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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
134/462

仮想空間の動乱【後編】

2026年(令和8年)6月5日午前7時【NEWイワフネハウス ダイニングルーム】


 地球欧州戦線でレジスタンス活動に従事している瑠奈とワイズマン中佐、月面 マルス・アカデミー・研究室に滞在している結、東山を除くメンバーが集合すると、少しだけ静かな朝食に舌鼓を打っていた。


「久しぶりの我が家の食堂は、なかなか美味なのです!」


 昨晩遅くにアルテミュア大陸西海岸の養殖施設から戻った岬が、塩鮭のホクホクした切り身を頬張りながら納豆をこねくり回す。


「アルテミュア大陸西海岸の、シャケとタラの養殖は順調なようですねぇ」

ひかりも塩鮭を一口 堪能してから、岬と一緒に出張していた春日に訊く。


「極めて順調ですよ。やっぱ北の海ならではの魚はイギリス漁師が一番の担い手でしたね」

しみじみと言う春日。


 隣の席ではイワフネが相槌を打ちながらシャケの小骨と格闘していた。


 どんな魚でも丸ごと頭からがぶりと飲み込む美衣子や結と違って、イワフネは好物の魚に対しても繊細のようだ。


「ケビン首相も順調な漁業産業発展に機嫌が良いみたいだよ。昨日のお茶会で、火星産フィッシュ&チップスを振る舞われた」

満が春日に応える。


「……それで?琴乃羽はなんでそんなに眠そうなのかしら?」


 美衣子が知ってか知らずか、隣で半熟目玉焼きと格闘している琴乃羽に突っ込みを入れる。


「美衣子ちゃん!昨日は私、寿命が縮んだのですからねえ……」


 勢いよく反応したせいで、目玉焼きの半熟卵が破れて隣の塩じゃけにドロリと垂れてしまい、恨みがましく美衣子を見る琴乃羽。


「……そうね。岩崎から犯人扱いされて、ゲームどころではなくなったわね」

遠い目をする美衣子。


 昨晩は、岩崎にブラックアウトの報告を入れた直後に市ヶ谷から駆け付けた特殊部隊に訓練施設が封鎖され、明け方まで美衣子と琴乃羽は軟禁状態で事情聴取と事態の収拾にあたっていたのである。


 ブラックアウトと仮想通貨消失犯の疑いが晴れて解放されたのは2時間前の事だった。


「あの事件は”美衣子ちゃんと愉快な仲間たち”の仕業じゃなかったの?」

岬がナチュラルに美衣子と琴乃羽を犯人認定していた。


「違いますっ!むしろ消えた電子マネーの捜査に協力していた側ですからっ!」


 ぷんぷんと憤る琴乃羽が目玉焼きにとんかつソースをかけて頬張った。


「それはそうと、琴乃羽。貴女のその蕩ける体質は訓練しない事にはまた気を緩めた瞬間に蕩けてしまうわ」

岬に犯人扱いされても動じない美衣子が琴乃羽へ注意を促す。


「そういうことで琴乃羽。貴女はもう一度自衛隊中央病院へ戻りなさい。華子と優美子の勧誘は私がやるわ」


「えっ!?大丈夫なんですか?」

一瞬、華子と優美子の将来を思って気の毒そうな表情を浮かべる琴乃羽。


「任せなさい。小学生の一人や二人、私の全知全能を前にしたらチョチョイのチョイよ」

美衣子が小躍りしながらフンスと胸を張る。


「……うーん」

怪しい舞を披露する美衣子を見ながら、根拠無き自信に疑問を抱く満。


「美衣子さん。ここは真知子先生に相談してみては?」

ひかりが極めて常識的な提案をする。


「……そうね。二人の父親が火星に居ない今は、真知子の意見を聞いてみるのも一つの手ね」

美衣子が頷いた。


「うん、美衣子。真知子先生に話しに行くなら瑠奈の事もあるから、ぼ くとひかりも一緒に行くよ」

味噌汁をずずっと啜ると、美衣子に申し出る満。


「久しぶりの親子三人ね?」


 嬉しそうに笑うひかりだった。


          ♰          ♰          ♰


【東京都港区白金 神聖女子学院】


 朝食後に瑠奈の通う小学校へ赴いた三人だったが、担任の澁澤真知子に名取優美子と天草華子を自衛隊特殊電子戦闘団にスカウトする事と”仮想空間での実戦”に参加させたい旨を相談したところ、真知子は、


「私は教え子を、まだ小学6年生の無垢な彼女達を戦場へ送り出すために教師をやっているのではありません!」

激怒して反対する澁澤真知子先生。


 それでも収まらない真知子は、とうとう夫の澁澤太郎総理大臣までをも首相官邸から呼びつけて真偽の程を確認する状況に発展した。


 列島諸国との人類反攻作戦打ち合わせで消耗していた澁澤は、妻の気迫に根負けして大月夫妻と美衣子に、現役小学生の実戦投入は仮想空間内のみだとしても、教育的、人道的にも問題があり過ぎるとしてダメ出しするのだった。


 その日の夕方、いつものように訓練施設へ顔を出した華子と優美子は、しょんぼりした様子の美衣子から、システム障害で大半のゲーム機が故障しており、実験稼働しているフルダイブ型体感シミュレーターしかないと告げられたが、実験機に興味を持った二人は当然のことながらプレイを申し出た。


 最新バージョンのシミュレーターソフトはミツル商事ゲーム部門肝いりの力作らしく、無駄に凝ったオープニングと共に『グダディウス』と何故かプリンやツルハシが登場するゲームタイトルが頭上に現れた。


 オープニングナレーションは訓練施設支配人 美衣子の声で、このゲームは宇宙人に占領された地球を奪還する物語ストーリーで日本からスタートするとの説明がされた。


 二人の武装はいつもの如くバルカン砲とプラズマバズーカだったが、他に希望する装備を一つ追加できるとのアナウンスがあり、二人はそれぞれダメもとでビームサーベルを装備した21型自衛隊パワードスーツ(PS)を希望すると意外なことに装備として追加されたのだった。


 ずんぐりむっくりしたマンスフィールド級空中戦艦に乗り込んで到着した最初のステージは、宇宙人に支配された東京郊外にある旧米軍横田基地だった。


 地球では既に実戦配備されているという噂のマンスフィールド級空中戦艦、限りなく宇宙に近い空を飛ぶX34型軍用シャトルのリアリティ溢れる光景に二人が驚いていると、オンラインゲームらしく他の仮装プレイヤーが次々と空中戦艦の中から現れて戸惑いながらもそれぞれの武器を担いで真っ直ぐ基地の正面ゲートへ突入して守備隊と交戦を開始した。


 呆気にとられる二人に背後から、


「馬鹿野郎!貴様ら、突撃もせんとそこで何を突っ立っておるのだ!それでも帝国軍人かっ!」


 突然罵声が浴びせられたのでびっくりして振り向くと、旧日本軍の軍装で日本刀をぶら下げた下士官が怒りで顔を真っ赤にして立っていた。


「ヒヨッコども!鬼畜の陣地を背後から奇襲するから付いて来い!」


軍曹は二人を引き連れ、激しい戦闘が行われている正面ゲートを避け、フェンス沿いに屈みながら小走りで基地裏手へ向かった。


 施設のサーバールームで出逢いコミニュティに参加していたAI達と共に、華子&優美子のゲーム模擬戦をぼんやりと眺めていた美衣子だったが、妙に壮大でリアルすぎる戦闘光景に疑問を持ちふと通信状態を確認すると、誰が操作したのか”日本列島外”と回線が繋がっており、”シャドウ・マルス”支配下のDNAコンピューターが潜む在日ユニオンシティ軍基地のサーバーへ人類側が攻勢を仕掛ける形になっていた。

 

「何でっ!?どうしてこうなった!?あわわわ……」


 勝手に人類反撃の火ぶたを切った事の重大性に気づき、鱗に覆われた額を汗で滲ませた美衣子は、ワタワタしながらプログラム停止を試みたがシステム内の戦闘はエスカレートする一方だった。


 そんな美衣子の目には、華子と優美子を引き連れる旧日本軍将校らしきAIや、招かれざる降臨者達が仮想空間に潜んでいる事など気にも留めていなかった。


          ♰          ♰          ♰


――――――その頃地球欧州戦線


瑠奈「はっ!そう言えばバックドア・フェイント・スターティング機能付けたままだった……やっべぇ……」


ワイズマン「お嬢!そろそろジャンケンに参加しないと、また女王陛下ご一行にプリンが奪われますぜ!」


瑠奈「はっ!そっちが大事!!」

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 満=ミツル商事社長。元総合商社角紅社員。

・大月 ひかり=満の妻。ミツル商事監査役。

挿絵(By みてみん)

*イラストは七七七様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生態環境保護育成システム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体『ルンナ』人工知能。結の妹分。神聖女子学院小等部6年生。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、里音様です。


・岬 渚紗=ミツル商事所属研究員。医療・海洋生物学博士。

挿絵(By みてみん)


・琴乃羽 美鶴=ミツル商事所属研究員。マルス・アカデミー応用科学・技術研究担当。

挿絵(By みてみん)


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空・宇宙自衛隊強襲揚陸艦『ホワイトピース』艦長の名取大佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。夫は澁澤太郎総理大臣。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・ペレス・ワイズマン=ミツル商事戦闘団軍事顧問。イスラエル連邦軍から出向中。中佐。

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