光の奔流
2026年(令和8年)8月17日【同西海岸 人類統合第2都市『バンデンバーグ』沖、30Kmの太平洋上空 マンスフィールド級空中戦艦「レナウン」CIC】
CICのメインモニターには、破壊された敵防衛陣地が映し出されていた。
気化爆弾による衝撃波で、防衛陣地の周囲の地面には水陸両用機動戦闘艇が墜落し、装甲車や対空戦車、ジープ等が陣地片隅でくしゃくしゃになった紙屑の様に散らばっていた。
陣地やひしゃげた車両の内外には、強烈な衝撃波で内臓を破壊され、口や目鼻耳から血を流して死亡した若い兵士が転がっている。
惨憺たる状況に息を呑むロイド提督や将校達。
「提督、火星市ヶ谷の連合防衛軍司令部から入電。"衛星軌道艦隊の被害甚大。敵地上施設無力化を急がれたし"との事です」
通信オペレーターが報告する。
「中性子核弾頭の準備完了。ナスカ攻略と同様、都市中心部へ集中攻撃、敵防衛施設の無力化は可能です。
放射能汚染は発生しますが、通常核兵器に比べると汚染区域は限定されます。この際、致し方ありません」
作戦将校がロイドに戦術核兵器の使用を進言する。
「……そうですか。やはり、核を使う他無いのでしょうか」
瞑目して思考を巡らせるロイド提督。
そんな重苦しいCICに虚空から少女の声が響き渡る。
『此処が一番ピンチなのだぞっ』『助っ人参上ですぅ~』
ロイドの座席前の空間がぼやけると、そこから背中に羽を生やした黄星姉妹が現れる。瞬時の出現に身構える間も無く呆気にとられるCIC要員達。
「ふむ?……少し前に司令部からの通達に有った"訪問者"の方々ですね?」
少しだけ眉を顰めたが、すぐに思い出した様に頷くロイド提督。
『なんと!?やけにクールで薄いリアクションなのだぞっ!?』
大月家と違い、スルーされる事に慣れない輝美。
『そんな事はさておき、ご注文は決まりましたかぁ~?』
首を傾げてロイドの顔を覗き込む守美。
「……話が早くて助かります。それでは、都市中心に在る司令部まで我々を"先導"して下さい」
部隊の露払いを依頼するロイド提督。
『あれあれ~?殲滅した方がいいのでは?』
不思議そうな顔をする守美。
「クローン人間とはいえ、思考はヒトそのものです。話し合いの余地は有ると思いたいのです」
僅かな可能性を残しておきたいロイド提督が答える。
『あそこの複製が、そこまで貴方の言う事に耳を傾けるとは思えないのだぞっ!?』
否定的な輝美。
『まあまあ、ライちん。此処は現場のおじさまを信用して言う通りにやってみるのですよ~』
輝美を宥める守美。
『甘っちょろいのだぞっ!でも……まあ、言う通りにはするのだぞっ!』
ロイドの斜め前先に座る通信オペレーターからコードレスヘッドフォンを取り上げて装着する輝美。
『ではでは~しっかりついて来てくださいな~』
笑顔で手を振りながら虚空に溶け込む様に消えていく守美。
『用事が有れば、適当な回線でいいから言うのだぞっ!』
少しだけムスッとした輝美も守美に続くように消えていく。
「白兵戦まで覚悟していましたが。……どうにかなりそうですね」
肩の力を抜いて少しだけホッとするロイド提督。
「全艦。前方に現れる"光の天使"に続け!電磁シールド展開。発砲は極力控えよ!」
ロイド提督が艦隊に呼び掛けた直後、空中艦隊前方に緑色の柔らかい光に包まれた人型妖精が二つ現れる。
背中に羽を生やした妖精の1体から、身体の何倍もある白い光の奔流が放たれてバンデンバーグへ撃ち込まれる。
光の奔流が放たれた進路上の敵部隊は、戦車、飛行艇問わず電子レンジで過熱されたかの様に溶けて落するか、搭載していた弾薬が引火して爆発する。
防衛陣地を貫通した光の奔流は、そのまま第2都市バンデンバーグ中央へ到達し、ピラミッド上層部を噴き飛ばす。
『あれれ?ちょっと、やり過ぎたかな……』
しまったと言う顔の守美。
『全く……守姉は。狙いがだだ甘なのだぞっ!』
守美の隣に浮かぶ輝美がため息を付くと、両手から2~3メートルの黒い球体を次々と出現させてバンデンバーグ外縁部に撃ち込む。
輝美が放つ黒い球体に触れた四足や対空戦車は、触れた箇所が虫食いの様に消滅し、片足を失ってバランスを崩し地面に突っ込んだり、ショートした車体の火花が弾薬に引火して誘爆していった。
空中戦艦レナウン医務室で、黄星姉妹の蹂躙によるバンデンバーグ防衛部隊が撃破される様をリアルタイムで視る黄少佐。
「なん、だと……」
黄星姉妹の出鱈目な攻撃に絶句する黄少佐。
「こんな存在に……かなう筈ないだろ!」
思わずベッドシーツを握りしめて叫んでしまう黄少佐だった。




