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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
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我々の帝国

2026年(令和8年)6月7日午前8時30分【東京都千代田区永田町 首相官邸 地下危機管理センター会議室】


 会議室中央に備え付けられたホログラフィックモニター(ミツル商事試作品)では、英国連邦極東軍グリナート大佐による人類反攻作戦の概要説明が行われていた。


「総理。何故我が国は、地球奪還作戦の主導権を彼らに譲ったのですか?」


 作戦内容の説明が続く中、シール型ワイヤレスマイクをOFFにした、黒木厚生労働大臣が澁澤に尋ねる。


「確かに、現存する人類勢力の中では、我が国が最大勢力であることに違いないだろう」

目を瞑りながら答える澁澤。


「だが、今回の作戦には我が国以外の多様な国々が参加する。その国々の協力無しには、地球奪還は成し遂げられないのだ。

 そして、我が国は地球規模での軍事作戦において、各国を率いるだけの軍事的リーダーシップを備えているとは言い難い」

澁澤が言い切った。


「……確かに。軍事分野での多国間協力においては、未だ経験値を積み上げている段階ですな。その点では、NATO(北大西洋条約機構)に長年加盟して米国と共にリーダーシップを発揮してきた”外交の達人”である英国連邦極東の方が”格上”なのですよ」

澁澤の言葉を引き取った岩崎官房長官が説明する。


「防衛省としても、官房長官のおっしゃる通りだと認識しています」

岩崎の説明に頷く桑田防衛大臣。


『それに、今現在も我が国で勃発した”仮想世界大戦”収拾の目途がついておりません。この点で、我が国が主導権を握る事を脅威と捉える国が在るかもしれません』


 月面からホログラフィックモニターで参加している地球方面特使の東山龍太郎が、マイクをOFFにすると、喉に手を当てて発言した。


「仮想空間における攻勢はいずれどこかの国がやならければならない事だったのですよ!わが国で勃発したからこそ、他国は知らん顔でこの会議に集中できるのです!」

甘木経産大臣が反論する。


「それは結果論に過ぎませんよ甘木大臣。各国に事前通知もなく”開戦”してしまった事は事実です。我が国が予告なく戦争を起こす危険な国と認識され、新たな真珠湾パールハーバーを起こす野望と能力が有ると余計な警戒をされてしまうのです」

後白河外務大臣が指摘する。


「ここまでだ諸君。この期に及んで、主導権争いや責任のなすりつけ合いは無意味だ」

澁澤が短く告げてこの議論の終了を宣言する。


「本作戦に於いて、我が国とマルス・アカデミーの支援が無ければ、地球はいよいよシャドウ・マルス支配下に置かれて実験動物とされてしまう未来が確定だ。

 主導権は取れないが、我が国は”2番目”に甘んじてでも未来に備えねばならん。地球人類の生存を1番目の目標として優先する為には、我が国だけが得をする様な考えではいかんのだ」

澁澤の発言に会議の参加者全員が頷いた。


「勿論であります。我々は今回の作戦で多くの事を吸収し、”次の”地球規模軍事作戦では主導権を握れるようにする所存であります!」

統合幕僚監部の一員である鷹匠少将が澁澤に応える。


「そうそう”次”が有っては困るのだがな……」

苦笑しながら呟くと英国連邦極東軍の説明に集中する澁澤。


 グリナート大佐の説明は、人類反攻作戦序盤における衛星軌道上制宙権確保とそれに続く北米大陸降下について、ユニオンシティ防衛軍の参加とマルス・アカデミー・月面研究室から結が操作するニュートリノ・ビーム攻撃の手順確認へと移っていった。


『ニュートリノ・ビームは、エネルギー充填120%以上じゃないとダメ。反論は認めないわ』

「……むう」


 頑な結に言葉が詰まるグリナート大佐。


「……こういう頑なさは脅威にはなるのだろうか」


 ホログラム映像越しに睨み合う結とグリナート大佐を眺めて溜め息をつく岩崎官房長官だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻【(仮想空間内)米軍横田基地司令部】


 黄星舞は、妹達が繰り広げた大破壊の数々を、モニター越しに眺めて頭を抱えていた。

 横田基地の格納庫や滑走路、対空ミサイル施設、ゲートやフェンスが至る所で粉砕され、破断している。


「……ううぅ。何であそこまでやっちゃうのかな~だぞっ!と。

 やっぱり我が妹はガサツ……。此処はホウライが誇る私みたいな優雅さが足りないんだぞっ!と」


 司令席から立ちあがった舞はくるりとその場で半回転すると、仮想空間内司令室のエリア51DNAコンピュータ配下である兵士達に背を向けた。黄星舞の電磁干渉能力によって司令室の動きがフリーズ=コマンドの一時停止されている状態の為、兵士達は微動だにしていない。


「私があのバカ妹達に対抗する事は簡単だけど、それだと”また”こちらの宇宙世界をBANしちゃうからねぇ。戦略的撤退?みたいなやつ、しちゃうのだぞ!っと。付き合ってくれてありがとうなんだぞっ!と」


 背中を向けたまま、司令部の兵士達に宣言すると、床を軽く蹴って虚空へ消えて行く黄星舞。

 舞が消えると同時に仮想空間司令部の兵士達は、最初から何も存在しなかったかのように動き出すと侵入者対抗プラグラムを再開させた。


 しかし時既に遅く、基地機能の4割以上が侵入者側に掌握された状況下で、失陥は時間の問題だった。


 黄星 舞が仮想空間横田基地から姿を消して間もなく、横田基地の攻防戦は急速に対応能力を失っていく守備隊に対し、能力を自重せず解放して蹂躙した黄星姉妹と真知子先生の活躍?も有り、呆気なく攻め寄せた人類側AIが横田基地の機能を全て掌握して終結した。


          ♰          ♰          ♰


【ユニオンシティ・ネリス州(旧アメリカ合衆国ネバダ州) グルームレイク 戦略秘密基地"エリア51 "】


 地下司令部のメインモニターに表示された火星日本列島在日ユニオンシティ各基地の状態を示すモニターが次々とブラックアウトしていく状況を見たシャドウ・マルス=ダグリウスは速やかに決断する。


「……潮時だ。火星の征服は後回しだ。地球エリアの掌握地域拡大を優先する。火星方面の回線は全て切断だ」

ダグリウスが部下の爬虫類人類オペレーターに指示する。


「火星に振り分けていた電脳戦闘部隊を地球ユーラシア大陸に投入する。ユニオンシティ行政府のサーバーから旧ソヴィエト・ロシア軍事回線へ侵入しろ。奴らの秘密軍事都市を全て掌握するぞ」


「それと"例の"計画を始動させる。都市の準備状況は?」

「ご指示の通りに。当基地を含めた12箇所で初期人員の育成が最終段階です」

ダグリウスの問いに答える爬虫類人類兵士。


「……うむ。では、予定通り"我々の帝国"を興そうではないか」

サングラス奥の縦長の瞳を細めてニヤリと嗤うダグリウス。


 新たな戦略目標を定め、地球征服に乗り出したダグリウスだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 結=マルス・アカデミー・尖山基地管理人工知能だったがバージョンアップされた。

・澁澤 太郎=日本国内閣総理大臣。

・岩崎=日本国内閣官房長官。

・桑田=日本国防衛大臣。

・甘木=日本国経済産業大臣。

・黒木=日本国厚生労働大臣。

・後白河=日本国外務大臣。

・鷹匠=日本国自衛隊 統合幕僚監部付き少将。

・グリナート=英国連邦極東軍作戦参謀。大佐。


・黄星 舞=真世界大戦直後、火星に突如出現した訪問者。神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の姉的ポジション。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・ダグリウス=マルス人。マルス・アカデミー異端派集団”シャドウ・マルス”中心人物。マッドサイエンティスト。

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