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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
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招かれざる降臨

挿絵(By みてみん)

2026年(令和8年)6月1日【太陽系第5惑星『木星』 地表から283,000Kmの最深部】


 太陽系最大規模の惑星で一番重力が集中する最深部は人類が計測不能な程の超重力が働いており、空間に蓄積した超重力は空間に窪みを生じさせ、ある種の”特異点”を発生させていた。


 その特異点から1,000年ぶりに”こちら側の宇宙”を訪れた気紛れな存在は、隣の第4惑星の異変に気が付いた。

 

 1,000年前は砂漠と荒野が果てしなく続いていた第4惑星が豊かな大気と水に覆われた姿に変貌しているのを”視た”存在は、第5惑星最深部の空間を軽く蹴るとその姿を掻き消した。


 気紛れな存在が姿を掻き消した直後、特異点から新たに2つの存在が”こちら側の宇宙”へ飛び込んで来た。


「守姉!舞姉は、あっちにいった!」

元気で良く響く幼い声が姉の注意を引く。


「あれれっ!?どこですかぁ~?」

おっとりした存在は、過酷な超重力環境をものともせずのほほんと妹に尋ねる。


「守姉ちゃん、こっち!行くよ!」

「ライちん!待って!」


 姉妹たる存在は慌ただしく重力の底を蹴ると、特異点から姿を掻き消すのだった。


          ♰          ♰          ♰


2026年(令和8年)6月1日午前7時【火星と木星の中間地点 小惑星帯アステロイドベルト 人工日本列島建設現場 航空・宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』ブリッジ】


「木星警戒衛星が、第5惑星地表最深部付近で磁場の乱れを観測」

「スライム、これは?」

名取が艦長席のコンソールで伸びていたミニスライムに語りかけた。


『お客さんが来て、去った……』

スライムの念動力通信がスピーカーに接続されてブリッジに声となって響く。


「お客さん?」

名取が首を傾げた。


「もう少し詳しく教えてもらえないか?」

『母なる星の奥深くにはこの世ならざる扉がある。たまにそこから来訪者が出てくる……そして去っていく。それだけ』

名取の問いにプルプルと体を震わせて答えるスライム。


「異常事態ではないと言う事でしょうか?」

『来訪者が観測される事自体極めてまれ……』


「チムニーの長と話せませんか?」

『長は……から揚げを満喫したので昼寝中……』


 マルス・アカデミー三姉妹の美衣子が、先日チムニーの長たる巨大チューブワームにから揚げの作り方を伝授したところ、早速試してみたらしい。

 以来、から揚げにはまったチューブワームの長は”野生”の水素カニに嵌っているらしい。


「……そうですか」


 ため息をついた名取は実害が出ていない事を確認すると、この現象については火星日本国への定時報告に載せる事にした。


『人工四国、地殻接合面完成。これより淡路島連絡部分を経て、本州部分との接合作業に入ります』

建設プラント船団から報告が入る。


「了解した。こちら建設船団旗艦『ホワイトピース』名取です。

 これより人工四国の本州接合作業に入ります。人工九州、同本州作業エリアの船舶と作業員は衝撃に注意!」


 木星最深部の出来事を一時的に頭の片隅に追いやり、人工日本列島建設の陣頭指揮に思考を切り替える名取。


『ミツル商事人工列島移送タグボートが人工四国外縁部に接触』

「人口本州に接合!」


 無数のツルハシ型マルス・アンドロイドが操縦するタグボート群が、人工四国高知側に取り付くとパルスエンジンを噴射させる。

 まるで蟻塚にたかる蟻の群れのように、タグボートが人工四国の地殻基盤部から表層部に至るまで群がって人工本州へ向けてエンジンを噴射する。


「人工四国移動開始しました。これよりイスラエル連邦軍管制に引き継ぎます」

『こちらイスラエル連邦軍人工四国司令室。移動計測値は順調。エリア・ホンシュウに接合するルートにオンした』


 人工日本列島を統括運用するイスラエル連邦国防軍オペレーターから報告が入る。


「こちら『ホワイトピース』。以後の接合作業監督は貴国にお任せします」

『人工四国司令室。貴国のすべての作業員に感謝と敬意を』


 漆黒の闇の中で巨大な岩塊が、ゆっくりとさらに巨大な岩塊へ向かって移動する。


 もし太陽に明るく照らされた側に居る者が見たならば、さぞや圧巻な光景に違いないと思う名取。


 巨大な岩塊を見上げながら思索に耽る名取に通信オペレーターが報告する。


「大佐、哨戒中のユニオンシティ防衛軍宇宙空母『サラトガ』から追加報告!土星方面から大質量物体が接近中!」


 オペレーターから報告があった後、過ぎにマルス・アカデミー・作業支援船団のリア隊長から連絡が入る。


『マルス・アカデミー・建設支援船団リアです。プレアデス・コロニーからの先遣隊が天王星付近のワームホールから通常空間に到着いたしました』


「土星方面から接近する複数の大質量物体を補足!各物体の直径20Km!?」

思わず素っ頓狂な声を挙げてしまうレーダー管制官。


「落ち着け。今の人工日本列島作業船団母艦でも2Kmはあるのだ。上には上が居て当然ではないか」

動揺するブリッジ要員を静かに宥める名取。


「先遣隊が来たか……ということは-—――—――」

『ええ。私たちも作業を急がなければなりません』

名取の呟きにリアが応える。


 人工日本列島建設船団外縁部に位置していた『ホワイトピース』を覆い隠すかのように、巨大なマルス・アカデミー・基幹母艦群が速度を落としてゆっくり接近していた。


「人類反攻作戦の下準備が出来た、ということか……」


 巨大な艦影群にざわめくブリッジで名取は、一大反攻作戦の始まりを予感していた。


          ♰          ♰          ♰


――――――同時刻【火星衛星軌道上】


「……みーつっけた!」


 第5惑星特異点から瞬きする程の時間で移動したその存在は、暫く地上をつぶさに観測していたが、とある生物を見つけると口許を嬉々と歪め悠々と降臨していった。


「くっ!また取り逃したのだぞっ!」「あれ?あれれれ~っ!」


 間を置かずして同じ場所に現れた二つの存在は追いかけようと地上を俯瞰したが、久しぶりの重力に姉が引っ張られてしまい、姉妹共々バランスを失って真っ逆さまに地上へ落下していった。


 衛星軌道上の宇宙基地『フォボス』『ダイモス』の警戒システムは、それぞれ僅かな質量の空間転移を観測したが、直ぐに質量物体が火星大気圏へと突入した為に、日常的に飛来する小惑星と結論付けて特に注意を払わなかった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・名取=航空・宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦「ホワイトピース」艦長。大佐。

・リア=マルス・アカデミー・プレアデスコロニー地球支援船団隊長。

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