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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
174/462

アンゴルモア

挿絵(By みてみん)

自衛隊パワードスーツPS21型。陸宙で使用可能。一人乗り。

2026年(令和8年)7月9日【地球 欧州西部40,000フィート上空『マロングラッセ』】


 弾道ミサイル迎撃の為に、灰色の空を垂直に近い角度でぐんぐんと上昇していく瑠奈が乗る戦闘艦『マロングラッセ』。


 マロングラッセから遠く離れた極東方面上空には、降下時に地球大気と接触した影響で赤く輝く人工日本列島『タカマガハラ』と降下速度を減衰しようとシールドを張り続けるマルス・アカデミー・基幹母艦船団の姿が望遠モニター越しだが僅かに視界に入る。


「—――—――遂に来たっス」

冷めた口調で小さく呟く瑠奈。


 かつて、月面と言う『人工天体』管理システムだった瑠奈から見れば、タカマガハラは微小な岩塊に過ぎないため、それほど感慨も湧かない。


「3時、9時方向からミサイル群急接近っス!」


 マロングラッセの警戒システムが弾道ミサイルを次々と捕捉して、瑠奈の注意を完全にタカマガハラから引き離す。


「ロックオン!ファイアっス!」


 マッハ20の極超音速へ加速する弾道ミサイルに向け、マロングラッセからプラズマを内包した特殊弾頭のレールガンが左右の宇宙空間へ発射される。


 瑠奈の孤独な迎撃戦が始まった。


          †          †          †


――――――同時刻【インド洋東部 ディエゴガルシア島沖 東方100Kmの空域 地球連合防衛軍 空中戦艦『マンスフィールド』】


「本艦直上、高度35,000フィートを『タカマガハラ』が通過中!現在速度マッハ15から減速中」


 艦橋の司令官席に座るジョーンズ中将達の腹に、くぐもった唸り声のような振動音が上空から伝わってくる。

 やがてディエゴガルシア島周囲が上空からの轟音に包まれ突然の暗闇が訪れると、激しい攻防戦を繰り広げていた両軍は戦闘を中断して空を見上げ、思わず息を呑んで呆然としてしまう。


 火山灰で薄曇りのインド洋遥か上空を、鈍い轟音と共に薄らと光る緑のシールドに包まれた『タカマガハラ』が、周囲の空気を赤く輝かせながら、ゆっくりと白煙を引きながら通過していく。


 地上からはゆっくりとした動きに見えるが、実際はマルス・アカデミー・基幹船団のシールドを利用して減速する全長1,500Km、幅400Kmの人智を超えた巨大岩盤が、極超音速で地球大気を圧迫しながら降下している。

  

「まるで、ノストラダムスの予言に出る、アンゴルモア大王の降臨だ」

戦慄した表情で、艦橋窓際から上空を見上げて呟くジョーンズ。


「……ジーザス」

何人ものオペレーターが艦橋の床に膝まずいて十字を切ると神に祈りを捧げる。


「北米救出作戦の時と同じ光景か……」

呟くジョーンズ。


 ディエゴガルシア島周辺上空は人工日本列島で覆われ、数分間の暗闇に包まれていた。 


「中将!衛星軌道艦隊『ホワイトピース』から通信!EMP(電磁パルス)攻撃間もなく開始されます!」


「遅きに失した感もあるが、これ以上シャドウ帝国側に応手を取らす訳にはいかん。全艦、対電磁防護シールド展開!全部隊は速やかに電磁防護シールド内に退避せよ!」


 輪形陣を組んだマンスフィールド級空中戦艦の艦首から、バチバチと白く輝くプラズマドームが出現すると、周囲の艦隊や攻略部隊に拡がっていく。


 程なくして、ユーラシア大陸と北米大陸上空で複数の閃光がチカッと瞬くと、緑色のカーテンが計算通りにそれぞれの大陸上空を薄く覆う様に拡散していき、急激に増大する電磁波の影響を受けた大気圏上層部では大規模なオーロラが断続的に発生した。


【地球連合防衛軍 空中戦艦『マンスフィールド』】


「敵海上戦力の攻勢が急激に低下。わが軍が押していますっ!」

作戦参謀がジョーンズに報告する。


 艦橋のメインモニターには、先鋒部隊の空中戦艦と空中巡洋艦が動きの鈍ったサイボーグ・ワームを次々とレールガンで貫いて無力化していく様子がリアルタイムで映し出されている。


「この機会を逃すな!対電磁防護シールド解除。続いて電磁シールド展開!全軍前進!一気にディエゴガルシアを攻め落とすぞ!マンスフィールドも先頭に出せ!総力戦だ!」

勝機と見たジョーンズ中将が全軍による攻勢を命令する。


 攻略部隊の先頭にジョーンズ中将が指揮するマンスフィールドが加わると、空中艦隊はレールガンと誘導ミサイルを更に激しく発射してサンゴ礁で出来たディエゴガルシア島全域に撃ち込んでいく。

 空中艦隊外周に展開しているWB21ワームバスターは、生き残った人類統合政府軍のフリゲート艦や低空すれすれを飛んで反撃を試みる飛行艇にミサイルを発射して撃破していく。


 北半球各地とアジア地区のサイボーグ・ワームは、強力な電磁波によって疑似生体細胞と電子回路内部がショートして焼け爛れ、体中から煙を噴き出して活動を停止した。


「中将閣下。ディエゴガルシア島に上陸したストライカー機械化歩兵部隊から、地下施設入口への進入路を確保したとの連絡が入りました。敵撃滅まであと一歩です!」


「ご苦労。だが油断するな。空中艦隊はディエゴガルシア島を包囲せよ。敵は元CIAのマッカーサー三世だ。どんな隠し玉を残しているか分からんぞ!偵察部隊は慎重に地下基地へ侵入せよ。少しでも異常を感じたら直ちに退避せよ!」


 作戦参謀の報告を受けたジョーンズは、それでもダグラス・マッカーサー三世の悪辣な性分を考慮して慎重に偵察を試みるのだった。


――――――【地球欧州 イングランド島北部 ニューグラスゴー海軍基地】


 滑走路上に巨大なサイボーグ・ワームの群れが頭と胴体を何箇所もレールガンで撃ち抜かれて斃れていた。サイボーグ・ワームの死体の中にはホバークラフト走行可能な無人戦車の破壊された砲塔や車体がちらほらと混じっている。


「ロイド提督。上陸した特殊部隊から基地内の制圧を完了したと報告が入りました」


 情報参謀が司令官席で作戦地図を凝視するロイド提督に報告する。


「ふむ。特殊部隊は輸送艦に収容し休息を取らせてください。第2陣の機械化歩兵に基地周辺の守備を引き継がせるように。工兵部隊は直ちに基地機能の復旧を。ニューベルファストの物資と残りの部隊はミサイル迎撃後に全て此処へ移動させましょう」


 基地の奪還が成功したロイド提督は直ぐに基地機能の復旧を命令する。


「……せっかく奪還した基地ですが、核ミサイルの直撃を受けたらひとたまりもありません。艦隊の警戒態勢はそのまま。電磁シールドは最大出力です」


 地上の戦いはロイドが勝利したが、本当の戦いは未だ上空で続いていたので警戒を緩める訳にはいかなかった。


「作戦参謀。ミス瑠奈の戦況は?」

「……上空で弾道弾の迎撃中。今までのところ、撃ち漏らしはありません」


 ロイドに訊かれた作戦参謀がタブレット端末で状況を確認して報告する。


 作戦地図から顔を上げたロイド提督は、上空で孤独な迎撃戦を遂行する瑠奈の身を案じていた。


「情報参謀。衛星軌道艦隊に支援要請。ミサイル迎撃中のミス瑠奈への支援を至急要請してください」


 イングランドを始め各戦線でサイボーグ化されたサイボーグ・ワームと無人戦車の物量に苦戦を強いられていた連合防衛軍は、EMP攻撃後にサイボーグ・ワームや無人戦車軍団の機能停止を確認すると、直ちに反撃に転じるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・ジョーンズ=地球連合防衛軍オセアニア地区司令官。ユニオンシティ防衛軍中将。

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