バンデンバーグ第2学校
2026年(令和8年)8月17日【地球 北米大陸西海岸 人類統合第2都市『バンデンバーグ』(旧アメリカ合衆国カリフォルニア州)第2学校 】
鈍色に輝くピラミッドが聳え立つ都市中心部に位置するバンデンバーグ第2学校は、人類統合政府教育制度に則って12年制の一貫教育を行っている。
共産主義とは、資本主義の最終進化形態であるというレーニンの教えに始まり、歴代ソヴィエト共産党発展の歴史を学び、同時に世界全てを共産主義革命で満たす闘争手段としての軍事教練を幼少時から行っている。
学生の衣食住は全て統合政府から無償で支給されるが、12年間に及ぶ全寮制生活で共産主義と軍隊的規律を徹底的に習得させるカリキュラムとなっている。
実際には、ピラミッド内部の培養槽で大量生産されたクローン人間を薬剤で成長促成させ、人類統合政府DNAコンピューターが脳内にインストールした16歳までの疑似記憶と共に、3年間で共産主義社会の構成員へ成長させる為に共同生活をさせている。
午前中はヨシフ・スターリン語録の研究後、カラシニコフ自動小銃の取り扱いとRPG7対戦車ミサイルの射撃訓練を行い、昼食に酸っぱい黒パンと薄い塩味の玉ねぎが僅かに浮かんだスープを急いでかき込んだ後、午後の授業が始まっていた。
「—――—――こうして2020年、火星から侵略を試みる異星人を迎え撃つ為に生き残った東側陣営は結束し、世界12か所の共産主義拠点を中心とした『人類統合政府』を設立。西暦も”人類歴”に改められたのです」
"縦長の瞳"を隠すためのサングラスをかけた世界史の教師が教科書を読み上げる。
「先生、質問です。なぜ、火星人は地球を侵略するようになったのでしょうか?
火星環境に適応している火星人が、わざわざ地球を欲しがる理由が分からないのですが?」
一人の女生徒が挙手して質問した。
「学籍番号690521番、もっともな質問だ。地球が火星に比べて魅力的である所は何か?大気か?水か?鉱物資源か?多様な生態系か?
答えは『強欲な資本主義』だからだ!
我らが偉大な同志統合主席閣下のお考えでは、ヒト型侵略者の他にも更に高位の存在が居て、それが全てを欲しがって人民を奴隷として支配する悪辣な資本主義的強欲の黒幕だと看破しておいでだ。
地球環境が魅力的であれば、堕落した資本主義を信奉する西側人類を扇動して核戦争を起こし、地殻変動まで誘発させて地球を破滅に追い込んだのか理解に苦しむところだが、おそらくは破滅した惑星の生態系を我が物にして研究し尽くしたいというブルジョアジー特有の歪んだ支配的欲望があるのだろう」
サングラスをかけた教師が答える。
「今この時も、決戦の地であるエリア51では、数多の同志が死をも恐れぬ勇敢さで攻め寄せた侵略者どもに鉄槌を下し甚大な被害を与え続けている、という連絡が先程入ったばかりだ」
教師の報告にクラスの皆から歓喜の声が沸き上がる。
そこへ突然、戦況報告に浮足立っている教室に非常警報を伝えるサイレンが鳴り響く。
「生徒諸君。抜き打ちの戦闘訓練だ。直ちに地下の訓練施設に集合せよ!」
きびきびとした声で命令する教師。
教室をカーテンで男女別に仕切ってから、慌ただしく戦闘服に着替えた生徒達が駆け足で地下訓練施設へ繋がるエレベーターに乗り込んでいく。
やがて教室から生徒が全て移動したのを見届けた教師は、サングラスを外すと縦長の瞳の真ん中の眉間を揉み解す。
「……いよいよ初の実戦となる都市迎撃戦ですか。生徒たちの実力は果たして……」
縦長の瞳を嬉しそうに細め、口許を歪めて微笑する爬虫類人類教師だった。
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