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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
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月の戦い③

挿絵(By みてみん)

2026年(令和8年)7月4日23時01分【月面都市ユニオンシティから90kmの宇宙空間】


 黄少佐はコクピット内に警報音が鳴り響くと、脅威の方角を確認しないまま、反射的に操縦桿を前へ思い切り倒した。


 コクピットの下部少し後ろにある姿勢制御ノズルがバシュッ、と炭酸ガスを噴出して機体を強引に上へ向けると、先程まで機体の在った空間を、幾筋ものレーザーとレールガンの輝きが貫いていく。


 黄少佐は機体に装備された電子機器に頼らず、自身の視界と勘に従って敵弾を避け、同士撃ちを躱し、レールガンと小型ミサイルを乱射する敵の自動迎撃衛星群の攻撃を突破しながらジグザグに飛行して、敵艦隊へ肉薄しようとしていた。


 やがて、近距離レーダー反応がヘッドアップディスプレイに表示された後、レールガンやレーザーを周囲に放つ艦影が黄少佐の視界に入る。


「こちらシャオランリーダー。敵空母と巡洋艦がミサイルの射程に入った!」


 カチカチと僚機からの返事を示す無線スイッチ音が、返って来る。

 僚機も戦闘機動に忙しく、声を挙げる暇も無い様子だった。


 コックピットに表示された戦域情報は、交戦開始時に60機だった人類統合政府軍が異星人迎撃衛星と機動艦隊の弾幕による防衛陣に阻まれて、7割を超す甚大な損害を示していた。

 このままでは、本隊は援護の無い状態で敵月面基地へ突撃する事になりそうだった。

 本隊の損害を少しでも減らすべく、黄少佐は敵空母への肉弾攻撃を決意する。


「こちらシャオランリーダー。これより敵空母に突撃する!皆の幸運を祈る!人類統合政府万歳!第12都市万歳!」


 戦域通信で周辺宙域の味方に宣言した直後、黄少佐の後方を進む本隊から援護射撃のレールガンやレーザー砲、宇宙魚雷が敵艦隊へ放たれた。

 少しでも敵艦隊の注意がそちらへ逸れる事を期待して黄少佐は乗機の機首を敵空母へ向ける。


敵空母は、前方から迫る宇宙魚雷や、向かってくる数少ない味方機の迎撃に気を取られている様子だった。


「距離500m。ミサイルランチャー全弾発射」


 黄少佐のミグ戦闘機は、敵空母の斜め後から接近すると、短い両翼に温存した16連装ミサイルランチャーを一斉に放つ。

ランチャーから飛び出したミサイルが、一直線に敵空母へと向かっていく。


 攻撃を終えた黄少佐は、敵艦の対空砲火から離脱すべく機体を反転させた直後、敵空母護衛機の放った50mm弾を左主翼に被弾してコントロールを失った。

 視界がぐるぐると回転する中、ストライプ模様の敵空母甲板が眼前一杯に拡がった所で、黄少佐の意識は断絶した。


          †          †          †


 高瀬中佐が操る自衛隊パワードスーツは、空母『ミッドウェイ』にミサイルを乱射したシャドウ帝国軍戦闘機に50mmガトリングガンを直撃させていた。


「しまった!」

一撃爆発を狙ったが外してしまう高瀬。


 ガトリングガンで損傷したミグ98戦闘機はコントロールを失ってくるくると回転しながら、ミッドウェイの広大な飛行甲板に激突して爆発した。


 脱出者は居なかった。


          †          †          †


――――――【月面都市『ユニオンシティ』防衛軍臨時司令部】


 最終防衛線を突破されたユニオンシティ司令部では、敵艦隊の接近を知らせる各種警戒センサーの警報音が鳴り響き、オペレーターが慌ただしく動き回って各隊に指示を与えていた。


「空母『ミッドウェイ』大破!戦線離脱します!」


「『ミッドウエィ』は直ちに帰投せよ!宇宙ターミナルはミッドウェイ入港に備えろ。消火隊出動!」


「シャドウ帝国軍艦隊40Kmまで接近!拡大画像出します!」


 司令部のメインスクリーンに、じわじわと接近する5隻の敵艦影がズームアップされる。


「中央の2隻はまるでB2爆撃機を上下にくっつけた感じだな。その隣は、潜水艦改造型か?」

「艦影照合。90パーセントの確率で旧ロシア海軍タイフーン級戦略ミサイル原子力潜水艦『アドミラル・クズネツォフ』に酷似しています!」


「我々も、ロスアンゼルス級原潜を宇宙用に改造しているからそんなものか」


「中央の旗艦と思われる1隻は、アース・ガルディア宇宙艦隊旗艦の『ピョートル大帝』に似ていますね」

「支援機も無い状態で艦隊毎突撃するなど、奴ら何を考えている!?」


「それに、あのB2合体型の下に在るコンテナは何だ?明らかに怪しいぞ!」

「おい!敵戦艦の下に人間が張り付いているぞ!」


「馬鹿、よく見ろ!あれはロボットだろ!」


 司令部に詰めている作戦将校や情報将校が、モニターから推測される戦力評価を行っていく。


「今回の敵襲は、単に航空撃滅戦で此方の戦力を削るだけでは無い様ね。月面都市を確実に殲滅する事が目的ね……」

モニターに表示された敵艦隊戦力分析内容を一瞥すると呟く結。


「しかし、現有戦力では戦闘機の侵入を防ぐだけで精一杯です!艦隊を迎え撃つなど不可能です!」

作戦将校が応える。

 

「……何とかするしかないのよ。今、月面を奪われたら地球の部隊は孤立して、今度こそ人類は全滅するわ」

結が作戦将校を叱咤する。


 先程の戦闘では、2年前のアース・ガルディア戦役で効果を発揮した、敵戦闘機の機動パターン解析が通用しなかった。

 マルス・アカデミーの支援を受けた圧倒的な戦いではなく"同格の相手"と戦う事に秘かに焦りを覚える結だった。


「敵戦艦に張り付いたロボットが携帯しているスナイパーライフルに注意せよ!奴らは隠し玉をまだ持っている。くれぐれも用心しろ!」

緊張した声で情報将校が防衛部隊に警告する。


「敵艦隊から射撃管制レーダー、照射されました!」


「自衛隊パワードスーツは敵戦艦の撃沈を優先!『そうりゅう』『ドゥ・リシュリュー』『インディアナポリス』は、最終防衛線に展開する迎撃衛星群後ろまで前進!これ以上敵の接近を許すな!」


 シャドウ帝国軍艦隊からの直接砲撃が始まると、結が東山のスーツの裾を掴んで注意を引く。


「東山、ちょっと付いて来なさい」

結が白衣を翻して司令部を出ると、慌てて東山が後を追った。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 結=マルス・アカデミー・尖山基地管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、絵師 里音様です。


・高瀬 翼=日本国航空・宇宙自衛隊 特殊機動部隊隊長。中佐。

コウ 浩宇ハオユー=少佐。人類統合政府軍宇宙機動部隊戦闘機パイロット。

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