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転移列島  作者: NAO
混沌編 人類反攻
159/462

影の帝国

2026年(令和8年)7月1日【中東 旧トルコ領内カッパドキア地方 地下 『新エルサレム 』イスラエル連邦政府国防省】


 薄暗い司令室脇の会議室に、物憂げな顔で座るニタニエフがおもむろに切り出した。


「長官。早速だが例の件について、最新情報を報告してくれたまえ……」


 モサド(諜報特務庁)長官が、会議室内のホログラフィック・モニター上に居並ぶ各国首脳部の面々へ向けて僅かに会釈すると、報告を始めた。


「ユーラシア大陸及び、南北アメリカ大陸で発見された大規模な人類生存地域に関連した新たな情報を入手しました。

 先日、旧カザフスタン共和国で所属不明のヘリコプターが不時着しているのを、偵察任務中の我が軍特殊部隊が発見、生存者を救助しました」


『ちょっと待ってくれ!北半球は火山灰濃度が濃い為に、通常の航空機では飛行不可能と聞いているが?』

澁澤首相が疑問を投げかける。


「肯定です、澁澤首相閣下。しかし、カザン地区の濃度は何故か大変動前の地球大気レベルでした」

モサド長官が答える。


『環境操作されていると言うのかね?』

英国連邦極東首相のケビンが尋ねる。


『それについては、此方から報告します』

月面ユニオンシティ臨時司令部の東山が発言する。


『月面のマルス・アカデミー・全地球観測システムにより、大変動前の都市名で、ユーラシア大陸極東地区ハルピン、成都、東部ヨーロッパ・ロシア地区ベオグラード、バイコヌール、オムスク、カザン、アジア・インド地区ニューデリー、イスラマバード、ヤンゴン、南米地区カラカス、北米地区バンデンバーグ、フェニックス等の12都市で大規模な電磁シールド反応を確認しました。

 大月結氏の分析によりますと、電磁シールド展開時の電気特性を利用して火山灰の侵入を排除しているものと思われます』


 東山が地球の立体映像で表示された12都市をポインターで指し示しながら説明した。


『……大部分が、大変動後に我々西側世界が見放した地域だ』

ケビンが苦虫を噛み潰したような顔をする。


『私達は確かに彼の地域を物資不足から、閉鎖という名の下に無視しました。

 しかし、12都市も生き残っているなんて……』

ユーロピア共和国のジャンヌ首相が驚愕する。


「皆様、話題がずれております。話を元に戻しましょう。

 生存者はヘリコプターのパイロットで不時着の衝撃により、大破した機体と操縦席に挟まれて重傷でした。

 部隊が応急処置を施している間に、最低限の事を聞き出して間もなく、パイロットは傷が酷く死亡しました」

モサド長官が話題を元に戻す。


「そのパイロットは『人類統合政府 第5都市防衛軍』所属だと名乗っておりました」


『人類統合政府だと!?』

スイス連邦の首相が思わず訊き返す。


「はい。彼らの所属する都市は、人類統合政府によって治められているとの事です」


『国連の後継組織かね?』

モサド長官の答えに更に問いかけるスイス連邦首相。


「違います。我々が大変動後に収集した情報の中で、新しい統合政府という意味で言えば、宇宙国家アース・ガルディア以外に有りません。人類統合政府という存在は、突如として現れた組織で謎が多いのです……」


「人類統合政府に属する12都市と、その軍事組織である人類統合政府防衛軍データは、墜落したヘリコプターの記録媒体から引き出す事が出来ました」


 データ類を表示したスクリーンを操作しながら、三次元地球儀上に12か所の都市を表示するモサド長官。


「この12都市は、月面ユニオンシティから観測した広域電磁シールド発信地点と一致します」


 思いがけず新しい人類生存圏が発見された事に動揺を隠せない各国首脳の中から、発言を求める首脳が居た。


『地球上に広がった火星原住生物を撃滅して、エリア51のシャドウマルスを倒す為にも、彼らと共闘するべきではないでしょうか?』

澁澤首相が提案した。


『ノーだ、タロウ。君は火星に居るから分からないのだろうが、この大変動と火星原住生物が襲来する状況下に於いて、人類単独技術で12か所の大都市を束ねる組織が急に現れた事は違和感が有り過ぎるのだ。明らかに怪しすぎる……』

ケビンが発言し、イスラエルやスイスの首相が同意と言わんばかりに深く頷く。


「会議直前に判明した分析結果によると、彼ら人類統合政府の"目的"が判明しました」

モサド長官が告げる。


『目的だと?』

首を捻る澁澤。



 モサド長官は深呼吸すると、ゆっくりと会議参加者全員に告げる。


「……火星に住む異星人と、その手先である西側諸国から地球を防衛する。此れが彼らの目的です」

 

 会議の参加者は皆、沈黙した。

 

 地球で新たに発見されたこの生存圏を火星日本列島各国の国民へどの様に伝えるかでは、人類統合政府と言う表現だと正当性を相手に与える事になると、英国連邦極東・イスラエル連邦が異議を唱え、代替案として”影の帝国『エンパイア・オブ・ザ・シャドウ』”との呼称が採用されるのだった。


          †          †          †


2026年(令和8年)7月4日【月面都市内 地球連合防衛軍 月面都市防衛司令部】


 ユニオンシティ中央行政庁舎最上階にある臨時司令部では深夜に突然、警報が鳴り響いていた。


「どうしました!?」

寝ぼけ眼の東山が駆け込んで来る。


「地球ユーラシア大陸東部から、多数の飛翔体が打ち上げられて、真っ直ぐに此方へ向かっている。数はおよそ100基。到着は3時間後」


 既に制御卓に着いていた結が、抱き枕を膝の上に置いたまま、忙しなく操作をしながら答える。


「ユニオンシティ全域に緊急警報。宇宙版アイアンドーム防衛システム稼働。自律型迎撃ドローン展開!」

東山が作戦将校の方を向いて迎撃態勢を指示した。


『司令部!こちら日本国航空・宇宙自衛隊地球派遣群「そうりゅう」所属、特殊機動部隊の高瀬です!迎撃何時でも出れます!』

福音システムの調査で月面都市に停泊していた自衛艦隊から通信が入る。


「接近する飛翔体をデータベースにて照合。旧アース・ガルディア宇宙軍ミグ98コスモファイターとユニオンシティ戦略宇宙空軍所属、高空・宇宙爆撃機ロッキードB2ステルス・スター・フォートレス!」

レーダー分析官が報告する。


「F45宇宙戦闘機をスクランブル発進させろ!迎撃ドローンは都市部への侵入を防げ!自衛隊パワードスーツは都市郊外上空に展開、ドローンが撃ち漏らした敵を排除せよ!」

東山の指示を受けた月面司令部の作戦将校が各部隊へ指示を出す。


「第二次月面都市攻防戦の始まりだ」

東山が呟いた。


 司令部のモニターはぐんぐんと月面都市に迫るミグ98宇宙戦闘機の大編隊を映していた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 結=マルス・アカデミー・「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、里音様です。


・東山 龍太郎=内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長兼連合防衛軍月面基地司令官。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・ジョーンズ=地球連合防衛軍オセアニア生存圏司令官。中将。ユニオンシティ防衛軍司令官。

・澁澤 太郎=日本国内閣総理大臣。

・ケビン=英国連邦極東首相。

・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。

・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦首相。

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