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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
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七色の光

2026年(令和8年)1月23日午後11時29分【オーストラリア 地球連合防衛軍ノーザン・テリトリー基地】


 瑠奈の居なくなった司令室はこんなにも静寂に包まれて寂しいものだったのか、とジョーンズ中将はモニターに映し出されたブリテン島からの撤退船団がアデレード海軍基地へ入港するのを見守りながら実感していた。


「これで地上の人類拠点は此処とアイルランド島、アルプス、カッパドキアのみか……」


かつて75億の人類が居住していた地上は荒れ果て、シャドウ・マルスが造り出したサイボーグ・ワームや火星由来生物が蔓延る死の大地となってしまった。

 地球連合防衛軍が守っている生存圏人口は、おそらく5000万人程度だろう。

 人類に成り代わって地上の支配者となったサイボーグ・ワーム群と、AIチップに操られた爬虫類人類クローンを従える”シャドウマルス”。


 地球人類は滅亡の一歩手前ではないか?

 そう思ったジョーンズは寒気を覚えるのだった。


 思索に沈むジョーンズを叩き起こすかのように、司令部の早期警戒システムが作動してサイレンが基地全域に鳴り響く。


「KH=キーホール早期警戒衛星からです!北米大陸及びユーラシア大陸東部シベリア地方から、熱源反応多数!ICBM(大陸間弾道弾)が発射されました!」

真っ青な顔でオペレーターが報告する。


「馬鹿な!?マッカーサー三世は何を考えておるのだ!着弾地点の計算は?」

「全弾、オーストラリア大陸全域に着弾と計算結果が出ました。確認された弾頭は1200基!」


「奴ら、我々を本気で抹殺したがっているな。オセアニア生存圏全域に核攻撃避難緊急警報を発令!ミサイル防御システム作動!」


「イージス艦、SM3迎撃ミサイル発射態勢急げ!」


 シャドウマルスの目的は、地球生物全てを自らの研究に隷従させる事の筈だが、核を使うとは。

 地球生物の抹殺に他ならない核の大量使用を目の当たりにして、ジョーンズは激怒した。


「クソッ!我々は、用済みの種族と言う訳か……クレイジーな!」


「英国原子力潜水艦『アガメムノン』から入電!”報復攻撃の指示されたし”との事!」

「馬鹿者!こんな状況で核の応酬など無意味だ!」


「しかし、このままトカゲ野郎に焼き殺されたままで良いのですか!?」

司令部付きの将校が、死なば諸共とばかりに報復核攻撃を進言する。


 ジョーンズは地球の自滅行為に他ならないと認識していたのだが、報復核攻撃でシャドウマルスを巻き添えにするのも何か意味が有るかもしれないと思い始めていた。


「致し方ない……。アガメムノンに発射シークエンス開始を指示!太平洋で待機中の戦略原子力潜水艦『ケンタッキー』にも同様の指令を出せ!」


「アガメムノン、ケンタッキーがSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)発射シークエンスに入ります!」


「終わったな……」


 呆然とした表情を浮かべたジョーンズは、世界が崩壊する音を耳にしたような感覚に陥るのだった。


「火星へ最後の通信を送れ。"本日2330時、シャドウが全面核攻撃を開始」

「……」


 絶句したオペレーターが、火星への惑星間通信を始めたその時、通信スピーカーから幼い女性の声が聴こえてきた。


「此方、日本国航空・宇宙自衛隊地球派遣部隊『そうりゅう』 結よ。

 今から衛星軌道と太平洋にニュートリノ・ビームを撃ちかますから、貴方達の報復ミサイルは不要よ。潜水艦は急いで潜航なさい。搭載している核弾頭が不完全臨界で爆発するわ」


 瑠奈の宣言に合わせ、月面都市から1Km程離れたクレーター内部から鈍色をした巨大ライフルの砲身が次々と現れて太平洋上の地球衛星軌道へ照準を合わせていく。


「迎撃中止!『ケンタッキー』は急速潜航して退避!」

作戦参謀が展開中の原子力潜水艦に海底への退避を指示していく。


月面都市(ユニオンシティ)から攻撃データー受信!ニュートリノ・ビーム発射態勢です!エネルギー充填120%を超えました!」

通信オペレーターがジョーンズに報告する。


「あれか。シベリアのイゴールに使ったやつか……」


 ジョーンズは納得すると月面都市の結に呼びかける。


「地球連合防衛軍オーストラリア生存圏司令のジョーンズだ。ミス・ムスビの英断に感謝する」

『どういたしまして。後で瑠奈の行方を教えて頂戴』


「ICBM群が衛星軌道に到達!」


「……エネルギー充填150%。ニュートリノ・ビーム発射!」

閃光は生じないのだが、気分でゴーグルを付けた結が気分で自作したトリガーを引く。


 クレーター内部にズラリと並んだ鈍色の砲列から七色の光が一斉に発射されると、迸る虹色の光線が拡がって地球を覆っていく。


「夢でも見ているようだ……」「……」


 ユニオンシティ宇宙ターミナルから七色の光線を眺める東山が呟く。隣にいる高瀬中佐はあんぐりと口を開けたまま固まっていた。


 シベリアとヨーロッパ・ロシア北極圏に点在する秘密軍事都市と、北米大陸各地のミサイル基地から打ち上げられた1200基のSS18とミニットマンミサイルは、太平洋上空の衛星軌道に到達するなり月面研究室ラボに設置された巨大ライフルが発射したニュートリノ・ビームを浴びると、弾頭の起爆用火薬が誤作動してウランが不完全爆発を起こし制御不能となった。


 ICBM発射10分後には、月面からの度重なるニュートリノ・ビーム攻撃で飛翔中のミサイルは全て無効化され、弾頭内の通常火薬のみが爆発するか、安全装置が作動して無害な落下物となって太平洋の深海へ沈んでいった。


「シベリアと北米からのミサイル攻撃は失敗に終わりました!」


 ノーザンテリトリー司令部にホッとした空気が流れる。


『こちら結よ。火星からの伝言を送信するわ』

火星日本列島にある防衛省総合司令センターからのメッセージがジョーンズ中将宛に届く。


『我々ハ一大反攻作戦ヲ準備中。ソレマデ壮健ナレ』


 メッセージに目を通したジョーンズは不敵な笑みを浮かべて呟いた。


「漸くこちらのターンか……」


 オーストラリア大陸に対して仕掛けられた全面核攻撃は失敗に終わり、地上での戦いは膠着状態に陥った。


 そして火星では人類反攻の準備が着々と進んでいた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 結=マルス・アカデミー・ 尖山基地管理人工知能。美衣子の妹分。

挿絵(By みてみん)

*イラストは里音様です。


・ジョーンズ=地球連合防衛軍オセアニア地区司令官。中将。ユニオンシティ防衛軍司令。

・東山 龍太郎=日本国内閣官房首相補佐官。

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