サキモリ出撃
2026年(令和8年)7月5日0時2分【月面都市ユニオンシティから45Kmの宇宙空間】
月面都市ユニオンシティを背に、横一列となって展開するユニオンシティ防衛軍巡洋艦『インディアナポリス』、日本国航空・宇宙自衛隊多目的護衛艦『そうりゅう』、ユーロピア共和国軍巡洋艦『ドゥ・リシュリュー』は、装備しているレールガンやバルカン砲、対空ミサイルを全力で発射して、敵に損害を与え続けていたが、損害をものともせずに突撃を繰り返すシャドウ帝国軍の猛攻に、ミサイルが不足し、加熱したレールガン砲塔の冷却・砲身換装に手間取り、所々に弾幕の空白地帯が生じていた。
「こちら『ドゥ・リシュリュー』。ミサイルを撃ち尽くした。レールガンも砲身が焼け焦げかけている――――――っ!?しまった!敵機1機の通過を許した。『インディアナポリス』へ向かっている!」
耐熱タイルで覆われた細長い戦略ミサイル原子力潜水艦を掠める様にオリーブ色のミグ98戦闘機が飛び去っていく。自動追尾の20mmバルカン砲がミグ機に弾幕を放つが、敵機を捉えるには至らなかった。
結が配備した自動防衛衛星と列島各国宇宙艦艇の攻撃を掻い潜ったミグ98宇宙戦闘機が、ユニオンシティ防衛軍巡洋艦へ肉薄してミサイルを乱射する。
ミサイルを発射した直後、『ドゥ・リシュリュー』の20mmバルカン砲と自動防衛衛星から放たれたレールガンがミグ98宇宙戦闘機をズタズタに貫いて紅と灰色の煙玉の塊へと変えていく。
『こちらインディアナポリス!横っ腹にミサイルを喰らった!機関破損、水素燃料圧力低下!燃料が外へ漏れてる!艦内温度上昇。エンジン出力急速低下!電気系統がやられた。操舵不能!』
「インディアナポリス!総員退艦しろ!艦を棄てるんだ!」
『駄目だっ!脱出艇格納庫も大破、使用不能!このままだと、ユニオンシティに墜落してしまうっ!』
艦内から、水素燃料と水蒸気を含んだ白煙を大量に吐き出す巡洋艦が、ゆっくりと高度を下げながらユニオンシティ市街地へ落下しようとしていた。
† † †
――――――同時刻【ユニオンシティ地下2Km マルス・アカデミー地球観測施設内 】
サキモリのコクピットに入ったソフィーを、搭載AIがコントロールパネルに表示されてソフィーを出迎える。
『ようこそサキモリへ。"サキモリ"機体制御AI、パナ子ですの』
「よろしく。ソフィー・マクドネル少尉よ、認識番号20239685」
『金髪美少女キター!』
突然画面の中で歓喜して舞い踊るパナ子。
「ええっ!?」
『でもでも、私にはケンという素敵な彼が居るのでごめんなさい……』
お断りポーズで頭を下げるパナ子。
「……構いなく、私もそういうの趣味じゃないから」
パナ子のテンションについて行けず、少し引きながら応えるソフィー。
『という事で、暗証コード『百合趣味』照合完了、システム起動、操縦系統解放』
急に真顔に戻って機体を稼働させていくパナ子。
「何ていい加減な暗唱コード!?……ま、いいわ。直ぐに防衛部隊に加勢したいのだけど、出来る?」
パナ子の応対に呆れつつも、基地の外で展開される戦闘に加勢すべく気持ちを切り替えるソフィー。
『イエスマム。シートベルト装着を。水素イオンエンジン出力上げます。"サキモリ"出撃ゲートへ移動』
白い塗装が施されたパワードスーツが、カタパルトごとエレベーターに乗って、月面地表へ上昇していく。
† † †
――――――【ユニオンシティ防衛軍司令部】
迫りくるシャドウ帝国軍部隊への対応で慌ただしさを増す司令部の一角で、『サキモリ』の稼働状況を表す管制モニターを視る結と東山。
「……これで何とかなるかしら」
サキモリの管制モニターを見守っていた結がホッと息をつく。
「彼女、本当に大丈夫でしょうか?」
パワードスーツ訓練無しで乗り込んだソフィーを心配する東山。
「少なくとも、彼女は貴方より積極的。AIパナ子のサポートが嵌れば大丈夫よ」
モニターを無表情で眺める結だった。
一方で、ユニオンシティへ落下を続ける巡洋艦への対応に追われていた。
「自衛隊パワードスーツ!インディアナポリスの救援へ向かってくれ!」
通信オペレーターが高瀬中佐に呼び掛ける。
『こちら自衛隊PS高瀬。無理だ!敵艦隊と交戦中。弾幕を避けるので精一杯だ!』
ミグ戦闘機に続いて自動防衛衛星群を突破してきた宇宙戦艦の放つレールガンやビームを躱すのに忙しい高瀬操るパワードスーツ。
「誰か巡洋艦を救えないのか!?」
焦りの色を濃くする作戦将校。
巡洋艦が都市に墜落するかもしれない、最悪の状況を司令部の誰もが想像した時、突然、司令部に少女の声が響き渡った。
『こちら機動兵器『サキモリ』ソフィー・マクドネル少尉です。これより巡洋艦救助に向かいますっ!』
「『サキモリ』とは何だ!?」
司令部の将校達が顔を見合わせる。
「私が研究開発しているAI制御の、新型パワードスーツよ」
白衣を纏う結が、フンスと胸を張って将校達の前へ進み出る。
「……彼女は通りすがりの戦闘機乗り。大破した空母の飛行隊所属みたいね」
「……よし!『サキモリ』巡洋艦を、ユニオンシティ郊外へ不時着させてくれ!」
結の説明に、何故通りすがりの少女を乗せたか等、突っ込み所満載の将校達だったが、月面都市を救う為に気持ちを切り替える。
『サキモリ、ラジャ!』
元気よく応えるソフィー。
白く清楚に塗装されたパワードスーツ『サキモリ』が、推進炎を勢いよく噴き出しながら、艦体から大量の水蒸気と煙を吐き出して落下を続ける巡洋艦の艦首に取り付くと、逆噴射エンジンを点火させ、都市郊外へゆっくりと艦首の向きを変えて都市郊外へ移動させていく。
「……何というか、牧場で牛を宥めるのよりは簡単ね」
パワードスーツの操作性に感嘆するソフィー。
サキモリが巡洋艦艦首に取り付いて15分後、大破した巡洋艦『インディアナポリス』は無事、ユニオンシティ郊外に在る訓練区画へ不時着した。
巡洋艦と『サキモリ』の様子を見守っていた司令部内の将兵から歓声が挙がる。
「『サキモリ』よくやった!次は、接近中の敵艦隊を迎撃だ。出来るか?」
『問題有りません!自分だけでありますか?支援機は?』
疲れを見せずに応えるソフィー。
「日本のパワードスーツが援護する」
『了解。敵艦隊の下から仕掛ける!』
ソフィーが背中のバーニアを噴かし、『サキモリ』が最大出力で敵艦隊へ吶喊する。
やがて、ソフィー眼前にあるディスプレイに、画像処理された敵艦隊が表示される。
『敵艦隊捕捉ですの。50mmガトリングガン射程に入ったですの。バックパックのロケットランチャーを自動照準、射撃モードへ移行ですの。全武装、ロック解除ですの』
パナ子が次々と武装のロックを外して戦闘態勢を整えていく。
「よし!味方艦隊下から突撃して、敵艦隊の陣形を崩すわよ!」
ガトリングガンを構え、ディスプレイのミサイル照準が敵戦艦を捉えたのでソフィーが叫ぶ。
『イエスマム。エンジン出力120パーセント、電磁シールド展開、最大加速』
瞬く間に流星と化したサキモリが、防衛艦隊と砲撃戦を繰り広げている敵艦隊の下から突き抜ける様にガトリングガンを乱射しながら、ロケットランチャーからミサイルを四方にばら撒いて突撃する。
ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
【このお話の登場人物】
・大月 結=マルス・アカデミー・尖山基地管理人工知能。マルス三姉妹の二女。
*イラストは、絵師 里音様です。
・東山 龍太郎=日本国内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長兼地球連合防衛軍月面基地臨時司令官。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。
*イラストレーター 更江様の作品です。
・ソフィー・マクドネル=ユニオンシティ防衛軍戦闘機パイロット。少尉。カンザス州出身の17歳、女性。
*イラストは、鈴木プラモ 様です。
・高瀬 翼=日本国航空・宇宙自衛隊 特殊機動部隊隊長。階級は中佐。乗機は菱友重工が開発した21型パワードスーツ(H21-PS)。
*イラストはイラストレーター 鈴木 プラモ様です。
・パナ子=パワードスーツ『サキモリ』機体制御システム人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。経済産業省HP内 AI出逢い系サイトの常連。AI彼氏が居る。
*イラストは、お絵描きさん らてぃ様です。




