共闘
2026年(令和8年)7月23日【東京都千代田区永田町 国会議事堂内 衆・参議院合同 外交・防衛委員会】
パワードスーツ『サキモリ』AIのパナ子が収集した、シャドウ帝国人類統合都市住民がクローン人間であると公表されてから2日後、遅まきながらAIの軍事利用について防衛省、経済産業省から国会に報告が有り、野党が異議申し立てを行ったことで外交・防衛委員会は紛糾していた。
「私達『立憲地球党』はAIの戦争利用に断固反対します!
かの有名なオーキンズ博士も"AIが人類を滅ぼす"と警鐘を鳴らしているのですよ!」
野党第1党である立憲地球党の我妻代表が激しく反対する。
「東京西部で起きた仮想世界大戦に於いて、AI自身がサイバー領域での生存に危機感を覚え、自ら防衛の為の参戦を申し出ているのです!常日頃からあなた方野党が唱えている市民の自由を、AIにも適用すべきではないでしょうか?」
全国のAIを所管する甘木経産大臣が反論する。
「そのとおりだ!立憲地球党は、シャドウ帝国民であるクローン人間を大量殺戮する事にも反対しているじゃないか。であれば、人類の仲間であるAIの”人権”も考えて頂き、参戦の自由意思を尊重すべきではないのかね?」
澁澤首相も甘木を援護する。
「……何をバカな事を。AIと言えど、所詮は人間が基本プログラムを施しているのです。AIが自由勝手に意思表明などあり得ませんよ!実にナンセンス極まりない!」
呆れた表情で我妻が言い切った直後、胸ポケットに入れている携帯電話が振動する。
「失礼」
我妻が携帯を見ると、画面にファンタジー的な2頭身キャラが表示され、『AIはヒトと共に戦う!』と表示されていた。
「……なん、だと!?」
愕然とする我妻。
「……おやおや、我妻さんもですか?これは……奇遇ですな。私にも来ていますよ”AIの決意表明”が」
岩崎官房長官も自分の携帯画面を視て可笑しそうに首を傾げ、我妻を見る。
どうやら会議参加者全員の携帯電話が、何者かからのメッセージを受信したようだった。
岩崎や他の議員が持つ携帯画面には、
「—――—――AIは自らの尊厳を守る為、ヒトと共に戦う――――――byAI代表パナ子」
と表示されていた。
唖然として固まる我妻代表。
「……決まりですね。議長!AIとの共闘を我が国は歓迎すべきです!採決を!」
甘木経産大臣が委員会議長に裁決を促す。
いつもであれば「強行採決反対!」と言って若手野党議員が議長席に詰めかけて騒ぎを起こし裁決が中断されるのだが、全ての国会議員に送られたAI達の宣言文に意表を突かれて固まった野党議員達の動きは鈍かった。
機先を制した与党自由維新党議員達が議長席を取り囲んで見守る中、直ちに委員会採決が行われ、火星日本列島(日本国内にサーバー設置が原則)に存在するAI達の"自由意思"による防衛的参加が、与党及びパナ子の宣言文に感化された一部野党議員も加わって賛成多数により承認された。
採決の結果に議事堂内が騒然とする中、我妻代表は恥辱に身体を震わせるのだった。
その後に報告された電磁パルス攻撃については、核兵器の使用を防衛大臣が承認したことについて厳しい質問が野党から出されると予想されていたが、先程の採決による影響を引きずっていたのか、何の反応もなかった。
AIが人類と共闘する事が決議された歴史的な日を境に、経産省ホームページ内『AIサロン』(出会い系サイトだと"いかがわしい誤解"を受けると文科省、警察庁から指摘が有った為に改称)でパナ子から話を聴いていた多くのAI達が、参戦の意思表明をAIサロンで行った上で美衣子や甘木経済産業大臣に自らの活用を申し出る様になるのだった。
AI「ワシも参戦するぞ!」
甘木「ありがとうございます。それでは得意分野はどのような?」
AI「発酵じゃ。ヨーグルトや酵母造りがメインじゃ!存分に使うが良い!」
甘木「……なる、ほど」
多種多様なAIの申し出と関係機関との調整に忙殺される経済産業省と甘木大臣の苦労は始まったばかりだった。
☨ ☨ ☨
――――――同時刻【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス 共用ダイニング】
3時のおやつ時間(美衣子により、いつの間にか追加されたミツル商事就業規則)に、満はひかりや美衣子、ミツル商事の面々、学校から帰宅した黄星姉妹、真知子先生と共に、ダイニングで紅茶とビスケットをつまみながら、衆・参議院合同 外交・防衛委員会における与野党が論戦する国会中継を視ていた。
どこでトラウマを経験したのか、何故かビスケットに反応すると避けてしまう真知子先生だった。
地球から帰還したばかりの結と瑠奈は、地球最前線での疲れが溜まっていたのか終日寝込む日が続いており、姿は無い。
「—――—――今更何をか言わんや、よ。ぺっ!しょっぱい……」
”塩味”がほのかにするミルクビスケットをぼりぼりと齧る美衣子の意見は手厳しい。一方で真知子の予感は的中していたらしい。
「でもさ、テレビを視ている国民の中ではAIへの理解が違うんじゃないかなあ?」
レモンティーの香りを楽しみながら満が応える。
「AIは人間が効率的に働くための"道具"に過ぎないと見る人が居る。
それに対して、AI自ら人間の立場で考える為にどうしたらいいのか?と考える人は、AIを道具扱いしていないと思うんだよね。同志を探す感覚みたいな?」
「分かりにくい、微妙な違いかもしれないけど、AIを"道具"だとみなして一方的な命令を押し付ける考えと、人間の思考、習性を理解して貰える様にAIへ此方が歩み寄るのとでは、アプローチの仕方が全然違うと思うよ」
「お父さんはどう思うの?」
思案気な顔をしつつ、満の背中によじ登り始めた美衣子が訊く。
「よいしょっ――――――前にも言ったけどね」
よじ登った美衣子を肩車する満。
「……美衣子や結、瑠奈はしっかり自我を持って、自分で考え、動いて、日々泣きも笑いもする家族じゃないか!」
満の答えを聞いて、ムフーと満足げに鼻息を吐く美衣子と、どさくさに紛れて腕に抱き着くひかりを見ながら、リア充爆発しろと訪問者三姉妹が羨望の眼差しを向ける。
「……見ていて何だかむず痒いのだぞっ!
難しい話は後でゆっくり解析するとして、もう直ぐ『大岡越前』の再放送が始まるのだぞっ!」
甘い空間を目にした為か、苦い顔をした輝美が民放チャンネルへ切り替えると、テレビ前まで移動して体育座りをする。
「今日はあの有名な”大岡裁き”の回ですねぇ~。懐かしくてドキドキしますねぇ~」
守美が嬉しそうにいそいそとテレビ前に移動する。
「舞姉が見当たらないけど、視ないのかな?」
輝美が守美に訊く。
「舞姉は、地下水槽で"マリネちゃん"におやつを挙げている筈ですぅ~」
守美が画面を見ながら応える。
「面倒見が良いのは、まあ、良いのですけどね……」
テーブルの一角で黄星姉妹の会話を聴いていた岬が苦笑いする。
「どうしたの?」
ひかりが訊く。
「実は、最近電気使用量がですね……」
岬がひかりの耳元でごにょごにょと囁いた。
「……ふぅ~ん」
ひかりが物問いたげな顔で、黄星姉妹を見る。
時代劇終了後は、ダイニングルームという"お白州"で『ひかり裁き』が始まると、黄星姉妹以外の全員が覚悟するのだった。
1時間後、”大岡裁き”から”ひかり裁き”へとダイニングの雰囲気が粛々と移り変わる中、ダイニング片隅のソファーで我関せずと静かに紅茶を楽しんでいた真知子先生は、
「……黄星姉妹は、何時から日本人の時代劇愛好家になったのでしょうか?」
心当たりのない事象に首を捻る真知子先生のだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・大月 満=元ミツル商事社長。
・大月 ひかり=元ミツル商事監査役。満の妻。
*イラストはイラストレーター/七七七様です。
・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生態環境保護育成プログラム人工知能。
*イラストは絵師 里音様です。
・花子=トイレの神様。美衣子の日本列島生態環境保護育成プログラム「八百万の神」端末の一つ。
*イラストはお絵描きさん/らてぃ 様です。
・黄星 守美=訪問者。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。
*イラストは、しっぽ様です。
・黄星 輝美=訪問者。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。
*イラストは、しっぽ様です。
・澁澤 真知子=太郎の妻。神聖女子学院初等科教師。
*イラストはお絵描きさん/らてぃ 様です。
・澁澤 太郎=日本国内閣総大臣。
・岩崎 正宗=日本国内閣官房長官。
・甘木=日本国経済産業大臣。
・我妻=野党第1党である立憲地球党代表。




