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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
132/462

転入者

――――――【火星日本列島 東京都港区 白銀 神聖女子学院小等部】


「それではホームルームを始めます」

澁澤真知子先生が日直の瑠奈に号令を促す。


『起立』

『礼』


『いただきます!』


「ちょっと!違いますよ!瑠奈さん」

流れるように間違えようとした瑠奈に真知子先生がストップという名の突っ込みを入れる。


「まだ4時間目ですよ!?」

地球英国こっちはもう日が暮れて夕食の時間帯っス!』

惑星間通信モニターの向こう側に居る瑠奈が、真知子先生の突っ込みに応える。


 地球欧州に居る瑠奈は、惑星間通信で真知子先生が教えるクラスのホームルームに参加していた。

 姉の結が整備した新しい惑星間通信網のおかげで、欠席続きで単位の取得が危ぶまれた瑠奈は久しぶりに”通学”していた。


「レジスタンスの置かれた厳しい状況も理解出来ますが、惑星間通信授業で朝から居眠りしていたのではないですか?」

真知子先生の追及は厳しかった。


『……さーせん』

うなだれる瑠奈。


「……まったく、もう。さて、今日は皆さんに”新しいお友達と先生”をご紹介します。二人とも、お入りになって」


 真知子先生がドアの向こう側へ声を掛けると、金髪碧眼の実習生と転入生が教室に入ってくる。

 明るいブロンドの髪と白い肌、整った顔立ちにクラスの皆からほぅ、とため息が漏れる。


「自己紹介をどうぞ」

真知子先生が教壇の脇へ移動する。


「ごきげんよう」「おいっス!」

二人が同時に話そうとする。


「ごほんっ!えっと……お姉さんからどうぞ」

真知子先生が教育実習生を指名する。


「ごきげんよう淑女の皆様~。私は黄星きほし 守美もりみと申します~。

 短い間になりますが、みなさんに宇宙の秩序を調教テイムできれば幸いです~」

間延びした挨拶の守美。


「「……(ええ~。また変なのが来た)」」


 真知子先生を始めとしたクラス全員が沈黙する。


「……コホン。では、貴女の番ですよ」

気を取り直した真知子先生が、場の空気を切り換えようと、二人目の転入者に挨拶を促す。


「おいっス――――――!黄星きほし 輝美てるみだぞっ!得意分野は封印術式の研究だぞっ!」


「「……(マジか~。姉妹そろってアレかよ)」」


 またしても真知子先生を始めとしたクラス全員が沈黙した。

 全員の心の中で『姉妹そろって電波かよ――――――っ!』と、激しい突っ込みを入れながら。


 地球欧州ブリテン島から惑星間通信でHRホームルームに出席していた瑠奈は、モニター向こう側で理想的(瑠奈の個人的感想)なデビューを果たした転入者姉妹を”自分のアイデンティティを脅かすヤバい奴”認定して敵視するのだった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻【火星 シレーヌス海マリネリス海溝】


 誕生して4年余りとなる火星海底に到達した気紛れな存在は、衛星軌道上で見つけたアレと対面していた。


「ふむふむ……。なかなかに良い面構えだぞっ!と」


 太陽の光が届かない深海底にもかかわらず、その存在は眩しそうに”それ”を見上げる。

 深海底で蠢く8匹の火星由来生物である巨大ワームは、ほのかに暖かい体温を感知すると自らの体内に吸引すべく一斉に襲い掛かる。


「活きの良さも極上だぞっ!と」


 巨大な水圧がかかる深海底において、あり得ない身軽さで巨大ワームの攻撃を躱したその存在は、両手を広げると眩いばかりの巨大な白光の渦を巨大ワームの群れへ放つ。


 マリネリス海溝の一角が、激しいスパークに包まれた。


 スパークが収まった深海底にその存在は既に無く、ただ、”8つの首を持つ”巨大なワームが蠢いているだけだった。


          ♰          ♰          ♰


【東京都千代田区 秋葉原 自衛隊特殊電子戦闘団 偽装訓練施設】


「このワーム強くて先に進めないですわ」


 天草あまくさ華子はなこが、ガトリングガンを両手で重そうに持ち上げて乱射しながら岩陰に走り込むと、無線で背後の崖に潜む名取なとり優美子へ援護を求める。


『普通のワームじゃないっしょ』


 優美子が崖の上からワームを見下ろすと、右肩に掛けたプラズマバズーカの照準を茶色いワームに合わせる。


「これが地球で猛威を奮っているサイボーグ・ワーム……」

優美子は独り言を呟きながら、慎重に急所を狙う。


「ターゲットロックオン!シュート!」


 優美子が引き金を引くと、プラズマバズーカから青白いプラズマ弾がブーンとわずかな唸りを上げて真っ直ぐにサイボーグ・ワームの先端に突き刺さる。

 サイボーグ・ワームに突き刺さったプラズマ弾は、固い殻をこじ開けるようにめり込むと激しいスパークが体内に走り、口から煙を噴き上げると地面に轟音を立てて斃れた。


「ふう。一発KOとはすごい威力っしょ」

額に浮かぶ汗を拭うと華子に呼びかける。


「華子、倒したっしょ?生きてる?」


「……生きていますわ。それにしても、相変わらず優美子さんはお強いですわね」


 砂埃に塗れた姿で岩陰から姿を現した天草華子が、崖の上に居る名取優美子ヘ呆れた様に言う。


「いやいや、単なるゲーム世界の中だけの話っしょ」

バズーカを肩に背負い、右手をひらひらさせながら優美子が謙遜する。


 二人がヘッドセットに「ステージ・ログアウト」と呟くと、荒野だった風景が掻き消えて、薄暗い室内ホールに変わった。

 手に持っていたガトリングガンやプラズマバズーカも掻き消える。


「華子!今日もハイスコアっしょ!」

優美子が華子とハイタッチを交わし、ぺたんと床に座り込んだ。


「朝からずっと戦い続けたからお腹が減ったっしょ。イワシパイバーガー食べに行かない?」


「素敵な提案ですわ。私も乾パンには飽きていたところですし」


 訓練施設ゲーセンを出た二人は、向かいに在る大手ハンバーガーチェーン店へ向かうのだった。


「あの二人のゲームプレイは異常ね」


 施設最上階にある委員長室から、ブラインドを僅かに下げて二人を眺めた美衣子が呟く。


「……そうですね。戦果スコアだけで言うならば、あの二人は習志野の陸自特殊作戦群よりも上です」

戦闘用迷彩服に着替えていた琴乃羽が、タブレットに示されたプレイ結果を参照しながら答えた。


「そろそろ実戦経験が必要かしら……」

美衣子が顎に手をやりながら呟く。


「彼女達を、地球の戦場へ送り込むのですか!?」

琴乃羽が驚いて聞き返す。


「まさか。現実世界での彼女達の力は貧弱過ぎるわ。彼女達の反射能力は電子の世界だからこそ、真価を発揮するのよ」


「うーむ。そうだとしても、サポート役が要りませんかね?」

「ならば任せた琴乃羽」


「うええっ!?」


 琴乃羽を見上げ、ワザと勇ましく軍人らしい敬礼をする美衣子が指令ミッションを下す。


「琴乃羽美鶴少尉!天草華子一等兵と三浦由美子臨時一等兵の実戦指導を任せる!」


「ほえぇーーっ!」

琴乃羽が抗議の声を上げる。


 琴乃羽の抗議を受けた美衣子が、ふと独り言を漏らす。


「そう言えば、最近文科省が総務省と連携して、BL専門サイトの摘発と閉鎖を検討していると聞いたのだけど……」


「ええっ!?マジですかっ!」

血相を変えて詰め寄る琴乃羽。


「大マジよ。ただ、溶解人類の治療法として閉鎖に反対する勢力が居るようだけど……」

「当たり前ですっ!あれは……あれは”人類の宝”なんですから!」


「だったらその治療法で溶液から帰還した貴女が、自らの実績で認めさせることね」

「分かりました!今の私なら何でも出来る気がします。天草さんと名取さんの事、お任せください!私が一人前のプロゲーマーに鍛え上げますっ!」


  唾を飛ばす勢いで美衣子に詰め寄って申し出る琴乃羽。


「……そう。期待しているわ。岩崎には、私から文科省と総務省の件はストップするよう話しておくわ」

引き気味の美衣子がコクコクと頷く。


「ありがとうございます。それではこれから二人を鍛えて参りますっ!」

「構わないけど……まず、小学6年生の彼女達を、自衛隊に入隊させないと駄目よ?」


「そこからっ!?」


 早速躓く琴乃羽だった。


 結局、その日は小学6年生を如何に自衛隊に勧誘するかという無理難題、むしろ無茶というべき蛮行を無難なものに変えるべく腐りきった頭をフル回転させる琴乃羽だったが、妙案は出ず、憔悴しきってタクシーを捕まえると、NEWイワフネハウスへの帰路についた。


 車中でも琴乃羽は、電子回路の中での電脳世界戦争に小学生を誘う方策に思いを巡らせていたが、連日連夜の作業で疲労困憊した琴乃羽は、睡魔に襲われて抵抗する事無く、夢の世界へと旅立っていった。



――――――同日夜11時45分【神奈川県横浜市神奈川区 神大寺バス停前】


「お客さん、着きましたよ?」


 個人タクシー歴40年のベテラン運転手が、後部座席に声を掛けたが返事が返って来ない為、振り向いて後部座席に視線を向けると、そこには秋葉原から乗車してきた20代女性の姿は無く、ただ後部座席シートが一面薄く黄色がかった液体でびっしょりと濡れているだけだった。


「うひゃっ!?」


 ドライバー歴40年のベテラン運転手は、モンスター乗客のあしらいには慣れていたが、超常現象の免疫は無かった。


 思わぬ事態に腰を抜かした運転手は、助けを呼ぶべく運転席から車外へ転がり落ちるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体『ルンナ』人工知能。結の妹分。神聖女子学院小等部6年生。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、里音様です。


・琴乃羽 美鶴=ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、更江様です。


・名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、らてぃ様です。


・黄星 守美=突如火星日本列島に出現した”介入者”。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。


・黄星 輝美=突如火星日本列島に出現した”介入者”。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。

挿絵(By みてみん)

*イラストは、しっぽ様です。

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