学徒兵
【アジア地区 人類統合第11都市『成都』(旧中華人民共和国四川省)】
暫定都市代表となった羅大佐が、練度不足が懸念される学徒兵部隊を規律面から整えようと行軍演習を実施したのは正しい認識だった。
だが、行軍演習を実施する場所の選定は酷く誤っていた。
都市治安維持部隊を率いていた羅大佐には、都市外の地理・地形・生態系についての”経験”が殆ど無かった。
巨大ワームの存在は知識として知っているに過ぎなかった。
巨大ワームは都市外の敵と戦う戦車部隊や水陸両用飛行艇部隊が対処すべきものであり、都市内警備を専門とする羅大佐の脳には、巨大ワームが何処から現れ、どの様に襲撃し、どうすれば倒せるかという指揮能力プログラムは付与されていなかった。
そして羅大佐が戦闘経験の有る数名のベテラン兵士と学徒兵・老人からなる部隊を引率出来たのは、都市郊外に出てから僅か20分に過ぎなかった。
羅大佐が部隊を率いて都市郊外の荒野に足を踏み入れた20分後、干上がった河川を最後尾の砲兵隊が横断した所で悲鳴と絶叫が上がる。
「何事か!」
どうせ足元の覚束ない学徒兵が荒野に散らばる噴石にでも足を取られたに違いない、一括してやろうとジープを停めさせて後ろを振り返る。
隊列先頭を走っていた羅大佐のジープが停車した事で、後続のT72戦車や兵員輸送トラックがその場で立ち往生してしまう。
「ぎゃあぁぁぁ助けてっ!」
再度の悲鳴で振り返った羅大佐が目にしたのは、転んで泣き叫ぶ学徒兵では無く、地中から飛び出した巨大ワームに下半身がすっぽりと咥え込まれて泣き叫ぶ学徒兵だった。
「なっ……」
想定外の状況に硬直する羅大佐。
下半身を咥え込まれた学徒兵はしばらく絶叫していたが、巨大ワームがブルッと地上に出していた部分を震わせるとその反動で全身が呑み込まれてしまう。
部隊の全員が唖然としている間に巨大ワームは再び地中へと姿を隠してしまう。
「大佐殿。巨大ワームの襲撃です。教本に従って部隊を散開させて応戦させます。よろしいですか?」
羅大佐のジープを運転していた軍曹が確認する。
「よろしい。軍曹に任せる」
承認する羅大佐。
「敵襲!散開して応戦せよ!歩兵はトラックから下車しろ!急げっ!」
軍曹が後方まで走って応戦指示を出していく。
軍曹は警備部隊の中では最古参で”戦闘能力だけ”は高かった。
「ぐずぐずしないで全員降りろ!敵襲!散開して—――—――うわっ!」
未だ全員が降車していない幌付きトラックに軍曹が駆けよった瞬間、足元の地面が割れて巨大ワームがうねりながら現れると軍曹をひと呑みすると、トラックの荷台に突っ込んでズズズーっと学徒兵達を吸い込んでいく。
戦闘指揮を執ろうとした軍曹が部隊の真ん中で巨大ワームに呑み込まれた所を目撃した学徒兵達は恐慌をきたし、部隊統制はあっという間に崩壊した。
勇敢にもベテラン兵士が数人の学徒兵を捉まえて応戦しようと武器を構えていたが、大半はその場で武器を捨てて都市へ後退する戦車やトラックにしがみつくか、自分の脚で走って退避を試みるのだった。
都市へ後退した者の多くは、地中から神出鬼没に襲撃を重ねる巨大ワームの餌食となってトラックの荷台や戦車の砲塔ごと巨大ワームに呑み込まれていくのだった。
退却途中の兵員輸送車が地中から飛び出してきた巨大ワームの体当たりで横倒しとなり、慌てて内部から脱出した学徒兵がズズズッと吸い込まれていく。
目の前の参上にやけくそになったT72戦車が125ミリ砲で駆逐しようとするが、砲身が長いために至近距離の巨大ワームに照準を定められずにいるところを横殴りに体当たりされて横転、車体底部の弾薬が爆発して砲塔が吹き飛ぶ。
巨大ワームが動くモノ全てを呑み込んで去った時、生き残った者はその場にとどまったベテラン兵士と数名の学徒兵、ジープから動かなかった羅大佐だけだった。
こうして人類統合第11都市『成都』は防衛部隊として編成された学徒兵の大半を喪い、守備能力に深刻な問題を抱える事になるのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
羅=人類統合第11都市『成都』暫定代表。大佐。




