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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
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月の戦い①

挿絵(By みてみん) 

2026年(令和8年)7月4日【地球衛星軌道 月面都市「ユニオンシティ」】


 ユニオンシティという新生国家の首都に、アース・ガルディアからの独立戦争以来2年ぶりにけたたましい非常サイレンが鳴り響いていた。


 ロシア人が建国した『宇宙国家アース・ガルディア』から2024年に独立したこの月面都市の基盤は、マルス・アカデミーが地球観測天体として製造した人工天体のうちマルス人居住施設のごく一部であり、地球人類が知らないまま1990年代から秘かに建設されてきたNASA(アメリカ航空宇宙局)とUSSF(アメリカ宇宙軍)が極秘裏に開発整備した観測基地である。


 ダグリウス率いるシャドウ帝国の仕掛けた電磁波による"福音システム"攻撃によって、20万人を超えていた地球避難民を始めとするユニオンシティ人口の大部分が溶解して広大な密林と化したとは言え、たまたま月の裏側でヘリウム3の収集作業に当たっていた作業員や、パトロール活動中だった部隊が都市に留まり、植物化した国民が再びヒトの姿を取り戻す日が来る事を願い、都市として最低限の景観維持に努めている。



「敵機動部隊がユニオンシティに接近中!第1種戦闘態勢!基地内の全迎撃機は、直ちに発進せよ!」


 慌ただしい口調で呼びかける司令部のアナウンスは、月面都市に留まる僅かな住人達へ速やかな戦闘準備を促していた。


          ♰          ♰          ♰


――――――【月面都市『ユニオンシティ』防衛軍司令部】


 司令部内では様々な部隊からの報告や、管制官の指示が飛び交っていた。


「シャドウ帝国軍、ラグランジュ・ポイントを超えました!防衛ライン接触まで、あと30分!」


「外郭防衛線 自動迎撃衛星の索敵・攻撃コマンドを自律モードへ移行します」


「F45迎撃機部隊に告ぐ、外郭防衛線には近づくな!自動衛星の攻撃を食らうぞ!」


『こちらF45グリーンリーダー。ミグ部隊をレーダーで確認した。フェニックスミサイルの射程に入り次第、ロングレンジ攻撃を開始する!各隊7機1組でミグ戦闘機に対処しろ!一騎打ちなんて無謀な事はするなよ!』


「巡洋艦『インディアナポリス』は迎撃部隊後方からミサイルとレールガンで支援しろ!宇宙空母『ミッドウェイ』は前に出過ぎるな。搭載部隊は殆ど出払っているから護衛機はないぞ!」


「結さん。戦闘になるとなんだか手が空いてしまうというのは……私達は傍観者となっているのではないでしょうか?」

隣でふんぞり返ってモニターを眺める結へ東山龍太郎が自嘲気味に話しかける。


「……心構えが足りないわ。司令官とは、後方でふんぞり返るものよ」


 自ら実演しているつもりの結だが、ちんまい爬虫類娘がフンスと胸を張る姿は、将兵から見れば威厳とは程遠い微笑ましい姿に映る様で、近くを通り過ぎる将兵は片方の口許を吊り上げながら笑いを堪えている。


 そんな光景を眺めると肩の力が抜けてしまった東山だが、レーダー管制官の報告に口許を引き締める。


「間もなく、F45とミグ戦闘機が接触します!」


 モニター奥の空間で、紅蓮の塊があっという間に左右へ拡がっていく。


「迎撃部隊交戦状態に突入!」


 月面都市防衛戦が始まった。


          ♰         ♰          ♰


 ミグ98戦闘機のコクピットから視認出来る明るさで、F45戦闘機の発射した対衛星ASATミサイルが此方に向かって急接近するのを、黄少佐は冷静に確認していた。


「こちらシャオランリーダー。敵のミサイルは衛星攻撃用で速度は早いが、動きは鈍重なこけおどしだ。罠があるに違いない。不必要な回避軌道は取るな!」


 編隊長が注意したにもかかわらず、迫るくるミサイルに恐怖を感じた経験の浅いパイロットが、隊列を離れて射線軸から回避を試みる。


 直後に、ミサイル後方から幾筋もの青白い線を引く弾丸が回避予測地点に撃ち込まれ、そこへ回避機動をしたミグ戦闘機が吸い込まれる様に接近、機体を撃ち抜かれて爆散した。


「馬鹿が!レールガンの餌食になりやがって!」

黄少佐が悪態をつく。


 このやり口は、前回の人工衛星攻撃任務でも食らっていたのだ。その時は、パイロットの4分の1が戻って来なかった。


「全機、針路上ミサイルに30mm機銃照準。機首レーザーシールド起動!自分の撃ち落としたミサイルの破片に当たるなよ!」

黄は僚機に指示すると、機首にあるレーザーシールドスイッチを入れる。


 真っ直ぐ進むミグ98宇宙戦闘機の機首から、緑色の小さな円形をした、直径3m程の対障害物防御用レーザーシールドが展開される。

 続いて、シールドで淡く光る機首両脇から鈍いうなりを上げて30mm劣化ウラン機銃が発射され、針路遥か先へ突き進んで行く。


 F45宇宙戦闘機から発射された宇宙用フェニックスミサイルは、マッハ7の猛スピードでミグ戦闘機へ突進したが、針路正面からウラン弾丸によって次々と破壊されていく。


「くそっ!奴ら知恵を付けていやがる。グリーンリーダーより各機。敵は戦慣れしている。対空レーザーで迎え撃つ!各隊"一つの目標"へ全員が照準を合わせてレーザーを撃て!レーザー攻撃の後は機銃で近接戦だ。ロケットランチャーの準備もしておけ!幸運を祈る!」


 宇宙空母『サラトガ』艦載機を率いる隊長は、矢継早に指示を出すと機首に在る化学レーザー砲の照準を、接近するミグ98宇宙戦闘機編隊中央へ合わせる。


「ドッグファイトに入ったらレーザー攻撃に拘るな!照準している隙を突かれて30mmを食らう羽目になるぞ!ダメもとで構わん。ミサイルを全弾ばら撒いた後はひたすら逃げてチャンスを待つんだ!」


 グリーンリーダー率いるF45宇宙戦闘機編隊は、きれいなダイヤモンド編隊を組むと一斉にミグ98宇宙戦闘機群正面へ白色の化学レーザーを撃ち込んでいく。


 黄少佐の左右に展開していた僚機が、不意に前方から差し込んで来た白い光線に機体を貫かれて一瞬で爆発する。

 空気が希薄な為、大音量や激しい衝撃はさほど感じられないが、腹に響く様なズシンとした鈍い振動を立て続けに黄少佐は感じた。


「シャオラン3、5番機がやられた。レーザーシールド解除!全機散開!

 エイリアンの手先共を駆逐せよ!」


 黄少佐が反射的に操縦桿をグッと真横へ傾けると、機体側面のノズルから姿勢制御炭酸ガスが噴出して、オリーブ色の機体は急角度で針路を変えて前方から殺到する白い殺人光線を避けた。

 周囲の僚機は一瞬の判断が遅れた結果、4機が機体を貫かれて紅蓮の炎を一瞬だけ噴き上げると煙玉と化していく。


「生き残った奴は我に続け!敵編隊を分断して、各個撃破する!」


 散開したミグ98宇宙戦闘機編隊は、化学レーザーとレールガンの弾幕を巧みな機動で躱しながら、ユニオンシティ防衛軍艦隊へ突撃していく。


          ♰          ♰          ♰


――――――【月面都市「ユニオンシティ」防衛軍臨時司令部】


「敵戦闘機部隊が迎撃機部隊を突破!各艦対空戦闘開始!」


『こちらインディアナポリス。司令部!此方の迎撃ミサイルが奴らの戦闘機に追いつけないぞ!どうなってやがるんだ!?』


「落ち着け、インディアナポリス。迎撃部隊を艦隊護衛へ回すから最終防衛線まで後退せよ。迎撃部隊が護衛につくまでは、近距離レーザーと20mmCIWS(近接防御火器)で凌いでくれ!迎撃ドローンも前進させる。早く戻って来い!」


「迎撃衛星自律モード解除!此方の空母と巡洋艦の後退を援護しろ!」

作戦将校が、経験が浅い故にパニック状態の巡洋艦へ懸命に指示を出す。


「……今度の敵は手強いわね」

戦況パネルを視ていた結が東山に声をかける。


「アースガルディア戦の時よりも、宇宙戦闘における練度が向上したのでしょうか?」


 次々と味方戦闘機の反応が消えていく戦況パネルを、冷や汗を流して視ている東山が応えた。


「先日コア・サテライト人工衛星を襲ったミグ98に、今回の様なレーザーシールドは実装されていなかった。技術的にも優れ、対応も素早い……」

結が敵戦闘機のスペック表示を呼び出して分析する。


「思った以上にシャドウ側が、保護下の人類勢力を上手く活用していますね」

東山が眉を顰める。


「だとしたら、保護されている人類が従順な所が気になるわ」

結がぼそりと言う。


「こればかりは、直接敵に聞いてみない事には分からないですね。イスラエル連邦が真相まで容易く情報を開示するか微妙ですが……」

東山が肩を竦める。


「……そうね。ちょっと瑠奈に相談してみる」


 物思いに耽る結が、とてとてと司令室から研究室に向かっていく。


「ええっ?結さんちょっと!戦闘指示は、どうするんですか!?」

慌てて結を引き留めるべく東山が後を追いかける。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・東山 龍太郎=日本国内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長兼連合防衛軍月面基地司令官。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。

挿絵(By みてみん)

*イラストレーター 更江様の作品です。


コウ 浩宇ハオユー=少佐。人類統合政府軍宇宙機動部隊パイロット

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