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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
145/462

陸ガメ

2026年(令和8年)6月中旬【地球中央アジア 旧カザフスタン共和国南部 バイコヌール】


 火山灰と砂塵が振り積もる荒れ果てた荒野の只中に半ば埋もれた市街地廃墟上空から、轟音と共に火山灰と砂塵を巻き上げながら、1機の偵察機がフワリと着地した。


「—――—――オゲーッ!」


 欧州イングランドから、ドイツ、ルーマニア、黒海を超音速低空飛行で縦断してこの地に辿り着いたソールズベリー卿は、真っ青な顔でWB21偵察型試作機のコックピットから這い出るなり、火山灰が降り積もる地面へ向かって勢いよく嘔吐した。


 マルス・メイド・アンドロイドのクリスによる正確な操縦だったのだが、低空を超音速で障害物を寸前で躱すアクロバットな飛行をした為に、戦闘機に乗り慣れていないソールズベリーは、後部座席で上下左右へとシェイクされてしっかりと乗り物酔いに罹っていた。


 ソールズベリーが搭乗するWB21ゴーストアパッチ試作型は、機首の30mmバルカン砲のみを武装とする一方、推進エンジンをハリアー戦闘機からF14トムキャットでも使われた強力な物へ換装し、マッハ2の超音速で敵陣の低空へ侵入して索敵する強行偵察機である。

 製作者はソールズベリー卿の相棒、マルス・メイド・アンドロイドのクリスだった。


 ニューベルファストの地球連合防衛軍基地の”遊び仲間”だった瑠奈から「こんな偵察機を考えたのだけど、設計して創り上げたら面白くね?」と青写真を見せられて一念発起したクリスの力作であった。

  

「それにしても、ロイド提督はこんな敵地の奥深くまで偵察させるなんて、何を考えているのだろう?」


 嘔吐物と火山灰で汚れた口元を拭いながらぼやくソールズベリー。


 此処へ辿りつくまでに見たドイツの黒い森やウクライナ穀倉地帯、ルーマニア平原、ロシア黒海沿岸は見渡す限り火山灰と砂塵に覆われ、動いていたものは僅かな動物の生き残りを探して動き回るサイボーグ・ワーム群と無人戦車軍団だった。


「マスター。ココハ、旧ロシア宇宙軍基地ガ有ッタ場所デス。シャドウ・マルス関連ノ情報ガ手ニ入ルノカモシレマセンヨ?」

健気に説明を試みるクリス。


「いやいや、レディ。火山灰が一面に降り積もった荒野に打ち捨てられた廃墟の街にお宝が眠っているとは思えないのだがね」

肩を竦めて応えるソールズベリー。


「ソレデモ、先日スカンジナビア半島上空の方舟ヲ撃チ落トシタミサイルノ一部ハコノ辺リカラ発射サレテイルノデス……オトモダチノ瑠奈チャンガイッテイマシタ。『鳴カヌナラ、食ベテシマオウ、ホトトギス』ト……」


「そのお友達の一句は全然心に響かないよ?わびさびがないよ!?」


 ソールズベリーの共感を得られぬまま、つらつらと一句詠いながら着陸していたWB21をタブレット端末を使った遠隔操作で浮上させると機首を斜め上方へ向け、街の郊外へ向け30mmバルカン砲を斉射するマルス・メイド・アンドロイドのクリス。


「おいおい何をするんだ!響いたよ!心に!心臓に響いたからやめてっ!」

クリスが拗ねて暴走したと思ったソールズベリーが慌てて相棒を宥める。


「マスター。響カナクテモイイノデ弾道ニ注目デス」

上空を指さすクリス。


 WB21から放たれたバルカン砲の火箭は、街の反対側の郊外に聳え立つロケット発射施設へ真っ直ぐ伸びて命中するかに思われたが、発射施設手前で見えない何かにぶつかった様に急に弾道を直角へ変え、真上へと弾かれてしまう。


「なっ!?」

唖然とするソールズベリー。


「マスター。この街南部郊外ニ、大規模デ強イ電磁波ヲ探知シマシタ」


 タブレット端末を通じて遠隔操作のWB21が検知したセンサー反応を伝えるクリス。


「間違いない。敵だ!直に帰還して、ロイド提督に報告だ!」

偵察機に向かって駆け出そうとするソールズベリー。


「チョットマッテ、マスター!」

自分を追い抜いたソールズベリーの襟を掴んで引き戻し、いきなり地面に押し倒すクリス。


「グハッ!何をするんだクリス!?」

首が締まって涙目になりながら抗議するソールズベリー。


 次の瞬間、ソールズベリーとクリスのすぐ頭上をバシュッと鋭い音を立てて何かが飛び去るとWB21に命中し、爆発四散する。地面に伏せた二人の周囲にWB21の破片がバラバラと落ちていく。大きく鋭い破片も突き刺すような勢いで落ちてきたが、クリスが展開した電磁シールドで辛うじて身体に接触しないように弾かれていく。


「ミサイルか。まさかっ、敵に気付かれていた!?」

火山灰と砂埃の舞う地面に伏せたまま、周囲を伺うソールズベリー。


 しばらく動かずに様子を見ていると、伏せていた地面がゴゴゴゴとにわかに振動し、突き上げる様な揺れがソールズベリーとクリスを襲う。廃墟と化した街の高層アパートがガラガラと崩れ落ちていく。


「地震か!?」

大変動の影響で巨大地震が発生したと思うソールズベリー。


 揺れはますます激しくなり、廃墟の街に在る住宅や高層アパートが更に倒壊していくと突然、それらの瓦礫の中から鋼鉄の筒がニョッキリと姿を現し、どんどん伸びていく。

 ソールズベリーとクリスが伏せていた周囲にも、鋼鉄の筒や四角い構造物やアンテナらしき物が次々と火山灰と砂塵ばかりだった地中から姿を現し始める。


「……これは。地面の下に隠れていたのか?」


 未だ揺れは収まらないが、傍らに地中から”生えてきた”アンテナに掴まって周囲を見回すと、揺れる地面ごと風景が横へ流れていく。


「地面がスライド……活断層か!?」

「マスター。状況カラ推測スルト、我々ハ何ラカノ物体ニ乗ッテイルノデハナイデショウカ」

ソールズベリー同様、アンテナらしき物に掴まりながらクリスが分析する。


「ああ。……そうだな」


 地面の揺れが、エンジン特有の規則正しいピストン運動で振動する物に変わった事を体感したソールズベリーが同意する。


「さて……此処からどうやって降りればいいのだろう?」

ため息をつきながら、脱出の算段を練るソールズベリーだった。


 ソールズベリーとクリスを乗せた巨大な陸ガメの様な陸上戦艦は、廃墟と化したバイコヌール市街外周をゆっくり哨戒走行すると、郊外南部の電磁シールドに覆われたエリアの内部へ進入していった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻【月面都市ユニオンシティ 地下区画最深部マルス・アカデミー研究室ラボ地球観測システム】


 大月家とミツル商事役員以外は立ち入りが厳重に禁止されているマルス・アカデミー研究室には、大規模磁場異常を探知した地球観測システムのメッセージを受けた結と東山龍太郎が駆け付けていた。


「……おかしいわね。こんな所に何故……」


 研究室中央に投影されたホログラフィック・モニターを凝視しながらも忙しなく各種分析機器の操作を続ける結が首を傾げて呟く。


「日本列島が転移した為に地殻バランスが崩れ、未だに影響が世界各地で続いているという事ではないのですか?」

「違う。この大規模磁場異常は特定の場所の限られた範囲で生じているわ」

東山の問いに首を横に振って答える結。


「具体的には大変動当時に存在した大都市から磁場異常が発生している」

「えっ!?では生き残っていた人達が……」

結の答えから一瞬楽観的な答えを導きだそうとしていた東山が口を噤む。


「日本列島火星転移後の地球大変動が起きてから5年。……突然大都市レベルで”実は生きていました”なんて場所が”同時に12か所”も発生する事はあり得ない」


 縦長の瞳を険しく細めた結が、各地の磁場異常箇所をホログラフィック投影された地球儀に投影する。

 投影された12か所に上る磁場異常箇所は、地球儀上に表示された大都市の座標と一致していた。


「……何が、起こっているんだ」


 ホログラフィック映像を呆然と見つめる東山の耳に、月面地表の早期警戒レーダーが未確認飛行物体多数が接近するのを探知した警報音が響くのはその数分後の事だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ソールズベリー=多国籍多目的企業『ソールズベリー・カンパニー』社長。元英国連邦極東外務大臣。クリスを引き当てた事で独立起業した。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・クリス=ソールズベリーの助手。大月家結婚披露宴の大ビンゴ大会で賞品としてソールズベリーが引き当てたマルス・アンドロイド。

挿絵(By みてみん)

イラストは七七七 様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・尖山基地人工知能。美衣子の妹分。

挿絵(By みてみん)

*イラストは里音様です。


・東山 龍太郎=日本国内閣官房首相補佐官。一時的に日本国地球方面特別全権大使を兼務していた。ひかりとは大学時代の同級生。大月家と関わりを持ってしまった苦労人。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。

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