鳴りと共に、巨大な閃光が劫火の如く衛星軌道まで立ち昇ると、巨大な火の玉が膨れ上がって周囲の全てを呑み込みながら拡がっていく。

挿絵(By みてみん)

 エリア51に最も接近していた第7師団を護る様に羽を広げる舞の周囲は、巨大な火の玉で照らされてあぶる様に焼き尽くされた後、衝撃波と猛烈な爆風で岩石が噴き飛ばされた。


 巨大な火の玉がやがて空高く昇り、お馴染みのキノコ雲へと変貌していき、きのこ雲の下には、エリア51と呼ばれた人類統合第1都市と軍事基地に代わり、地下深くまで穿たれた直径20Kmの巨大な穴が出現していた。


 巨大な穴以外には、何も残されていなかった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 結=マルス・アカデミー・尖山基地管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・東山 龍太郎=日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・黄星 舞=訪問者。神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の長姉的ポジション。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、お絵描きさん らてぃ様です。


・名取=日本国航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長。自衛隊特殊機動団団長。准将。

・鷹匠=地球連合防衛軍 北米大陸攻略作戦司令官。日本国自衛隊地球派遣群司令。准将。

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