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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
143/462

療養

挿絵(By みてみん)


【火星アルテミュア大陸中央部 シドニア地区 旧マルス・アカデミー本部上空】


 全長2キロに達するマルス・アカデミー・オウムアムル級大型母艦がゆっくりと地下施設から浮上し、高度一万メートルに達すると東の火星日本列島へ向かってゆっくりと飛行を始める。


 オウムアムル級大型母艦の周囲には、ユーロピア共和国首都ニューガリアから飛来したラファール戦闘機一個1個飛行中隊が護衛のため展開している。


「ワオ!やっぱりこういうスケールの違いを目の当たりにすると、異星文明を実感するわね」


久しぶりに戦闘機を操縦するジャンヌ首相が視界の殆どを占めるオウムアムル級大型母艦を横目に見ながら感嘆の溜め息をつく。


『お褒めにあずかり光栄です。ジャンヌ首相閣下』

オウムアムル級大型母艦の艦長となったイワフネがジャンヌに応える。


「それにしても、この異星文明技術の粋とも言える巨大母艦が日本国政府の所有になるとはねぇ……」

『今回の仮想世界大戦については、私達マルス・アカデミーに軽率な所が有ったと言わざるを得ませんから』

ボヤくジャンヌにイワフネが応える。


 尤もイワフネが冷静さは、マルス・アカデミーの資材はシドニア地区地下施設に多数のマルス・アカデミー・シャトルやマルス・アンドロイドが大量に待機状態で存在し、日本国首脳はその存在について見てみぬ振りをしている事からきている。


「だけどマルス・アカデミーには今まで散々地球人類がお世話になったわけだし、ケジメとは言うのもねぇ……」

納得がいかない様子のジャンヌ。


「ねぇ。いっそのこと貴方達大月家とそのお仲間ごとユーロピアに亡命しない?歓迎するわよ?私達これからアルテミュア大陸西海岸をガンガン開発するから!人手が足りないのよ」

おどけた感じでサラッと勧誘するジャンヌ。


『ジャンヌ首相閣下、お誘い感謝します。ですが、お言葉だけで十分です。それに、大月夫妻は亡命を良しとしないでしょう。日本国内に残すものが多いと思いますから』

やんわりと誘いを断るイワフネ。


「残念。まぁ、これから始まる反抗作戦次第にもよるけど、落ち着いたら検討するようムッシュ大月に伝えておいて。此方はそろそろ真面目にガードのお仕事始めるわ。クロエがどこで監視しているかわからないしね!」


 イワフネに非公式な打診を頼むと、デルタ翼を翻したラファール戦闘機はオウムアムル級大型母艦先頭に到達すると、エスコートするように東へと飛んでいくのだった。


          †          †          †


2026年(令和8年)6月10日午前8時40分【東京都港区白銀 神聖女子学院 初等部】


 華子達のクラスに新しい担任が着任して、生徒達に挨拶していた。


「やっ!諸君!臨時担任の黄星 舞だぞっ!と」

黒板に自分の名前を大きく書いて、元気よく生徒に呼びかける舞。


「あれ~?私が担任ではないのですかぁ~?」

教室の後ろ片隅で、守美は『姉』を見つめながら、のんびりと首を傾げていた。


「なんで舞姉が火星に!?」


 自分達が追い続けていた姉妹で一番上の『姉』を目の当たりにして、輝美が口を開けたまま唖然としていた。


「皆さんのクラスメイト、天草 華子さんと名取 優美子さんは、ご両親のお仕事関係で”火星外”に半年ほど留学する事になりました!

 それと担任の真知子先生も、お二人の留学に付き添いで長期出張する事になりました!ですから、今日からこのクラスは私のものだぞっ!と」


 クラスの生徒達は瑠奈や黄星姉妹等、常識外な行動や言動を取る存在に適応しているらしく、特に突っ込みは起こらなかった。


 地球英国かブリテン島からモニター越しに”出席”していた瑠奈だけは、


『あの先生なんか怪しいっス!』

自分の事を棚に上げて警戒する瑠奈。


「このクラスは前にも増して私よりも上位のヤバい存在が潜んでいるですの……」

教室外の廊下では、光球体の花子がフヨフヨと漂いながら警戒する。


 神聖女子学院は今日も平和な一日になりそうだった。


          ♰          ♰          ♰


2026年(令和8年)6月11日【東京都世田谷区三宿 自衛隊中央病院】


 仮想空間から生還した三人への本格的な治療が開始されて数日後、防衛大臣の桑田と岩崎官房長官が、特別の許可を得て秘かに華子と優美子、真知子先生を見舞いに病室を訪ねていた。


「成る程。その軍曹殿は、確かに自身を『桑田』と名乗ったのだね?」

興味深い顔をした桑田防衛大臣が華子達に訊き返した。


「はい。軍曹殿は中野の学校?に通っていた様でした……」

無表情な華子が答える。


 仮想空間から救出されて以来、華子は無気力に過ごす事が多くなっていた。

 隣のベットでは優美子が仰向けに寝たまま、華子の証言に無言でコクリと頷いた。

 闊達な印象は鳴りを潜めていた。


「そこまで詳細な、旧日本軍将校の動きをトレ-スしている人工知能は存在しないでしょう」

桑田が断言する。


「ここから先はマルス・アカデミーではかなり事実として認識されていますが、地球人類の中ではオカルトっぽい話になるので個人的見解として話します。

 恐らく貴女方と同行した旧日本軍将校は、桑田防衛大臣の祖父と思われます。何らかの事情により、魂=美衣子さん曰く生体電気思念体が仮想空間内に出現したのでしょう」

岩崎が説明する。


 説明を受けた華子と優美子は、もどかしいような、後味が悪いような微妙な気持ちになっていた。


「仮想空間の中とは言え、いきなりの戦争体験で、まだ心が落ち着かないでしょう」

岩崎が華子達に語り続ける。


「担当のお医者さんに聞いたところでは、君達は急性ストレス障害に罹っている様です。この症状が続くようならば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悪化する可能性が有ります。暫くは、日常を離れて静かな環境で過ごすのが一番良いでしょう」

岩崎官房長官が桑田防衛大臣の方を向いて頷く。


「JAXAから報告が上がっているのですが、昨年1月の大月家結婚式で華子君がビンゴを引き当てた、マルス・アカデミー・大型母艦の試験航海準備が出来た。

 近日中に木星まで行く予定で、期間は3か月から半年になるだろう。我々も体験した事の無い、長期宇宙航海と本格的な木星探査を行う予定だ。

 君達さえ良かったら、療養がてら、マルスの船に乗ってみないか?」

桑田が華子と優美子に提案した。


「……素敵なお話に思うのですが、その航海や木星探査中に戦闘は有りませんよね?」

念のために確認する華子。


「現時点で木星宙域は、地球発の戦火に無関係だ。保障は出来かねるが、火星に留まるよりは安全だと思う。

 木星には、マルス・アカデミー本拠地であるプレアデス星団から飛来した超大型母艦からなる先遣隊も到着しているから、技術面でのトラブルは皆無に等しいだろう。彼らにも君たちの事を伝えておこう」

桑田が答える。


「桑田君。ちょっとお待ちなさい!」


 車椅子で華子達の病室を訪ねていた真知子先生は静かに話を聴いていたが、声を上げる。


 桑田大臣と岩崎官房長官を見ながら真知子が尋ねた。


「療養目的の長期宇宙旅行は結構ですが、付き添いは必要でしょう?半年も学校を休むのですから、授業から遅れてしまうのが気懸りです。ですから私も同行します。よろしいですね?」


 真知子の有無を言わせぬ迫力に、頭の上がらない二人と華子達は頷くしかなかった。


 続いて真知子は気になっていた事を尋ねる事にした。


「岩崎君。うちの学院に転入した黄星姉妹の件ですが……」

「何か?」


「彼女達も入院しているのですか?」

「いいえ。二人は健康に支障が無かったので、今は普通に学院へ通っています。

 ――――――それと、二人の世話は美衣子さんからの強い申し出によって、当面大月家で引き受ける事になりました」

岩崎が答えた。


「そうですか……彼女らによろしくお伝えください」

真知子は岩崎に伝言を託すと、車椅子を動かして自分の病室へ戻っていった。



――――――同じ頃、隣の病室では


 窓際のベットで静かに午後の爽やかな風を満喫していた琴乃羽が、神妙な顔つきを装って、診察で訪れていた岬に話しかける。


「渚紗さん。私思うんですけど、木星の神秘的な姿をこの目で見れば、溶けやすい体質が改善される様な気がするんです」

どこで聞きつけたのか、さりげなく木星試験航海への参加を希望する琴乃羽。


「—――—――青い鳥症候群と言ってですね"私にはもっと相応しい場所がある"と言う人ほど、何処へ行っても結局何も変わらない事が殆どなんですよ?」

半目になった岬が子供をあやす様に琴乃羽を諭す。


「ちぇ~」

目論見が看破され口を尖らせる琴乃羽。


「仮に木星へ行ったとしてですよ?木星では民間ネットサービスが未整備ですから、最新BLの更新を閲覧出来ないですよ?」

岬が別の切り口で説得を行う。


「月に一度のコウノトリ定期補給便で最新刊を購入出来ませんかね?」

しぶとく食い下がる琴乃羽。


「検閲が入りますよ?」


「……今の話は無しで」


 あっさり木星療養を諦める琴乃羽だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測人工天体『ルンナ』研究室管理プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

イラストは里音様です。


・岬 渚紗=ミツル商事海洋養殖部門、医療開発部門担当。海洋生物学博士。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・琴乃羽 美鶴 =ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。夫は澁澤太郎内閣総理大臣。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・岩崎=日本国内閣官房長官。

・桑田=日本国防衛大臣。

・ジャンヌ・シモン=ユーロピア共和国首相。戦闘機を操る。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、イラストレーター七七七様です。


・イワフネ=マルス人。地球人類のサラリーマンを学ぶため、ミツル商事に留学中。元マルス・アカデミー地球探索隊長。


・黄星 舞=神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の姉的ポジション。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・黄星 守美=神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・黄星 輝美=神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。

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