地球の一番長い日【中編】
【東京都千代田区永田町 首相官邸 簡易応接室】
美衣子に連れられて来た黄星三姉妹が、澁澤太郎総理大臣と岩崎正宗内閣官房長官の前で正座していた。
「この度は私達が興味本位で多大な損害を人類に与えてしまった事を謝罪するのだぞっ!と」
正座して謝罪の弁を述べる黄星舞だが言葉遣いまではあらためる事が出来なかった。
「右に同じです。誠に申し訳ございませんですぅ」「心からおわびするのだぞっ!」
黄星守美、黄星輝美も謝罪するが、やはり言葉遣いまではあらためる事が出来なかった。
「……ここへ来る前にケビン首相には会いましたか?」
岩崎官房長官が訊く。
「はい。真っ先に訪問させて頂き、深く謝罪したのだぞっ!と。その場にジャンヌ首相も同席していたので深くお詫び申し上げてきたのだぞっ!と」
三姉妹を代表して舞が答える。
「そうですか。あなた方が我々地球人類の理の外で動かれることについて、残念ながら私達には止める力がありません。これからあなた方はどうされるおつもりですか?」
岩崎が訊く。澁澤総理大臣は腕を組んで目を瞑ったまま無言を保っている。
「私達は地球へ向かっている”浮島”を護るのだぞっ!と。そして可能な限り地球で闘う人を手助けするのだぞっ!と」
舞が答える。
「……わかりました。ケビン首相やジャンヌ首相から話は聞いていました。我々地球人類としては、あなた方の言葉を信じるしかありません。あなた方の働きに注目させていただきます」
澁澤総理大臣は黄星三姉妹にそれだけ言うと、岩崎官房長官を伴って直ぐに応接室から出て行くのだった。
「さあ、急いで人工日本列島に追いつくのよ。時間は有限よ」
正座して項垂れる黄星三姉妹を急き立てる美衣子だった。
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2026年(令和8年)7月8日午前6時30分【地球 オセアニア オーストラリア大陸中央部ノーザンテリトリ-準州 テナントクリーク地球連合防衛軍基地】
「ジョーンズ中将。攻略部隊出撃準備完了」
ジョーンズ中将がマイクを手に取ると、マンスフィールド級空中戦艦やシェフィールド級空中輸送艦に搭乗した兵士達へ呼び掛ける。
『勇敢なる戦士諸君に告ぐ。この反攻作戦は、宇宙空間も含めた、地球規模で同時進行する人類史上最大の作戦となるであろう。
まず、月面から北半球全域にニュートリノビームを照射する事によって、北半球に存在する全ての核兵器を無力化する。
その後、先制EMP(電磁パルス)攻撃と隕石デブリによる戦略爆撃を衛星軌道上から行い、人工日本列島の極東地区降下を行う。戦士諸君らの奮闘に期待する!』
「全部隊出撃。目標、インド洋ディエゴガルシア島シャドウ・マルス基地!」
テントクリーク基地から、二十数隻のマンスフィールド級空中戦艦とその倍を超えるシェフィールド級空中輸送艦が飛び立った。
オーストラリア大陸西部沖に到達したジョーンズ中将率いる空中艦隊は、既に待機していた海上艦隊と合流して、インド洋へ向かった。
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――――――同時刻【地球 欧州イングランド ブリテン島 ニューベルファスト基地】
ニューベルファスト基地の地下格納庫から、WB21型偵察機が滑走路に進入する。
「偵察機発進せよ!目標、イングランド島北部ニューグラスゴー!」
僅かなホバリングで火山灰を巻き上げながらふわりと上昇した偵察機は、低空のまま対岸のニューグラスゴーへ急発進していった。
「ロイド提督、奪還部隊搭乗完了しました!」
「『マロングラッセ』に信号送れ。ニューグラスゴーへ進撃せよ!」
銀色に輝くマルス・アカデミー・多目的戦闘艦は、ニューベルファスト軍港から出港した戦略ミサイル原子力潜水艦を改造した多目的戦艦『レナウン』に合流すると対岸のイングランド島へ向け突き進んで行く。
とある人影が、基地の滑走路から飛び立ったマロングラッセを眺めていた。
「中佐は、この作戦に出撃しないのか?」
いつの間にか、隣に来ていた女王陛下がワイズマンに訊く。
「実は新テルアビブから、私宛に召喚命令が出ているのです。秘密漏えいの疑いで隊長を解任されましてね」
そう言うと肩を竦めるワイズマンだった。
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――――――さらに同時刻【地球中東 旧トルコ共和国中部 カッパドキア地区】
「アララト山天文台斥候から報告。黒海方面で活動中の巨大ワーム群は昨日から変動なし!現在、成層圏上空を人工日本列島=コードネーム"ドラゴン"が通過中!」
「"ドラゴン"は、月面からのニュートリノビーム照射後、衛星軌道から北米大陸とユーラシア大陸へ向けEMP(電磁パルス)爆弾を投射します。EMP影響範囲にいる作戦部隊は、直ちに所定の防護車両へ退避せよ!」
「人工日本列島『タカマガハラ』司令部から、エリア・ホンシュウからエリア・キュウシュウまでの電磁投射カタパルトスタンバイ完了。間もなく、各地域の戦略目標へ投射爆撃を開始します!」
「こちらカッパドキア砲兵隊。目標照準、戦闘準備完了!」
『砲撃開始!全部隊前進せよ!』
地下都市入り口に展開していたイスラエル連邦軍砲兵隊から、榴弾砲や多連装ミサイルが間断なく発射されると、カッパドキア地区の奇岩にたむろする、サイボーグ・ワーム群に砲弾が降り注いで容赦なく噴き飛ばしていく。
砲弾が降り注いだ後には、岩陰からWB21ワームバスターの大編隊が現れ、機首のバルカン砲が火を噴き、両翼ロケットランチャーから対戦車誘導ミサイルを次々と発射して、生き残っていたサイボーグ・ワームを鋼鉄の嵐で殲滅していく。
「そのまま進め!奴等を黒海に追い落とすのだ!」
軍団長が指示する。
WB21ワームバスターに続いてカッパドキア奇岩群の隙間から、独特の楔型砲搭を持つメルカバMK3戦車の隊列が姿を現し、改装された砲身から120mmレールガンを発射する。
中東戦線は、圧倒的な物量攻勢で人類側が優位に立とうとしていた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・ペレス・ワイズマン=イスラエル連邦軍 元特殊部隊隊長。ミツル商事警備部門英国欧州抵抗部隊へ出向中。
・ジョーンズ=地球連合防衛軍テナントクリーク基地司令官。ユニオンシティ防衛軍司令官。中将。
・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東軍提督。地球連合防衛軍欧州抵抗部隊指揮官。




