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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
152/462

クリーチャー

挿絵(By みてみん)


2026年(令和8年)6月12日午前零時【長崎県対馬市沖70Kmの海底】


 その生物は、自分を創造した存在が呼びよせる声に導かれて住み慣れたマリネリス海溝の底から旅立つと、誕生してから間もない火星の海をひたすら南東に向けて突き進んだ。


 途中でいくつかの煩わしいノイズを放つ障害物やはるか頭上から不愉快な波動をぶつけてくる物体に遭遇すると、本能の赴くままに身体を振り回して体内から湧き上がる力を放出して倒したり退けた。


 今は、ここまで休むことなく付き進んできた疲れを癒すべく、見知らぬ暖かい海底で休んでいた。この周辺の海底は生まれ場所と比べ餌が豊富で大変居心地が良かった。

 そして、先ほどから再び聴こえてきた、創造主の何か焦ったような声音に導かれるまま、だんだんと暖かさが増す海域を南下し始めるのだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――6月12日午前3時【島根県 隠岐の島沖50Km 海上自衛隊音響測定艦『とどろき』】


「超長距離ソナー曳航開始!」


 艦長が総延長2000Kmになる超長距離曳航型ソナーの展開を指示する。


 冷戦終結後の極東地域で新たな軍事的脅威となった共産中国と北朝鮮、ロシア連邦の原子力潜水艦を探知、情報収集する目的で建造されたこの特殊な音響測定艦は3隻が稼働しているが、極めて貴重な存在であり所属部隊情報はもとより活動内容は極秘として伏せられている。


 火星転移後の2021年、20年ぶり新しく就航した『とどろき』は、翌年に起きた巨大ワーム稚内市襲撃事件に強い衝撃と危機感を持った日本国政府自衛隊により、火星原住生物の日本襲来を早期に察知する新たな使命を持っていた。


 海上自衛隊呉基地で岬、琴乃羽、春日らと合流したミツル商事一行は『とどろき』に搭乗して特設CIC(戦闘情報管制室)に籠もって対馬沖で姿を消した火星生物の捜索に協力することとなった。


「それで舞さん。マリネリス海溝から来たクリーチャーは、何処へ向かおうとしてるか分かる?」

満が火星生物を呼び出したであろう張本人に尋ねる。


「恐らく、私の呟く声に反応して追いかけていたみたいですから、横浜?かもだぞっ!と」

簀巻きの状態にもかかわらず小首を傾げた仕草で黄星舞が答える。


「でも、ヒトが出す電波や沢山の思念波に煽られて正気を失っているみたいですねぇ~」

舞の隣で同じく簀巻きで転がる黄星守美が答える。


「今のアレは、敵対する思念=各種電磁波を過敏に受け止めて”敵”認定するからめっちゃ危ないんだぞっ!」

舞と守美の間で転がる黄星輝美が元気に答える。


「ヒトの思念を敵認定したところで、どうするのかしら?」

ひかりがこめかみに手を当てて考える。


「それはやはり、沢山の思念が溢れ出る大都市では?」

春日が指摘する。


「この辺りで人口密集地帯は……」

満が誰に問うでもなく呟く。


「火星転移後の最新人口分布では北九州福岡、長崎県佐世保ですね」

データベースから調べた琴乃羽美鶴が答えた。


「春日さん。すぐに艦長へ報告を」

満が指示する。


春日が特設CICから艦橋で指揮をとる艦長へ横須賀司令部への警告を伝える。


「舞さん。あのクリーチャーは今でも貴女の声を聴いていると思う?」

岬が尋ねる。


「……うーん。興奮していますけど、此方の呼びかけには時折反応する様な仕草を見せるので少しは聴いているかと」


 舞は簀巻きから脱出して妖精体に変身し、薄暗い特設CICの天井近くを淡く光って漂いながらクリーチャーに呼びかけを続けていた。


「興奮の原因は、日本中の軍隊があらゆる電波を当てているからであって、電波の発信を抑えれば何とかなるのかもです~」


 こちらは相変わらず簀巻きのままゴロゴロとCICの床をあてどもなく転がりながら守美が答える。


「それは甘いのだぞっ!軍隊の電波を止めた所で、大都市から出る電波やヒトが出す恐怖と敵意の思念が沢山あるからどだい無理なんだぞっ!」

此方は簀巻きのまま宙に浮く輝美が口を挟む。


「……そんなに思念波って重要なんすかね?」


 塩クッキーをつまんでウヘェと顔を歪ませた春日洋一が訊く。どうやらビターな味ではないようだ。


「春日。琴乃羽の事や、ユニオンシティ国民を蕩けさせた”福音システム”の事を忘れたのかしら?思念波は新たな次世代兵器となりうる可能性を秘めているわ……グヘェェ」


 皿に盛られた塩クッキーを盛大に皿ごと飲み込まんばかりに詰め込んでいた美衣子がクールに答える。答えた後にやはり塩クッキーに辟易しているところは春日と同一である。


「……確かに美衣子さんの言う通りかも。心や頭に響く声は結構体にビンビン効きますよ?」

気にしてないよというゼスチャーを春日にしながら琴乃羽が応えた。


「いずれにせよ、これでクリーチャーの都市部侵攻は確定という所かしら」


 塩クッキーが予想外に捌けたので頬を緩めながらも腕を組んで考え込むひかり。


「……うーん。いっその事、舞さん達をここから吊るしてクリーチャーをおびき寄せた方が、効果的なんじゃないかしら?」

さらりと首を傾けてとんでも提案をするひかり。


「「「えぇっ!?」」」


 ビクリと身体を震わせる訪問者三姉妹。


「イヤなら知恵をしぼりなさい」

冷たく宣告する美衣子。


「「「むーん」」」


 しかし、彼女達よりも深刻に思案するものも数多く居た。


          ♰          ♰          ♰


――――――【長崎県佐世保市 英国連邦極東首都ダウニングタウン 首相官邸地下司令部】


 火星日本列島にて英国連邦極東を建国して以来、初めて国家的脅威を迎えた政府首脳が地下司令部で慌ただしく対応に追われていた。


「弾薬の補給を終えた戦闘艦艇は全て出せ!有明海で迎え撃つ!」

「関門海峡上空を旋回していた、早期警戒ドローンが撃墜されました!光学兵器の模様!」

「電波に反応するのか!?誘導が出来んぞ!」


「五島列島駐留ユーロファイター攻撃部隊、いつでも飛べます!」

「衛星フォボス宇宙基地のMOAB弾道弾発射準備完了!」

「佐賀県の自衛隊特殊機動戦闘団、出動準備完了!」


「大佐、本当にそのクリーチャーは此方へ来るのかね?」


 火を着けていない葉巻を加えたケビン首相が、防衛指揮官のグリナート大佐に尋ねる。


「サー、首相閣下。最新の大月家からの報告によりますと、クリーチャーは人口密集地帯のあるフクオカか此方へ向かうと」

緊張した面持ちのグリナート大佐が答える。


「よりによって、これから地球で決戦に挑もうという時に、間の悪いことだ!」

苦虫を噛み潰したような表情をするケビン。


「我が軍は戦力の大半が既に火星を発ち、地球へ向かっています。呼び戻しても間に合いません」

兵力不足を指摘するグリナート大佐。


「今此処で動かす事が出来るのは、五島の空軍と佐賀のロボット部隊、熊本の日本自衛隊か」


 腕を組んで司令部のスクリーンに投影されている戦況図を眺めるケビンとグリナート。


「首相!東京からホットラインです!」

「構わん!そのまま此方へ繋いでくれ」


 ケビンの卓上3Dモニターに憔悴した感じの澁澤首相が映る。


「ケビン。忙しいところすまんな。此方もあらゆる手段を講じている所だ」


「それはありがたいな、タロウ。で?君は何を考えている?」

目を細めて澁澤をうかがうケビン。


「ケビン、君に九州地区の全連合防衛軍指揮権を一時的に委ねる事にした。そこには、我が国の自衛隊も含まれる。指揮系統は一本化した方が望ましいからな。

 つまらん縄張り争いに興味は無い。勿論、事が知れたら私は国民や野党から間違いなく、弾劾されかねないがね」

肩を竦める澁澤。


「タロウは相変わらず、私を買いかぶり過ぎていると思うのだが?」


「正しい判断だと私は信じている。貴国が最終手段を使わずに事態が解決される事が大事だ。私も最善を尽くすことにしよう。このチャンネルはこのままオープンで繋いでおく」

澁澤はそう言うと画像のスイッチを消した。


「……首相閣下。やはり日本国政府は、我々が核兵器を持ち込んでいる事に気づいていましたな」

MI6を束ねる内務大臣が背後から声をかけた。


「それはそうだろうよ。日本国政府は、火星に転移してから軍と諜報部門の体制を飛躍的に強化してきたのだ。

 かつての在日米軍基地をそのまま引き継ぐ形で管理していれば、我々の行動等お見通しの筈だ」


「では、万が一の時はフォボス宇宙基地から、MOABの弾頭を交換すると言う事で――――――「内務大臣、それ以上は口にしてはいかんぞ」

ケビンが核使用の会話を遮る。


「それは、本当に我が国が日本国と運命を共にして滅ぶ時だけにしてくれ」

ケビンは天井を仰いだ。


「佐世保で何が何でもクリーチャーを食い止めねばならん!ミツル商事にも協力を要請するんだ!」

ケビンは内務大臣と国防大臣に指示を出す。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=元ミツル商事社長。無職。

・大月ひかり=元ミツル商事監査役。無色。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、七七七様です。


・大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは里音様です。


・岬 渚紗=ミツル商事海洋養殖部門、医療開発部門担当。海洋生物学博士。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・琴乃羽 美鶴=ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・春日 洋一=ミツル商事海洋養殖部門責任者。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・黄星 舞=ホウライ世界からの訪問者。神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の姉的ポジション。

挿絵(By みてみん)

妖精バージョンはこちらです↓

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・黄星 守美=ホウライ世界からの訪問者。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・黄星 輝美=ホウライ世界からの訪問者。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・ケビン=英国連邦極東首相。

・グリナート=英国連邦極東軍大佐。防衛司令官代理。

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