モハーベ砂漠攻略戦
2026年(令和8年)8月17日【旧アメリカ合衆国 ネバダ州 モハーベ砂漠上空 地球連合防衛軍 西部攻略部隊 マンスフィールド級空中戦艦 旗艦『播磨』 】
西海岸から進軍してきた自衛隊第7師団を主力とする攻略部隊は、シェラネバダ山脈で長距離レールガンによる先制砲撃で大きな損害を出しつつも州間高速道路15号線を東へ進軍、ようやくモハーベ砂漠に差し掛かった。
時折、ラスベガス方面から流星群の様に飛来する赤いレールガン砲弾を、シールドで弾きながら空中艦隊と地上機甲師団は、前進を続けていた。
「モハーベ砂漠中央に旧ラスベガス市街地跡を確認。先行しているドローンの赤外線探索によると、生命反応無し。市街地手前に敵防衛陣地発見。陸ガメ3、四足、カゲロウ多数確認!」
陸ガメとは大型陸上戦艦、四足とは四足歩行機動兵器、カゲロウとは水陸両用小型飛行艇の略称である。
「司令。自走電磁砲部隊から最大射程距離に到達したとの報告です!」
「戦車連隊の再編完了。73連隊90式の生き残りを、10式改と電磁21式に振り分けました」
「……突撃火力が3分の1にまで減ったのは痛いな」
「ですが、後方エドワード橋頭保の増援を待つ間に師団は全滅します」
「前進するしかないか……。よし、昨夜の借りを返してやれ!WB21空中戦闘砲台発進!全艦隊電磁シールド展開。戦車連隊が攻撃隊形を整えるまでレールガンを防ぐぞ!」
縦列で機甲師団上空を飛行していたマンスフィールド級空中戦艦からWB21空中支援砲台が飛び立つと、空中戦艦は緑色の電磁シールドを展開しながら左右に拡がって高度50mまで下降する。
「敵陣地が120ミリ戦車砲の射程に入りました」
「全車砲撃開始!艦隊は高度150まで上昇、カゲロウの動きを封じ込めるんだ。対空戦闘用意!」
戦車連隊が装備する最新鋭の21式120mm電磁砲搭載ホバー戦車と、レールガン改装10式戦車改、特科連隊の21式203mm自走電磁砲(初速7000km、射程70km、毎分15発)から蒼白い砲弾が次々と雷光と共に放たれると、シャドウ帝国軍防衛陣地に吸い込まれていく。
一瞬の後、防衛陣地から眩いばかりの閃光が煌めいて猛烈な爆風が吹き荒れ、防衛陣地で待機していたシャドウ帝国軍の四足や低空でホバリングしていたカゲロウ小型飛行艇が噴き飛ばされていく。
幾重にも張り巡らせた防衛陣地外周部分は撃破したが、陸上戦艦を始めとする防衛陣地中枢の損害は軽微なようだった。
やがて、自衛隊戦車を迎撃する為にシャドウ帝国軍防衛陣地後方からカゲロウがわらわらと舞い上がって戦車部隊へ殺到するが、頭上をマンスフィールド級空中戦艦に抑えられた状況下での迎撃は成功する筈も無く、頭上から降り注ぐ空中戦艦群の対空砲火と地上からは自走高射機関砲に機体を撃ち抜かれ、次々と撃墜されていく。
「カゲロウのブロックは成功しましたね」
「だが、陸ガメはそう簡単にやられてくれないだろう」
「陸ガメのレールガンが戦車連隊を指向しています!」
「全車煙幕展開!姿を眩ませる間に、空中戦闘砲台は敵レールガン砲台を破壊せよ!本艦も前へ出る!」
WB21空中戦闘砲台の編隊がマンスフィールド級空中戦艦群下方からシャドウ帝国軍陸上戦艦へまっしぐらに殺到する。
少し上空を空中戦闘砲台に続く形でマンスフィールド級空中戦艦1個戦隊がシールドを解除しながら船体下部と側面に備え付けられた多目的レールガンと30mm機関砲を陸上戦艦の巨大な上部甲板に叩き込んでいく。
シャドウ帝国軍陸上戦艦は接近する自衛隊電磁戦車の砲撃には、シールドで対応して船体への損傷は軽微だったが、至近距離からロケットランチャーを乱射する空中戦闘砲台と、上空から機関砲の弾幕を降らせる空中戦艦の攻撃にレールガン砲台の砲撃が滞ると、煩わしいと言わんばかりに上部甲板両舷のVLS(垂直発射筒)から対空ミサイルを一斉に発射して応戦する。
『播磨』右側に位置していたユーロピア共和国の空中戦艦は、眼下の陸上戦艦に30mm機関砲を浴びせる事に熱中する余り高度を下げ過ぎた所を陸上戦艦が撃った対空ミサイルの直撃を弾薬庫に受けると大爆発を起こし、真っ二つに折れて墜落した艦体が地上に居た四足を直撃して炎上する。
左側に展開していた英国連邦極東の空中戦艦も、ミサイルの直撃弾を後部エンジンに受けてコントロールを失って高度を落とすと、陸上戦艦上部甲板に覆いかぶさるように墜落すると、衝撃で水素エンジンが破損、燃料の液体水素に引火して陸上戦艦もろとも大爆発してしまう。
「『ル・トルリフォン』『デバステーション』撃沈。本艦も敵ミサイル直撃を受け中央動力システムに異常発生。エンジン温度が急上昇しています!」
「砲撃中止。電磁シールド展開、第2戦隊に先を譲れ。高度200へ上昇」
「鷹匠司令。本艦の残存エネルギーが40パーセントを切りました。エドワード橋頭保で補給をしなければなりません!」
「これほどの大艦隊を引き連れているにも関わらず、やはり稼働時間が問題か……」
「交互に艦砲射撃とシールド展開を行いますから。もともとこのタイプは短時間空中支援砲台に過ぎません」
「WB21の問題と同じだな」
「ええ。技本(防衛省技術開発本部)の問題です。エドワード橋頭保まで一旦引きますか?」
鷹匠が空中艦隊に補給後退を指示しようとする直前、通信担当士官が駆け寄る。
「鷹匠司令、エドワード橋頭保から緊急連絡!ロスアンゼルス北部に敵機動部隊が出現、現在橋頭保防衛部隊が交戦中!」
「なんだと!?」
狼狽する鷹匠。
その時、『播磨』艦橋に戦場には無縁な可愛らしい声が響いた。
『しょうがないのだぞ!っと』
突然、マンスフィールド級空中戦艦の艦橋に幼女のくぐもった声が響く。
「誰だ!?」
訝し気に周囲の空間を見渡す鷹匠達将校。
「灯台下暗しなのだぞ!っと」
背中に輝く羽をはやした幼女が、鷹匠少将の足元で軍服の裾を食いクイクイと引いていた。
「おわっ!?不審者だ!警備兵!」
一斉に鷹匠から距離を取って拳銃や自動小銃を構える将校達。
「むぅ。無粋なのだぞ!っと」
口を尖らせた幼女が床を片手てポンと叩く。
次の瞬間、艦橋に居た将校達の姿が掻き消えた。
「おいっ!何をする!」
「お前達こそ、友軍の命の恩人に対して無礼なのだぞ!っと」
鷹匠の足元で胸を張ってふんぞり返る幼女。
「友軍の命の恩人……だと?」
呟く鷹匠は直近の火星司令部からの戦況情報共有を思い出す。
「反対方角から進んでいる、お前達の仲間がピンチだったから助けてやったというに薄情者が多いのだぞっ!っと……」
両肩を竦めて嘆く幼女。
「貴女は……”訪問者”でしょうか?」
尋ねる鷹匠。
「訪問者?そんな怪しい訪問販売の人は知らないのだぞ!っと」
口を尖らす幼女。
「失礼しました!お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「先にお前から名乗って欲しいのだぞ!っと」
「重ね重ねのご無礼大変申し訳ございません!陸上自衛隊地球派遣群司令の鷹匠と申します!階級は准将であります!」
「ふむ。よろしい。私の"こちら側の名前”は黄星 舞なんだぞ!っと」
ようやく満足気な回答を得た舞が、胸を張って自己紹介をした。
「では……舞殿ががシカゴ戦線の敵陸上戦艦を始末してくれたのですね?」
ようやく落ち着いてきた鷹匠が、火星司令部との情報リンクで把握していた情報を思い出す。
「横取りしちゃったのかな?」
「とんでもない!あの一撃が無ければシカゴの友軍は撤退していたでしょう」
「ふふん」
自慢げに胸を張る舞。
「それで、ちょっと困っているのなら、この私が相談に乗るのだぞ!っと」
舞が鷹匠に手助けを申し出る。
「では、お言葉に甘えまして。……我々もシカゴの友軍同様、陸上戦艦に苦戦している様なのです。あの”怪獣”で助勢頂くと――――――」
「"マリネちゃん"!怪獣ではなく、"マリネちゃん"なのだぞ!っと」
鷹匠の要望を途中で遮ってぷりぷりと怒りながら訂正を要求する舞。
「……失礼しました。あの、マリネ”殿”のお力で我が軍を助けて頂きたいのです」
「うんうん。分かればよろしい。ではでは、早速行くのだぞ!っと」
床に両手をぺたんと手をつく黄星舞。
「はいなっ!」
舞の掛け声とともにマンスフィールド級空中戦艦の艦橋内が緑に輝く。
光が収まると、そこに舞の姿は無く、艦橋には鷹匠少将がぽつんと、一人取り残されたように佇んでいた。
「……はっ!?」
我に返った鷹匠は、舞に転送された将校達を探すべく艦橋を飛び出した。
艦橋から消え去った将校達は艦内の厨房奥にある冷凍庫で凍えているのが発見された。
また、冷凍庫からはステーキ用牛肉がごっそりと消えていた代わりに、火星アルテミュア大陸沿岸で養殖された活きの良い車海老が大量に瞬間冷凍された状態で発見されていたという。




