新たな次元

２０２６年（令和８年）８月１６日午前７時１５分【北米大陸上空の衛星軌道上】

「大尉！３時の方角から新手のお出ましだ！」

　高瀬中佐が駆る２１型パワードスーツが、ソフィー大尉の『サキモリ』横合いから５０ｍｍガトリングガンを連射する。

　真横からサキモリにミサイルを撃ち込もうと接近していたミグ９８宇宙戦闘機が、ガトリングガンの直撃を受けてばらばらと部品と操縦士の身体を撒き散らしながら分解すると、漏電した部品がミサイルの雷管に触れて爆発した。

　直ぐ後ろに続いていた２機のミグ戦闘機は、爆発した戦闘機の破片を至近距離で浴びる事となり、エンジンが破損して失速すると、そのまま重力に引っ張られ、石の様に灰色の大気圏へ落下していく。

「ありがとうございます、隊長！」

　高瀬中佐に感謝しながらソフィー大尉は、高瀬のパワードスーツ背後にサキモリのガトリングガンを向けて連射する。

　大気圏上層部から離脱したばかりのＢ２Ｓ宇宙爆撃機中央に、ガトリングガンの火線が吸い込まれていくと、ブーメラン型の機体エンジン部分の水素燃料と搭載していたミサイルが誘爆し、巨大な火球となって大気圏へ墜ちて行く。

「……これだからステルス爆撃機はやりづらい」

　高瀬はぼやきながらガトリングガンの銃口を大気圏側に向けると、爆撃機を護衛していた宇宙戦闘機の編隊へ向けて劣化ウラン弾丸を叩き込む。

　ミグ９８宇宙戦闘機編隊は、シュバッとアフターバーナーを点火して、姿勢制御ガスを噴射して四方へ散開するが、僅かに点火タイミングを失した数機が、ガトリングガンに機体を貫かれて水素エンジンに引火すると爆発した。

　生き残った戦闘機は、高瀬とソフィーのパワードスーツを避ける様に展開を試みた所で、月面都市から駆け付けた三菱零七宇宙戦闘機の対空レーザーに貫かれて火球と化していく。

　シャドウ帝国軍宇宙機動部隊は、大気圏上層部を抜けた所で次々と高瀬とソフィーのパワードスーツに迎撃され、運よく迎撃を躱した機体も三菱零七宇宙戦闘機の高性能センサーに捕捉され、レーザー砲で殲滅されていった。

「これでもかと言うぐらいに叩き落しているのに、まだやる気なの！？」

　人として許容出来ない程の損害を出し手も尚、地上から上がってくるシャドウ帝国軍宇宙機動部隊の執念に戦慄するソフィー大尉。

『マスター、次の団体さんですの。アジア地区第１１都市『成都』から出撃したＢ２Ｓ爆撃機３機、ミグ戦闘機２１機が此方へ向かって真っ直ぐ上昇中ですの。

　弾薬残量４０パーセントを切るですの』

パナ子が新手の接近と弾薬残量を告げる。

「隊長！まだまだ敵が上がってきます！味方の支援爆撃はまだ始まらないのですか？」

　灰色の大気圏目がけ、ガトリングガンや背面ロケットランチャーを斉射するソフィー大尉。

　分厚い火山灰の雲を突き抜けて顔を出したばかりの爆撃機や戦闘機が、ソフィー大尉の放つミサイルやガトリングガンを食らって爆発すると、大気断熱圧縮効果で赤く輝く機体の破片が、火山灰雲の中へぼろぼろと落下していく。

　それでも、シャドウ帝国軍は各地の人類統合都市から続々と迎撃部隊を打ち上げ続けていた。

「大尉、私達だけで全ての敵機を防ぎきっている訳じゃないんだ。

　真下の北米バンデンバーグ基地だけではなく、南米ナスカ基地からも防衛部隊が続々と上がっている。味方艦は敵機の迎撃をしながら、ＭＯＡＢ（大規模爆風爆弾）の精密射撃をしなくてはならないんだ」

「……ですが、息つく暇も無いぐらいに来られると。ガトリングやミサイルの残弾が心許ないです」

ソフィーが、燃料や弾薬のゲージを見ながら高瀬に自機の状態を伝える。

「今私達が補給で抜けると、味方艦を敵の防衛部隊から護るのが難しくなる。軽装備の三菱零七戦闘機には荷が重いだろう」

難色を示す高瀬。

「このままだと、私達は徒手空拳で敵部隊に立ち向かう事になりますよ！？」

補給を訴えるソフィー。

　地球人類攻略部隊は北米シカゴだけではなく、衛星軌道上でも苦戦を強いられていた。

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【第１人類統合都市 エリア５１（旧アメリカ合衆国ネバダ州グルームレイク）地下司令部】

「統合主席。ニュートロン施設のエネルギー充填８０％、尚も上昇中」

「よろしい。引き続き充填を。エイリアンとその手先の情報は？」

ダグリウスが訊く。

「東部地区都市防衛軍が、シカゴに上陸した火星エイリアン反乱軍の足止めに成功しました」

爬虫類型クローン兵士がダグリウスに報告する。

「ふん。我々の裏をかこうとしてもさせるものか！」

ダグリウスが鼻をならす。

「西海岸に集まった反乱軍の状況はどうだ？」

「ロスアンゼルス郊外に上陸した反乱軍部隊はシカゴに上陸した部隊の４倍。

　空中戦艦群の艦砲射撃に支援され、モントレー郊外を通過、ロッキー山脈を越えてラスベガス北西２０Ｋｍまで進出。西部地区都市防衛軍が築いた防衛線に間もなく接触します」

「しっかりと"おもてなし"をしてやれ」

ニヤリと笑うダグリウス。

「第２都市ヴァンデンバーグ、第３都市ナスカから打ち上げた宇宙機動部隊の損耗率が５５パーセントを超えました」

別の爬虫類兵士が報告する。

「我々の頭上に侵入してきたエイリアン共は、いかなる犠牲を払ってでも追い払え！

　出し惜しみをするな！この戦いに後は無いのだ。人類統合都市で宇宙へ上がれる者は、全て打ち上げろ！」

ダグリウスがエリア５１の死守を命令する。　

「これより最終防衛作戦に移行する！全人類統合都市に供給しているエネルギーを、全てニュートロン（原子加速器）施設へ送り込め。各都市は暫くの間、自家発電オンリーに移行」

「私自ら、ニュートロン施設で新兵器使用の指揮を執る。王准将、後を頼んだぞ」

　ダグリウスは司令席から立ちあがると、影の様に背後で控えていた将校へ指示する。

「畏まりました、統合主席閣下。防衛司令を引き継ぎます！第１２都市の機能権限は一時的に統合主席閣下にお返しします」

　ダグリウスと瓜二つの容貌をした将校が、背後から進み出て司令席に座った。

　司令室を出たダグリウスは、司令官専用ハイパーループ連絡艇に乗り込むと、司令部より更に地下深くに在るニュートロン施設へと降りていく。

「……『サラトガ』の木星観測データが正しければ、新たな次元まで進む事が出来る」

　縦長の瞳を細めると、うっすらと笑みを浮かべるダグリウスだった。