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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
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月の戦い②

2026年(令和8年)7月4日【地球 欧州 イングランド ブリテン島 ニューベルファスト防衛軍レジスタント基地】


 ユーラシア大陸の偵察任務から帰還した、瑠奈とワイズマン中佐の部隊は、ひと時の休暇を過ごしていた。

 瑠奈は、朝から地下司令部隣に在る女王陛下の控室で、女王陛下とロイド提督の三人でひたすら土を捏ねている。


「……瑠奈よ。そろそろ、この土いじりの意味を教えてくれぬかのぅ?」


 女王陛下は、ドレスの上に作業用エプロンと言う、儀典関係者が見たら卒倒するような服装で、床の上で胡坐をかきながら土を捏ねていた。


「……私も同感ですな、ミス瑠奈。この土が、レジスタンスに役立つのですかな?」


 戦闘服に作務衣というコーディネートで日曜大工に励むロイド提督が、手を休めずに質問する。


「火山灰と粘土のバランスが、絶妙で重さも軽いっス!軽石っス!」

瑠奈が二人へ、ニパッと笑顔を向ける。


「軽石は分かるが、こんな軽い石をバグズにぶつけた所で、ダメージは与えられんだろうに」

呆れた表情の女王陛下。


「違うっスよ陛下!虫なんかに使うのは勿体ないっス!マンスフィールド級に使うんっス!」


 瑠奈がマンスフィールド級の模型を取り出すと、粘土の塊でコーティングする。


「この火山灰入りの粘土をタイル状にして、空中戦艦の外壁に付けるとあら不思議!

 耐熱・断熱効果が有って、真空中でも船体が維持できるっス!」

立ちあがってエヘンと胸を張る瑠奈。


「それは素晴らしい事だがのう。一体どれくらいのタイルを作るつもりだ?」

頭の上に?マークを付けたような顔で瑠奈に質問する女王陛下。


「100万枚っス!」

「何時までに?」


「明後日までッス!」

「……ちょっと待てやコラ!」

瑠奈の清々しい返事に、雄々しい言葉遣いと共に青筋を立ててしまう女王陛下。


「陛下すいません。ミス瑠奈は、何かと思い付きで生きる生物でございまして……」

慌ててフォローを試みるロイド提督。


「ロイドおじさん酷いっス!」

抗議する瑠奈。


「お嬢!こんな所に居たんですか。コントはいいので、司令部からの呼び出しに応答してくださいよ……」


 ワイズマン中佐が控室のドアをノックして入るなり、床で格闘している三人組を見てうんざりしたような顔をする。


「あれっ!?ごめんっス!電源切ってたっス!」


「此処は平和な日本では無いのですから、しっかりしてくださいよ」

うっかりした顔で謝る瑠奈に、ため息をつくワイズマン中佐だった。


「それで、司令部の連絡は何っスか?」

「お嬢の携帯端末にメッセージを送っています。読んだら、直ぐに行動して欲しいとの事です」


「またイスラエル司令部の、無茶振りな命令っスか?」

「いえ。月面ユニオンシティのミス結からです」


「結姉さまっ!」


 久々に聞いた懐かしい姉の名前に血相を変えた瑠奈が、携帯端末を起動してメッセージを受け取った。


「ふむふむ……。ユーラシア大陸東部に出来た『人類統合政府』の国民について調べろと?」

瑠奈が首を捻る。


「お嬢、あれですよ。先日ソールズベリー卿を救助した後に到着したイスラエル特殊部隊が、バイコヌール郊外で救助したヘリコプターパイロットの事じゃないですかね?」

ワイズマンが指摘する。


「人類統合政府の情報は、作戦会議で発表された筈っス!」


「ミス結が知りたいのは、パイロット自身の情報じゃないですか?」


「イングランドのウチラに、どうしろと言うんっスか?」

瑠奈は首を捻っていたが、


「さあ……ハッキングなんて勧めている訳ではない様ですしね……」


「それっス!!」

ワイズマンの呟きに反応する瑠奈。


「マロングラッセから試してみるっス!」

そう勢いよく叫ぶと、瑠奈は階段を駆け上ってマロングラッセに向かう。


「さてと……」

ワイズマンも踵を返そうとして階段へ向かおうとしたが、後ろから制服を掴まれる。


「……なぁ。貴殿もちょっと此処に座って、土でも捏ねてみんかの?」


 素敵な笑顔の女王陛下と、諦念の面持ちのロイド提督が泥だらけのエプロンをかけて手招きしていた。


          ♰          ♰          ♰


 結局、月面ユニオンシティ最終防衛線まで拡大した戦闘は、襲来したミグ98宇宙戦闘機編隊がF45戦闘機部隊に大損害を与えたものの、防衛線を突破する事が敵わず、一時的に地球の反対側へ退却した事で終息となった。


 ユニオンシティ防衛軍は、主力のF45宇宙戦闘機部隊が戦力壊滅判断とされる3割を上回る、4割の損耗率で事実上壊滅した。

 月面都市独立戦争時よりもF45戦闘機の改修に力を入れたものの、ミグ98宇宙戦闘機の性能が遥かにF45を向上しており、相対的にドッグファイトで競り負ける形となった。


 結の惑星磁力線を活用した観測によると、退却したシャドウ帝国軍はB2宇宙爆撃機と合流して補給を受けており、再度の月面都市来襲は確実だった。


「……防衛体制の見直しを考えるしかないわね」

結が、東山と作戦将校に向けて提案する。


「ユニオンシティ防衛軍は、慣れない戦闘で士気を喪失している。新しい防衛部隊として『そうりゅう』、英国連邦極東、ユーロピア共和国の戦闘艦からなる弾幕艦隊、その前面に高瀬のパワードスーツを展開、左右は私特製のエリア防衛用ドローン衛星で固めるわ」


「高瀬。聞いての通り貴方の出番よ。頼りにしているわ」

『いよいよ、敵さんの大部隊とガチでドンパチですか!胸熱であります!』


「攻撃を諦めない事から、敵はこの月面都市を絶対に叩きたいと思っているから用心して」

意気揚々とする高瀬中佐に、結が警告する。



 結や東山が各部隊と防衛手順の打ち合わせをしていると、再び司令室の非常灯が点滅する。


「地球を挟んだ衛星軌道の向こう側から、シャドウ帝国軍接近!ミグ98宇宙戦闘機70機、B2S爆撃機20機、その後方に大型熱源反応!戦闘艦艇5隻、識別データありません!」


「データが無いという事は新型か!火星市ヶ谷に緊急連絡!至急分析を要請しろ!」


「『タカマガハラ』が到着するまでは、持ちこたえないとダメよ」

「……ギリギリの戦いになりそうですね」


 厳しい状況に結と東山は気を引き締めるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・東山 龍太郎=日本国内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長兼連合防衛軍月面基地司令官。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。

挿絵(By みてみん)

*イラストレーター 更江様の作品です。


・高瀬 翼=日本国航空・宇宙自衛隊 特殊機動部隊隊長。中佐。

・ペレス・ワイズマン=イスラエル連邦軍特殊部隊隊長。中佐。ミツル商事PMC部門に出向中。ブリテン島で瑠奈と行動を共にしている。

・ロイド・サー・ランカスター=地球連合防衛軍欧州抵抗部隊司令官。英国連邦極東軍中将。

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