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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
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呼び寄せたもの

2026年(令和8年)6月10日午後3時【東京都世田谷区三宿 自衛隊中央病院】


 瑠奈の担任であり、仮想世界大戦で精神的重症を負った澁澤真知子のお見舞いに大月夫妻、美衣子が病室を訪れていた。

 もちろん事前に夫である澁澤総理大臣の許可を得ている。


 お見舞いの挨拶をしようとベットに近づこうとすると、真知子が制止する。

 

「私が反対したにも拘わらず、結果的に教え子二人を戦争に関わらせてしまった事について、私はとても自分自身を責めています。

 あの状況に至る過程で、あなた方には不可抗力が有ったのかも知れません。……ですが、それでも私は貴方達の行いを一生忘れる事は出来ないでしょう」


 静かな語り口だったが、胸のうちに秘めている激情を押し隠そうと、能面の様な無表情さを保っていた。


「本来ならば、私は許すべきところでしょう。しかし、戦争を経験してしまった今となっては……いえ。兎に角、二人には最善の治療をお願いします」


 それだけ言うと、真知子は気力を失ってぐったりとベットに横たわった。


 満とひかり、美衣子は一言も発せずに、SPに促されてただただ謝罪で頭を下げて病室から退室する事しか出来なかった。


「真知子さんは、二人の生徒さん達よりも症状がずっと重いのです……」


 極めて短い面会時間を終えて病室の外へ出ると、立ち会った主治医が病状を説明してくれた。


 帰りの東横線に乗った三人は、横浜駅に着くまで終始無言のままだった。


          ♰          ♰          ♰


2026年(令和8年)6月11日午前6時【東京都大田区 羽田国際・宇宙空港 展望台】


 羽田空港沖の特設された海上駐機場で初夏の日差しを浴びる全長2Kmに及ぶ巨大なマルス・アカデミー・オウムアムル級母艦をバックにして、民放局の新人男性アナウンサーが興奮気味に中継していた。


「見てください!この巨大な山の様な宇宙船。この巨大な山の様な物体が空を飛ぶのか、私にはとても信じられません!

 この宇宙船は、昨晩秘かに日本海向こう側にある火星アルテミュア大陸から飛来して待機しています」


「人類初となる惑星有人探査活動を行うJAXA(宇宙開発機構)木星探査宇宙船『おとひめ』が、羽田から搭乗する探索隊員を乗せて間もなく、この羽田国際・宇宙空港沖合から飛び立ちます!」


「信じられない事ですがこの宇宙船は、日本の小学生がマルス・アカデミー人とのビンゴ大会で見事引き当てたと言われており、異星文明から初めて人類に贈られた次世代宇宙進出へのカギとなるでしょう」


【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス】


 大月家では大月夫妻と美衣子&訪問者三姉妹がNEWイワフネハウスの食堂で朝食を摂りながら、木星探査隊が羽田沖から出発するニュースを視ていた。


「つくづく我が家は世間を騒がしているなぁ……」「……むふぅ」


 ビンゴ大会関係者(主賓とも言う)だった満が呟き、隣に座るひかり(彼女も主賓だった)は結婚披露宴を思い出したのか朝からデレていた。


 頬を紅潮させたアナウンサーがレポートを続けている。


『木星探査隊に参加する2名の小学生は都内在住との事ですが、詳細については未成年であることを理由に記者会見やインタビューはもとより、個人情報の公開等一切を文部科学省とJAXAは拒否しています』


『立憲地球党を始めとする野党各党は今回の木星”遠征”計画について、人類の喫緊課題である”地球奪還作戦”を前に、政府は平和を望む善良な地球市民に対して果たすべき事が多々あるにも関わらず、緊急性の乏しい”遠征”に無駄な費用を費やす必要があるのかと追及する構えです――――――』


 民放チャンネルにも関わらず、突然中継画面が途切れてNHK渋谷スタジオで硬い表情のアナウンサーが映し出された。

 

 テレビ画面の右上には『共通:緊急非常事態宣言発令』と赤く太い文字が表示され、点滅している。


『日本国政府・英国連邦極東政府は、先程午前5時59分、九州・中国・四国地方全域に緊急非常事態宣言を発令しました。


 これは昨晩、長崎県五島列島沖でユーロピア共和国軍輸送船団が全滅し、多目的情報通信衛星「みちびき」4号と8号の撃墜に加え、同じ海域の英国連邦極東軍レーダー基地、海上自衛隊対馬基地が何者かの攻撃を受けた事態に関連して発令されたものです。


 九州・中国・四国地方にお住い又は滞在されている方は今すぐに、最寄りの指定防護施設へ避難して命を守る行動を取って下さい!これは訓練ではありません!

 繰り返します、日英両政府は先程—――—――』

  

 火星転移前から、尋常ではない災害発生に動じない様訓練されたNHKアナウンサーが、淡々と避難情報を伝え始める。


「……あらあら。もう少し大人しく呼び寄せればよかったぞっ!と」

うっかり口を滑らせる黄星 舞。


「さらりと問題発言しないで欲しいわ」


 いきなり紫電を放つ美衣子に対し、シールドを展開してガードする舞。

 しかし隣に座る守美と輝美は半熟目玉焼きに気を取られていたために反応が一瞬遅れ、避け切れず紫電を浴びて床で伸びていた。


 最近の大月家朝食で頻繁に見られるようになった日常風景である。


「……で?舞さんはこの事態を引き起こした犯人と”お知り合い”なのかしらぁ?」

黒いオーラを放ちながら物凄い笑顔で黄星舞に詰め寄るひかり。


 隣りでは満が小さく縮むように朝刊を読みながら、我関せずとデザートのリンゴをシャクシャク齧っていた。


「「「私達が間違っておりましたっ!!!」」」


 美衣子に大月家ルールを教え込まされたのか、見事な土下座でひかりに詫びる訪問者三姉妹だった。


「取りあえず、最初から話してもらおうかしら……」


 青筋を浮かべたひかりの尋問が始まるのだった。


――――――30分後。


 食堂の床に正座する訪問者三姉妹だったが、輝美はこちらの宇宙で初めて体験する正座に足が痺れて床の上で悶絶していた。舞と守美は健気に姿勢を維持していた。


「あれ?なんかこの子反抗期なのかなっ?と。私の呼びかけに応えないのだぞっ!と」

虚空を見つめた舞が首を傾げる。


「どうしたの?」

美衣子が尋ねる。


「ん~。シレーヌス海溝の底から出て来て日本列島の近くまで来たところで、空から電波?を当てられて興奮しているみたいです~」


 舞の隣で黄星舞の思念波に同調してその波長を読みながら、同じような仕草で首を傾げる守美。


「守姉。なんでこんな面倒くさい生き物作っちゃったのさっ!?」


 床の上で相変わらず悶絶しつつも、目を閉じて遠くの海中に眼を凝していた輝美は、その存在の姿を視て呆れた声音で姉を糾弾する。


「いや~。なんか海の底で寂しそうに潜んでいたから『みんな一緒になれば寂しくないんだぞっ!』と一纏めにしてあげただけなんだぞっ!と。

 ついでに日本列島に楽しいお友達がいるかも知れないのだぞっ!と伝えてみただけなんだぞっ!と――――――うひゃっ!!」


 余りの行状に、美衣子が正座を続ける舞の両頬に手を伸ばしてむんずと横に引っ張る。


「兎に角、鎮めるように呼びかけを続けて」

美衣子が舞に命じる。


 流石に事態の深刻さからわれ関せずを決め込んでいた満が動き出す。


「岩崎さんに先ずは連絡だ。ひかり、今回は僕たちも動くよ?」

「わかりました、あなた。現地に行くから荷物を纏めますよぅ」


 腰に手をあてて、仁王立ちのポーズを決めていたひかりも慌ただしく動き出す。


「岩崎さんですか?大月です。いつもすみません。

 ――――――はい、その件です。此方で預かっていた”訪問者”三姉妹から今回の件について重要で深刻な知見を得ました。ついては現地に向かいたいのですが――――――」

岩崎官房長官へ報告する大月だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――午前7時30分【長崎県五島市(五島列島)福江島 五島港】


 五島港近くの核シェルターへ避難していた春日、岬、琴乃羽だったが、今は福江島からの島外避難指示を受けて自衛隊誘導のもと、避難用にチャーターされたフェリーを待つ避難民の列の只中に居た。


 昨晩三人は、保養所から大慌てで山の麓にある五島港近くの核シェルターへ向かう途中、幾筋もの光の柱が西の海側から放たれて、翁頭山山頂のレーダー施設が貫かれて爆発する所を目撃していた。


「あんな超強い化け物が、まだ火星に居たんですね」

素で感心する琴乃羽。


「あの光の柱はレーザーでしょうが、生体電気をあそこまで収縮させるなんて、普通の生き物じゃないですよ!?」

あくまでも生物学的な観点で大いに学術的興味をそそられている岬。


「ぶれないですね、お二人とも……」

避難民の列に並びながら携帯端末で情報収集に務める春日がため息をつく。


『避難されている皆様の中に、ミツル商事の社員の方はいませんか?』

唐突に港のスピーカーからアナウンスが流れる。


『ミツル商事の方は近くの自衛隊員に申し出てください。特別な伝言があるとの事です』


 春日は後ろに並んでいた岬や琴乃羽の顔を見る。


「……どうやら面倒事がお呼びの様ですね」「そのようね」「……バカンスが終わりなのですぅ」


 三人は顔を引き締めて頷くと、近くの自衛隊員を呼び留めて港近くに設置された指令所へ向かい、通信機を通じて社長の大月から海上自衛隊呉基地へ向かうように指示を受けるのだった。


 面倒事はまだ始まってもいなかった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ミツル商事社長。

・大月ひかり=ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、七七七様です。


・大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは里音様です。


・岬 渚紗=ミツル商事海洋養殖部門、医療開発部門担当。海洋生物学博士。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・琴乃羽 美鶴=ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・春日 洋一=ミツル商事海洋養殖部門責任者。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・黄星 舞=訪問者。神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の姉的ポジション。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・黄星 守美=訪問者。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストはしっぽ様です。


・黄星 輝美=訪問者。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストはしっぽ様です。

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