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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
137/462

仮想と現実【後編】

――――――【仮想空間内 旧米軍横田基地】


 JR 八高線から横田基地内への引き込み路線に進入した列車は、基地内の線路止めをオーバーランして格納庫に激突して横倒しになっていたが、駆け付ける者も無く、付近は不気味なくらいの静寂に包まれていた。


「……うーん」


 真知子が横倒しになった車両の座席で目を覚ますと、制服姿の黄星輝美とリクルートスーツ姿の黄星守美が自分の顔を面白そうにのぞき込んでいた。


「お目覚めだなっ!」「先生~。いつまでも寝ていないで、私達も参戦するですよ~」


 黄星姉妹が、服装に似合わない短機関銃と弓矢を携えながら真知子を引き起こすと、割れた車窓から車両の外へ出る。


 周辺は列車の激突で格納庫の壁が大破しているものの、駆け付ける者は相変わらず居なかった。

 遠く離れた滑走路の端やその反対側から、銃声や爆発音が途切れることなく聞こえてきた。

 上空からは接近する飛行機の爆音が響いている。


「……これは一体」

真知子が状況を掴めずに呆然としていると、


「人類側が”エイリアンコンピュータ”に支配された横田基地を取り戻そうと、戦っているんでだぞっ!」

真知子に説明する輝美。


「ですから、私達も急いで加勢しないとですよ~」


 守美が不意に上空へ向けて弓矢を放つと、ドスンと破れたパラシュートを付けた1体のターミネイター兵が地上に落下して砕けた。


「守姉!空から敵の増援だよっ!」


 輝美が上空から落下傘を吐き出し続ける輸送機に短機関銃を浴びせると、胴体から火炎を噴きだした輸送機が錐揉み状態となって基地内へ墜落して爆発炎上した。


「貴女達、何ということを!?」

我に返った真知子が二人を叱りつけるが、


「何言ってるんだ先生。殺らないと殺やられるんだぞっ!」

輝美が逆に真知子を窘めた。


「だって、私は……戦争に参加するのはこれが初めてなのよ!?」

狼狽する真知子に白けた眼差しの黄星姉妹。


「だから?相手が手加減すると思うのかだぞっ!」「先生のお気持ちはわからなくもないですが~、現実をみましょうよ~」


呆れたような笑みを浮かべる輝美と守美。


「これはどう見ても現実じゃないでしょう!」

思わず声を荒げる真知子。


「「んんん?戦争って、こんなもんでしょ?」」

首を傾げる黄星姉妹。


「先生は戦争を端から否定されていますが、実際に自分が関わっても同じ事が言えるのでしょうか?」

「戦争の本質は、言うならば生物同士の生存競争だぞっ!

 生存競争を否定するという事は、人類は競争に不戦敗すると言う事だぞっ!?」

冷めた口調の黄星姉妹が真知子へ問いかける。


「そんな事を言っているのではありません!」

 否定する真知子。


「では、話し合いで生存競争が解決するのですか?」

守美が問い詰める。


「いいえ、別の方法を常に模索し続ける事が大事です」

毅然と答える真知子。


「今は?」

「……」


 真知子は反発したかったが言葉が出てこなかった。

 基地内での戦闘は激しさを増していった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻【仮想空間内 米軍横田基地 第5ゲート近くの格納庫】


 丸太の突撃で何とか基地内に侵入できた華子と優美子だったが、突入時の戦闘を思いだして恐慌に陥っていた。


「装甲車をドカンと撃ち抜いてぶっ飛ばしたけど、あの中に居た外人さんは確実に死んでいるっしょ!」

「私のバルカンで、何人かは確実に弾が当たって亡くなっているはず……」


「……貴様ら。今さら派手に武器を使っておきながら血を見たぐらいで動揺するとは、なっとらんな」

 軍曹が手拭いで血糊を拭いながら二人に呆れていた。


「だって、私たち、人殺しやったっしょ!?」

優美子が反駁する。


「だから何だ?これは戦争なんだ!貴様らは、あのゲート正面で話し合いをするつもりだったのか!?」

軍曹が正論を吐く。


「ですが……」

食い下がる華子。


「この世界が現実か否か等はどうでもいいことだ!今は現実を受け入れろっ!此処に俺達が居る事が全てだと思え!」

二人の思いを断ち切るように軍曹が力を込めて話していた。

 

「好むと好まざるとにかかわらず、あの場所に居た時点で貴様らは戦争に参加するしかなかったんだ!理屈で説明できるもんじゃないっ!

 戦争自体、お互いの理屈が破たんしたからこそ起きるのだ!起きた以上、貴様らの心の中にある綺麗な理屈は通用せん!」

二人に諭すように話す軍曹。


 華子と優美子の戦争は始まったばかりだった。


          ♰          ♰          ♰


2026年(令和8年)6月6日午前0時【地球 中東 カッパドキア地方 イスラエル連邦首都 新テルアビブ 日本国大使館】


「東山さん。ユニオンシティの件ですが、ミツル商事でお引き受けさせてもらえませんか?」

東山の個人携帯にプライベート星間通信でとある申し出をするべく連絡した満。


「はぁ。一民間企業がそんな事出来る訳ないですよ……」

うんざりした声で答える東山。


「違うんだ、東山さん。

 一時的にせよ”日本国政府”が単独で強大だったユニオンシティの諸々を引き受ける事に、イスラエル政府は本能的に脅威だと認識してしまうんだ。

 だから、ミツル商事が一旦引き受けて生存者には給料という名目で生活を保障して雇用を確保、軍事装備品はミツル商事が預かってマルス・アカデミー・シャトルで月面都市かカッパドキアに輸送して保管する。

 リース料を地球連合防衛軍に支払えば、取りあえずは収まるのではないですか?」


「……それは、ミツル商事に利益の有る事だと思えませんが、いいのですか?」


 利益を出す事が企業活動の根幹だとしている東山は満の姿勢に疑問を感じて問いかける。


「今は、イスラエル連邦に日本国への不要な疑念を持たれない事が大事です。

 地球と火星の両方でビジネスを展開しようとする我が社としては、両国正常化が業務安定の要となるのです」

広範な視点での利益を説明する満。


「……なるほど。大月さん、だんだんひかりさんに似てきていますよ?」

「褒め言葉と受け取っておきますよ」


 大月との会話後に東山はニタニエフ首相に再会談を申し入れ、ミツル商事の提案を申し入れた。


 案の定、ニタニエフ首相は破顔して東山の提案を受け入れるのだった。


 交渉事が円満に終わったので、東山はニタニエフに誘われるまま、お茶を楽しんでいた。


「ところでミスター・ヒガシヤマ。貴国で現在起きている”電子的トラブル”はどうなっているのです?」

探るように聞いかけるニタニエフ首相。


「マルス・アカデミーの方々の協力を得ながら迅速に対応しています。今の所負けてはいません」

「……そうですか。勝ててはいないのですね?」


「相手は我々地球人類の技術力を凌駕しているエイリアンコンピュータです。

 一時的な苦戦はするでしょうが、マルス・アカデミーの敵ではないでしょう」


「……君の発言がブラフで無い事を祈るよ」


 それだけ言うとニタニエフは何事もなかったように、お茶とお菓子をしばし東山と堪能するのだった。


 新テルアビブ日本大使館に戻った東山はストレスで痛む胃を手で抑えながら、夜空に浮かぶ赤い星を眺めて呟くのだった。 


「マジで大月家の皆さん頼んますよ……」

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・東山 龍太郎=内閣官房首相補佐官。政府特使としてイスラエル連邦に派遣された。

・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空・宇宙自衛隊強襲揚陸艦『ホワイトピース』艦長の名取大佐。

・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。

・黄星 守美=突如火星日本列島に出現した”介入者”。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

・黄星 輝美=突如火星日本列島に出現した”介入者”。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。

・澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。夫は澁澤太郎総理大臣。

・ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦首相。

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