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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
205/462

急襲命令

2026年(令和8年)8月17日23時【北米大陸上空の衛星軌道上】


 ソフィー大尉操るパワードスーツ『サキモリ』のガトリングガンが、眼下の地上から真っ直ぐ此方へ上昇するB2S宇宙爆撃機に向けて火を噴く。


 大気圏離脱寸前の機体正面に被弾したB2S爆撃機は、コクピットを破壊されて操縦不能となり、全翼型の機体を錐揉みさせながら、再び地上へと落下していく。

 脱出者は居ない様だった。


「1機撃破。後続は……あれ?」


 ガトリングガンを構えて、後続の機体が雲海を突き破って出現するのを待ち構えていたソフィー大尉が首を傾げる。


『マスター。第11都市『成都』から出撃した後続の敵影は見当たらないですの』


 キョトンとするソフィーにナビゲーションシステムのパナ子が敵影が途絶えた事を告げる。


「中佐殿、敵の増援が途絶えたみたいです!」

ソフィー大尉が、高瀬隊長に報告する。


「ん!?そうなのか?」


 サキモリから少し離れた場所で、レーザーライフルを使って衛星軌道上から味方艦隊へ接近するミグ98戦闘機を狙撃していた高瀬中佐は、戦闘機がレーザーに貫かれて爆散したのを確認すると視線を下方へ向けた。


 先程まで、次々と灰色の雲海を突き抜けて此方へ上がってきた機影が、今は見当たらない。


「やっとか……」

一息つく高瀬。


『こちらホワイトピース。高瀬機、ソフィー機は帰投せよ。司令部から新たな命令が来た』


「ソフィー機ラジャ、帰投します」「高瀬機、了解した」


 殆ど弾倉が空のガトリングガンと、中距離レーザーライフルを背負った2機のPSは、僅かに背中の水素エンジンを噴射すると航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』へ帰還した。


          ☨          ☨          ☨


【アジア地区 人類統合第11都市『成都』防衛軍司令部】


「第12都市『氷城ハルピン』は我々と同じく宇宙へ兵力を殆ど送っているので線力に余剰なしか……。第8から第10は音信不通か。何処も余裕がないのだな」


 学徒兵部隊が壊滅状態となった事で部隊再編に頭を抱える暫定代表の羅大佐だった。

 都市住民の体調不良は以前続いており、既に4割の住民が自宅から移動できなくなっており、都市インフラ運営人数も不足する状況に陥っていた。


 防衛司令官席で頭を抱えていた羅大佐は、自らの座席に備え付けられている情報端末が突然赤く点滅し始めた事に気付く。


『都市代表死亡ニヨリ、都市機能ノ停止カウントダウンヲ開始シマス。300秒以内ニ後継代表IDト生体認証ヲ登録シテクダサイ』


 情報端末から自動音声案内が流れ、端末脇のモニターが青く点滅を始める。


「何だと!代表閣下が死亡!?」


 慌てて羅大佐が自らのIDを情報端末に入力し、モニターに両手をかざす。


『コノIDト生体認証ハ、エリア51ノ主席認証ヲ受ケテイマセン。正シイIDコードト生体認証ヲ登録シテクダサイ』

羅大佐を受け付けない情報端末。


 その後、幾度となく羅が知りうる限りのIDを入力して両手をモニターへ押しあてたものの、モニター表示とエラーメッセージが変わる事がないまま、300秒が経過してしまう。


『後継者登録ガ完了シテイマセン。只今カラ都市機能ノシャットダウンヲ開始シマス。都市住民ハ速ヤカニ退去シテクダサイ。電磁シールド、イオン粒子フィルター停止シマス』


 自動音声が終わると同時に防衛司令部の照明が全て消え、室内が暗闇に包まれる。非常用電源に切り替わったものの、足元を頼りなく照らすだけだった。


 第11都市『成都』の都市機能は完全に停止するのだった。


【地球アジア地区 旧中華人民共和国四川省西部 龍門山脈】


「アシュリー中尉!都市の照明が消えました!」

「分かっている。レーダー反応も消えている。内部機能が停止したのか?」


 都市を監視していた隊員の隣で同じ様に赤外線センサーを備えた双眼鏡で都市の動きを視ていたアシュリー中尉が呟く。


「いずれにせよ好機なのは間違いない。タカマガハラへ至急打電せよ『聖棺アークが開いた』」


 人工日本列島のイスラエル連邦軍総司令部へ緊急通信を送らせるアシュリー中尉だった。


          ☨          ☨          ☨


【北米大陸上空の衛星軌道上 日本国航空・宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』】


 帰還したPSに整備と弾薬補給をしようと、慌ただしく格納庫内を行き交う整備隊員を眺めながら、格納庫の片隅で軽食を摂りながら休憩する高瀬中佐とソフィー大尉。


「ふぅ……。なんだか急に戦局が動いたみたいですね?」


 パイロットスーツを少しはだけさせ、蒸れた胸元へ新鮮な空気を送り込むソフィーが訊く。


「……どうやら味方地上部隊が、敵の宇宙部隊待機基地を叩いたらしい。これで衛星軌道上からのMOAB弾による戦略爆撃が行えるだろう……。エリア51を一気に落とせるチャンス到来だな」


 ラフな格好で、胸元が無防備なソフィー大尉から目を逸らしながら応える高瀬中佐。


「やったー!これで休めますねっ!」


 手放しで喜ぶソフィー。ラフな胸元が揺れて自己主張をする。

 さり気無くソフィーに背を向けて赤面した顔を隠す高瀬中佐。


『……中佐殿はスケベですの。セクハラですの』


 ソフィーの端末から無線LANを使って高瀬中佐の携帯端末に移動して、ぼそりと呟くジト目のパナ子。


「うおっ!?私は何も見ていないっ!」


 自分の端末から突然出現したパナ子と突っ込みに動揺する高瀬。


「中佐殿?しっかり補給リストを確認してくれないとダメじゃないですか!」


 高瀬の状況を知らないまま、先ほどと同じ格好で高瀬に詰め寄るソフィー。


「近いっ!待て待てっ!見てるから!補給リストちゃんと見てるから!」


 そっぽを向きつつ、両手をソフィーに突きだして接近を阻む高瀬。


『……やっぱり見ていたですの。中佐殿はむっつりですの』

相変わらず高瀬の画面に居座ってジト目のパナ子。


「中佐殿?先程から何やら慌てている様ですが、補給リストに不備でも?」

首を傾げるソフィー。


「……時節外れの青春ラブコメ中の所を申し訳ないが」


 不意に格納庫入り口から高瀬とソフィーに声が掛けられる。

 格納庫の片隅で休憩を摂る高瀬とソフィーに、艦長の名取准将が近付く。

 服装と姿勢を正して敬礼する二人。


「戻って早々に済まんが、補給と整備が終わり次第出撃だ」

名取が再度の出撃を告げる。


「此方は衛星軌道上の制宙権を確保した筈ですが?」

首を微かに傾げる高瀬。


「先程ユニオンシティの結さんから、異常なエネルギー反応の高まりをエリア51で捉えたと、緊急連絡が有った。

 我々が経験した事の無い新兵器を、敵が使用する兆候が見られるとの事だ。陸上部隊は進撃を続けているが、エリア51施設に突入するまでまだ時間がかかる……」


「甚大な損害が発生する前に、君達が単独降下して敵施設を急襲、エネルギー反応の原因を突き止め、場合によっては破壊してもらいたい」


 緊張した顔で説明し、命令する名取。


「「ええっ!?」」


 驚く二人だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


【このお話の登場人物】

・ソフィー・マクドネル=自衛隊特殊機動団パワードスーツ部隊『サキモリ』パイロット。ユニオンシティ防衛軍大尉。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』の機体制御システム担当人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。


・高瀬 翼=日本国自衛隊 統合幕僚監部所属 特殊機動団長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。


・名取=日本国航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』艦長。准将。

・羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。大佐。

・アシュリー=イスラエル連邦軍特殊部隊中尉。

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