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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
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千年王国

挿絵(By みてみん)


2026年(令和8年)7月25日【地球極東地区『タカマガハラ』 イスラエル連邦軍基地エリア・フジ】

 

 日本国自衛隊、英国連邦極東軍、ユーロピア共和国軍、ユニオンシティ防衛軍のシェフィールド級空中輸送艦とそれを護衛するマンスフィールド級空中戦艦、巡洋艦からなる合計700隻余の空中艦隊が赤茶色をした人工富士の麓に拡がるイスラエル連邦軍基地から飛び立つと、戦隊ごとに輪形陣を組んで太平洋を西へ向かって出撃していく。


 イスラエル連邦軍基地では、イスラエル連邦軍儀仗隊による日本の軍艦マーチ、大英帝国の英国擲弾兵行進曲、ユーロピア共和国の玉ねぎの歌等各国行進曲が華やかに演奏され、イスラエル連邦ニタニエフ首相とマルス・アカデミー・基幹母艦船団のリア隊長が、見送りに繰り出したイスラエル連邦国民と共に次々と飛び立つ地球連合防衛艦隊を見送っていた。


「ソロモン王の末裔たる我々が、ヤハウエィ神の化身ともいうべきあなた方のお導きにより無事”タカマガハラ”という約束の地を得ることが出来ました。イスラエル連邦国民を代表して心からお礼申し上げます」


「そして、我が国が生き残った人々を"使って"至福の千年王国建設に邁進いたす次第です!」


 感極まったニタニエフがオーバーリアクション気味なスピーチをリアに行っていた。


「私達マルス・アカデミーの定義に神と言う存在はありません……。

 地球人類の一つの目標に対する一致団結した行動力を見ると、その行動を起こさせる要因として実に崇高且つ興味深い研究テーマだと思いますわ」


 自らを神格化されて戸惑うリア隊長は、お茶を濁す表現で応えるのが精一杯だった。

 まるで期待していたから揚げ定食が物凄く不味かった時、相手に対するリアクションをどうするか悩む時みたいだった。


「ニタニエフ首相閣下。この星での私達の任務は終わりました。

 これから船団は木星へ向かい、将来危惧される木星恒星化を防ぐ作業に取り掛かります」


 リア隊長は簡潔に応えて会釈すると、近くで待機していたアダムスキー型連絡艇に乗り込むと新駿河湾に停泊していたマルス基幹母艦へと帰還した。

 これ以上の会話はお互いの行き違いを生みかねないと危惧したのである。


「……イスラエル連邦首脳陣は、日本国とは違った価値観の下で過酷な環境に立ち向かおうとしていますね」

 

 少しだけ、皮肉めいた事を呟くとリアは連絡艇の中から基幹母艦船団の地球発進準備に取り掛かるよう指示を出した。


 取り急ぎ、今はこの希望と野心が入り混じった惑星から立ち去って、静かな研究観測の日々に戻りたいと心から願うリア隊長だった。


「直ちに地球から発進を。……それと、火星日本列島のNEWイワフネハウスに緊急連絡を。『から揚げ定食100人前、持ち帰りで』」


 リア隊長のストレスは、火星衛星軌道上で待ち構えていた大月夫妻からコウノトリ輸送船1隻分に満載されたから揚げ定食(『黄将』東神奈川店)を受け取るまで持続するのだった。


          ☨          ☨          ☨


 最後にエリア・フジを飛び立ったマンスフィールド級空中戦艦『播磨』から遠ざかる人工富士を見下ろしながら北米攻略艦隊指揮官を務める鷹匠少将が呟く。


「盛大に我々を送り出してくれたイスラエル機甲軍団の将軍が、タカマガハラ防衛の為に北米作戦には参加しないと言って来たよ……」


「人類統合第11都市『成都』、第12都市『氷城ハルピン』のシャドウ帝国軍が"新日本海"を超えて侵攻する可能性を彼らは憂慮しているのでしょうか?」

隣に立つ副官のマードック大佐が応える。


「彼らは、自分に火の粉が降りかかる時は過剰なまでの反応をするが、今回は無関心だった」

「北米大陸に集結し続けているシャドウ帝国軍主力が、本拠地であるエリア51の守りを捨ててまでタカマガハラに手出ししないとイスラエルは考えているのでしょう。彼らの関心は自然と旧中国地域の敵勢力に向けられる……」

鷹匠の指摘を分析するマードック。


「……ということは、イスラエル連邦軍の軍事ドクトリンでは侵攻を待ち受けるのではなく、先制攻撃で準備段階の部隊を叩いて出鼻を挫く事でしょう」

第4次中東戦争での奇襲攻撃事例をマードックが挙げる。


「我が国では絶対に採用されない戦略だ。火星転移前状況下でその様に動いたら、我が国発の第三次世界大戦が勃発しただろう」


 火星転移の切っ掛けとなった4年前の軍事的緊張を思い出して一瞬身体を震わせる鷹匠准将。


 イスラエル連邦軍とユーラシア大陸アジア・極東地区に展開するシャドウ帝国軍との戦況を気にしつつ、タカマガハラから出撃した北米大陸攻略部隊と、衛星軌道上を掌握した連合宇宙艦隊からなる地球連合防衛軍主力は北米攻略作戦の準備を進めていくのだった。


          ☨          ☨          ☨


【北米大陸 旧アメリカ合衆国ネバダ州グルームレイク近郊 人類統合政府第1都市『エリア51』地下司令部】


「深発地震による地殻変動が、太平洋側から収束に向かっています」


「カムチャッカ半島、カリフォルニア沖での火山活動は小康状態に向かっています」


 爬虫類人類レプティリアン兵士が司令席のダグラス・マッカーサー三世ことダグリウスに報告する。


「なるほど。質量均衡を最初にしたのか。

 では、次は火星の侵略者共が此処に押し寄せる事になりそうだな。

 各人類統合都市の防衛戦力を第2都市バンデンバーグ、第7都市フェニックスに集結させろ。北米大陸に奴らを誘いこんで返り討ちにしてくれようぞ。

 ナスカ基地の宇宙機動部隊は、此処に移動させて衛星軌道からの降下奇襲に備えろ」

ダグリウスが北米大陸での決戦準備を指示する。


「……ところで、侵略者共に仕掛けたバックドアシステムで生き残っているものはあるか?」

「"フォーウエイ"製品を未だに使用しているユニオンシティ残存勢力に幾つか在ります。火星ボレアリフシティ、空母『サラトガ』の基幹システムに張ったドアが未使用で残っています」


「……ふむ。『サラトガ』は確かアステロイドベルトまで進出していたな?」

「はい。プレアデス・エイリアンと共同で極東に降下した巨大要塞を建設していたと思われます」


 ダグリウスはしばし黙考した後に一つの指示を出す。


「『サラトガ』のデータベースが侵略者共と共有していた木星観測結果にアクセスし、全ての情報を収集するんだ。それと、地下施設のニュートロン加速器を稼働させろ。足りないエネルギーは他の人類都市から引っ張って来い……極秘の最優先事項だ」


「この星の研究室は潮時かもしれん」


 ダグリウスはそう呟くと、配下の爬虫類人類兵士が命令を実行すべく各方面へ指示を出す光景を視ながら手元の制御卓モニターに表示された木星重力分布データの解析を始めた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦首相。

・鷹匠=自衛隊地球派遣群司令。北米攻略作戦指揮官。少将。自衛隊第7師団師団長。

・マードック=地球連合防衛軍における鷹匠の副官。ユニオンシティ防衛軍大佐。

・リア=マルス人。マルスプレアデスアカデミー木星再生支援船団隊長。

・ダグリウス:ダグラス・マッカーサー三世=マルス人異端科学者。

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