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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
206/462

優しい兵器

2026年(令和8年)8月18日午前0時【北米大陸 旧アメリカ合衆国アリゾナ州 人類統合第7都市『フェニックス』】


 旧アメリカ合衆国ネバダ州南部と接するこの地域は、人類統合政府主席のダグリウスが、人類統合第1都市『エリア51』の南部防衛拠点として再興されていた。


 電磁シールドで覆われた都市中心部ピラミッドに近接した広大な滑走路とロケット発射施設は、北米大陸上空を衛星軌道上まで守護する宇宙機動部隊の重要拠点だった。


 数日前から東部五大湖方面から発生した通信障害は、北米大陸最大火山であるイエローストーンの降灰が原因と思われたが、統合第1都市からの観測情報を見る限りイエローストーン火山は活動が鎮静化しており、人為的な可能性が高いと思われた。


 人類統合第7都市行政府は、軍事用非常回線の地中ケーブルを用いて第1都市と連絡を保っていたが、それも数時間前から使用不能となっていた。

 通信が途絶する数時間前に衛星軌道上へ宇宙機動部隊を打ち上げて以降、第1都市からの指令が無い為、後続のB2宇宙爆撃機とミグ98宇宙戦闘機は地上で待機状態となっていた。

 

 一向に改善されない通信状態に痺れを切らした行政府が、学徒工兵部隊を都市郊外の地中ケーブル施設へ派遣した直後、唐突に第7都市上空に明るい光球体が出現した。

 都市上空に忽然と出現した光球体から、放射状に無数の太い光線が地上へ放たれ、続いて黒い球体の雨が都市外縁部へと降り注ぐ。


 人類統合第7都市中心部の行政府と防衛司令部、隣接した宇宙機動部隊基地施設は光球体から放たれた巨大な光線を浴びて消滅、待機していた機動部隊も光の奔流の中で溶けていった。

 郊外に設置されていた防衛施設は、頭上から降り注ぐ黒い球体の雨に触れると、ごっそり抉られた様に消滅し、突然断線された電気ケーブルが消滅を免れた防衛施設の弾薬に接触して爆発していく。

 

 エリア51司令部が戦況悪化の為に増援部隊の要請を試みた時点で、人類統合第7都市は主要施設と防衛拠点が壊滅し、爆炎を灰色の空へ高々と噴き上げて沈黙していた。

 

「輝美ちん。下の悪党は滅びましたねぇ~」


 第7都市上空の光球体と化していた黄星守美が、傍らに居た妹分の黄星輝美に話し掛ける。


「守姉。正義は必ず勝つのだぞっ!」


 腰に手を当ててふんぞり返った姿勢で、光球体の周りを飛び回る輝美。


「……さて、まだ一般住民は割と生き残って居る様ですけれど~」


 遥か下方の都市居住区を視る守美。


「武器を持たない人を殺めてはいけないのだぞっ!」


 同じく、雲海の下の都市住民を視る輝美。


「そろそろ、彼方の都市は、結論が出る頃合いでしょうかねぇ~」


 バンデンバーグの方向へ顔を向ける守美。


「降伏勧告なんて、あのヒト型クローンに伝わるとは思えないのだぞっ!」

口を尖らせて顔を顰める輝美。


「ともあれ、戻るとしますか、ねっ!!」


 一瞬だけ遥か上空に訝し気な視線を向けた後、妖精体の姿へと戻った守美は、両手をパンと打ち鳴らして背中の羽根を少しだけ瞬かせる。

 光球体が僅かに瞬いた後、壊滅した第7都市中心部上空の光球体と飛び回る人影は、跡形もなく消え去っていた。


 光球体と人影が消えたしばらく後、さらに上層から飛来した無数の赤く輝く岩石が灰色の雲海を貫くと、第7都市へ落下していった。


 天空から劫火の如く無数の流星が降り注ぎ、激しい土埃と爆炎に包まれる第7都市。

 

 土埃と爆炎が収まった後、人類統合第7都市『フェニックス』の在った場所には、幾重にも重なったクレーターだけが遺されているだけだった。


          ☨          ☨          ☨


【地球極東 日本列島オブジェクト タカマガハラ『エリア・フジ』】


 富士山に似た、茶色い山の麓に在る軍事施設に設けられた司令部で、イスラエル連邦のニタニエフ首相が国防大臣から隕石爆撃の報告を受けていた。


「電磁カタパルトを応用したデブリ投射システムは問題無く稼働しています。

 "試し撃ち"の結果は90%。目標の"クローン都市第7"は壊滅しました」


 火星日本の市ヶ谷に在る地球連合防衛軍司令部からリアルタイムで送られて来る画像を拡大して、クレーターだらけの大地をポインターで指し示す国防大臣。


「ふむ。試し撃ちにしては、まずまずの戦果だな」


 人口20万の第7都市『フェニックス』を消滅させた結果を見て、満足げに微笑むニタニエフ首相。


「はい。しかも威力は小型核爆弾に匹敵するにも関わらず、放射能汚染は有りません」

説明する国防大臣。


「実に地球に優しい兵器だな。後は命中精度を高める工夫を続けてくれたまえ。

 この兵器はこれからの新世界に相応しいトール・ハンマーになり得るだろう。

 我々の意に添わぬクローン人間など、これからの地球に存在してはならんのだ」

拳を握って宣言するニタニエフ。


「……ところで、例の工作はどうなっているかね?」


 国防大臣の隣に控えるモサド長官へ尋ねるニタニエフ。


「はい、首相閣下。

 人類統合第11都市『成都』への工作は予定通り進捗しております。アシュリー中尉率いる特殊部隊による、地下水脈を通じた薬剤投与は継続中です。防衛部隊に深刻な欠員が生じている様です。

 2週間もすれば都市住民の体組織はDNAレベルで変質し、我々の指向性電磁波に反応し、住民の体調を自由に操る事が出来るでしょう」

報告するモサド長官。


「後は我々が"平和的に"救済を申し出れば、此方の傘下に加わらざるを得んだろう。

 ……しかし2週間か。間もなく北米大陸の攻略は完了し、反攻作戦は成功するだろう。

 日本国を中心とした火星各国は、残ったクローン都市を救済して各国の勢力下へと取り込むに違いない。21世紀の植民地競争になりかねん。その前に我々は"救済"の実績を示し、火星各国を出し抜いて地球復興のリーダーシップを取らねばならん。

 長官。薬剤の投与期間を3日に短縮して、体質変更を仕上げる事は出来んのかね?」


 作業進行の大幅加速が可能か尋ねるニタニエフ首相。


「これ以上の期間短縮は、薬剤の過剰投与となります。アナハイム社で行われた実験では、過剰投与は体組織の予期せぬ細胞劣化を促進させたとの報告がありました」

懸念を示すモサド長官。


「構わんよ。彼らの犠牲は唯一神ヤハウェイに導かれた我らユダヤ民族千年王国への礎となるのだ。人モドキたるクローン人間にとって、実に光栄な事と思わんかね?」

冷徹な表情で語るニタニエフ。


「……そうですな」

無表情で頷くモサド長官だった。


「人類統合第11都市の防衛体制が脆弱だと見極めた段階で、部隊をユーラシア大陸へ進出させよう。第11都市を支配下に治めた後、かの地で戦力の拡充を行い第12への備えとしよう。いざとなれば、デブリを撃ち込んでやれば良い」

国防大臣に指示するニタニエフ首相。


「了解しました。しかし、火星の地球連合防衛軍司令部へはどの様に報告するおつもりでしょうか?」


 防衛軍司令部からの詰問を予想して対応を尋ねる国防大臣。


「……そうだな。北米戦線を支援する為にユーラシア大陸極東に第2戦線を構築する、とでも言っておけば良かろう。

 これまでの所、北米攻略部隊の損害は甚大だ。攻略部隊の負担を減らし、反攻作戦成功後の世界復興を手助けする為だと言えば、彼らとて文句を言えまい」


 反攻作戦後の地球統治を見据え、着々と戦略を組み立てるニタニエフだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


【このお話の登場人物】

黄星きぼし 守美もりみ=訪問者。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター しっぽ様です。


黄星きぼし 輝美てるみ=訪問者。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター しっぽ様です。


・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦首相。

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