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転移列島  作者: NAO
混沌編 真世界大戦
124/462

バトル・オブ・ブリテンⅡ

――――――真世界大戦開戦から2週間後。


2026年(令和8年)1月21日午後3時【欧州 イングランド島ニューグラスゴー地球連合防衛軍(UNEDF)司令部】


 薄暗い司令部内に設置された赤いランプがチカチカと明滅すると、サイレンが鳴り響いて警戒システムが作動した事を知らせる。


「ランズ・エンド岬レーダー基地より、敵探知!フランス・ダンケルク海岸からサイボーグ・ワームおよそ2万がドーバー海峡横断中。真っすぐ我が国沿岸へ向かっています!」

リンクされたレーダー画面を視る情報参謀が報告する。


「守りはどうなっている?」

ニューグラスゴー司令部でイングランド島駐留部隊の指揮を執っていたロイドが訊く。


 ロイドは女王陛下護衛の為、志願して火星から『どこへもドア』で訪れたまま、シャドウ・マルスのサイバー攻撃で火星との連絡が途絶した為、『どこへもドア』を使って帰還出来なくなっていた。

 シャドウ・マルスはマルス・アカデミーと同等の技術を持っているため、Pエネルギーを利用した物はハッキングの対象となりうる可能性が高かった。


「ロンドン南西60Km、オールダーショット郊外に国防義勇軍(日本で言うところの予備自衛官)歩兵4個大隊、ポーランド東部から撤退してきたNATO機械化歩兵2個大隊が展開中」

作戦参謀が答える。


「避難民の状況は?」

「沿岸部の生存者は、既にロンドン市内に疎開させています。

 オールダーショットには2000名の生存者が居ましたが、輸送部隊と共にロンドン北部まで退避させています」


「不幸中の幸いか……」

「ですが、ロンドンにはまだ5万人を超える人々が居ります」


「海路は、虫共の侵攻と鉢合わせするから無理だな。この火山灰では飛行機やヘリも使えん。徒歩か、或いは自動車か」

思案するロイド提督。


「其方は最大限の車両を徴発し、ロンドンへ向かわせています。

 鉄道は大変動から火山灰で送電設備が故障していましたが、ミツル商事運輸部門と避難民からボランティア技術者が協力、一時的に復旧しました。

 ロンドン市内キングス・クロス駅、パディントン駅から中部リバプール郊外までピストン輸送中ですが、あと2時間はかかります」

タブレット端末を見ながら答える作戦参謀。


「上出来だ!防衛部隊は避難民脱出まで、あらゆる手段を使って火星原住生物バグズ共をロンドンに入れるな!」

司令部の皆に指示するロイド提督。


「提督。北海に展開中の戦略原子力潜水艦『アガメムノン』から入電!弾道ミサイル全弾ドーバー海域に照準完了!」

「発射!!」


 旧フランス・ダンケルク海岸から火山灰で海水が灰色に変色したドーバー海峡へ飛び込んでテムズ川河口を目指していたサイボーグ・ワーム群に、遥か上空から光り輝く流星が矢のように降り注ぎ、サイボーグ・ワームの破片を含む巨大な水柱が幾つも立ち昇った。


「弾道ミサイル全弾目標に着弾!」

「敵影なお5000!侵攻速度変わらず、依然テムズ川を指向中!」


「あれを使うか……」

ロイドが呟く。


「カーディフ空軍基地からWBワーム・バスター中隊を出撃させろ!組み立てが完了したものから順次、ロンドン防衛部隊を空中から援護!短時間でも構わん!急げ!」


 『WB=ワームバスター』は、オーストラリア中央部で孤立している瑠奈が”暇つぶしに”分解した垂直離着陸(VSTOL)型ハリアー戦闘機と、AH-64アパッチ対戦車攻撃ヘリコプターのパーツを組み合わせて作り上げた”空中戦闘砲台”である。


「カーディフ空軍基地からワームバスター6機が出撃!20分後にロンドン上空に到着予定!」

「何としても、奴らの上陸を許してはならん!」


 真世界大戦勃発時の悲惨な戦況を思い出しながら命令するロイド提督。


「……ところで、奴らは何をしているのだ!」

前線部隊を映すスクリーン片隅に、テレビカメラを抱えた一団を見つけたロイド提督がオペレーターに訊く。


「彼らはBBC=英国放送協会の生き残りです。国防に励む我々を、世界中に知らしめようと善意で同行取材しているのです」

無邪気な笑顔でオペレーターが答えた。


 メイン・スクリーン脇の小型テレビには、テレビクルーが映るBBCワールドニュースが生中継されていた。


『嘗てアインシュタイン博士は、第四次世界大戦で人類が使う武器は、こん棒と石だと予言していました。

 此方の前線では弾薬が不足しつつあり、迫りくるバグズに対しセラミック製建材で出来たこん棒と瓦礫、石で対抗しようとしています……』


 毛皮のコートとバンプスを履いたリポーターは、虫に恐怖しているのか、生中継に恐怖しているのか、慣れない様子でレポートを続けていた。


「……奴らは、火星生物の恐ろしさを知らんのか!?まだ、ナガサキ極東BBCの方がましに思えるな」

リポーターの服装を見て無謀さに呆れるロイド提督。


 突然レポーターの絶叫が聞こえ、テレビ画面が暗転する。


「国防義勇軍前線が、地下からサイボーグ・ワームの奇襲を受けています!」

作戦参謀が報告する。


 憂鬱なため息をつくとテレビ画面を視る事無く、前線部隊の指揮に没頭するロイド提督だった。


「提督!国防義勇軍(日本における自衛隊予備役に相当)大隊防衛線が、地下から現れたサイボーグ・ワームの奇襲により崩壊、突破されました!」

「火力の不足を、人力で補う方策が裏目に出たか……」


『提督!防衛線の見直しを提案します』

最前線で踏み止まるNATO機械化歩兵大隊のドイツ軍指揮官が、地中回線を使ってロイドに提督に意見具申する。


「ご教授願いたい」

ロイドが通信モニターの向こうに居るドイツ人大佐に頭を下げた。


 ドイツ軍大佐は、常々プライドが高いと言われていたイギリス軍将校が頭を下げるという行為に驚いたが、直ぐに気を取り直し新しい防衛線の説明を始めた。


『シャドウ・マルスのやり方はロシア熊より単純です。単に物量と力で相手を押し流すだけと思われます。

 サイボーグ・ワーム知能が乏しいならば、防衛線を此方がより打撃を与えやすい地形へ誘導すれば良いと本職は判断します」


「……うむ」

ロイドが腕を組んで黙考する。


「サイボーグ・ワームの親玉であるシャドウ・マルスは人類よりも優秀な人工知能を有している。彼らの力押しはより広い戦域で見た場合、戦術の一つではないのか?……奴らの狙いは何だ……」

思考しながら呟くロイド。


『ロンドンの占領でしょうな。人類にとって歴史的価値を持つ都市を陥落せしめることで、生き残った人類にショックを与えるのでは?』

ドイツ軍大佐が応える。


「ポーランド首都ワルシャワを躊躇いもなく殲滅した『シャドウ・マルス』は"政治的に敏感な"生き物ではない。人類の殲滅が目的だ。

 だとすれば、此方の抵抗力を削ぐ為のダメージを与えるはずだ。……つまり、司令部の急襲か……」

ロイドの思考が想定外の悪夢を導き出す。


「敵は並外れたテクノロジーで、此方を遥かに凌ぐ手札がある……」


 ロイドが戦略的思考をさらに深めようとした時、不意に司令部のサイレンが鳴り響く。


「キネアーズ岬警戒レーダーが、バルト海から超高速で飛来する物体を探知。

 マッハ5、数50!識別は……古い識別コードですがユニオンシティ戦略空軍B2ステルス爆撃機です。友軍でしょうか?」

報告途中で首を傾げる情報将校。


「しっかりしろ!IFF(敵味方識別コード)は常時自動変更されているのだ。敵襲!ミサイル警報発令!国際宇宙港閉鎖、民間人はシェルターへ避難!エディンバラ対空陣地にミサイル警報!奴ら、司令部ここを直接叩く気だ!」


「やむを得ん。ロンドン防衛部隊は市街地まで撤退!市内中心部の鉄道駅を守れ!」

「提督。避難民完全退避まで、あと1時間です!」


 やはり本土防衛のノウハウが足りないと痛感するロイド提督。


 ロイドは、密かな危機感を抱いていた。

 イギリス本土はローマ時代を除き、外敵に侵略された事が無い。


 あのWWⅡ(第二次世界大戦)時も、強大なドイツ第三帝国軍の猛攻に「バトル・オブ・ブリテン」と後世で呼ばれる熾烈な航空撃滅戦を展開して制空権を守り切り、ドイツ軍の上陸を許さなかった。


 故に、イギリス本土には"本格的な”陸戦機甲師団が存在しない。


 天変地異から生き残った僅かな国民は、火山灰に塗れて疲れ切っており、士気が低い。

 加えて、過去の侵略者と違い、今回の侵略者は英国が得意とする”外交交渉”が通じず人類を”食糧”としか見ていない。


「慈悲も無く巨大ワームに溶かされて喰われる未来を、どれだけの国民が想像出来るのだろうか?」


 思わず呟いてしまうロイド提督だった。


          ♰          ♰          ♰


――――――同日午後6時【地球英国 スコットランド ニューグラスゴー(旧英国海軍基地)UNEDF(地球連合防衛軍)司令部】


 水没した旧グラスゴー海軍基地の隣に新設されたばかりのニューグラスゴー基地も、施設の所々が破損し、炎上していた。

 少し離れた旧海軍基地ドックでは、港湾施設の燃料タンクが激しく炎上していた。


 港湾施設に係留されていた強襲揚陸艦は、激しく炎上する燃料タンクに隣接していたが、消火に駆け付ける筈の消火隊員は一向に姿を現さず、不気味に静まり返っていた。

 やがて、巨大なファイアーストームが強襲揚陸艦を包み込むと、揚陸艦の弾薬庫が過熱され激しく爆発した。


 外部の様子を映すモニターで、火炎を噴き上げて轟沈する強襲揚陸艦を視ながら、ロイド提督が被害状況を把握しようとしていた。


「結局、何処に落ちたのかね?」

「飛来した超音速巡航ミサイルは120基。うち、カーディフ、エディンバラの防空システムが70基を撃墜。撃ち漏らした50基が司令部基地とロンドン、中部リバプールに着弾。

 ミサイルの弾頭は高密度核爆弾、つまり中性子爆弾でした」


 被害状況にショックを受けて顔面蒼白の若いオペレーターが、観測機器を操作しながらロイド提督に報告を続ける。

 ロンドン市から避難民が次々と臨時鉄道で脱出してリバプールへ向かっている最中、バルト海方面から飛来した多くの巡航ミサイルがイングランド各地に着弾して甚大な被害をもたらしていた。


「ロンドン市南部とオールダーショット防衛線上空では、20基の中性子爆弾が爆発。展開していたNATO機械化歩兵と国防義勇軍部隊は全滅。ロンドン市南部シェルターの大半と連絡が取れません」

防衛線立て直しを進言したドイツ軍大佐を思い出し、ロイドが顔を顰める。


「リバプールは?」

「其方にも郊外の避難民キャンプへ少なくとも10基が着弾。連絡が途絶えております」


「此処の被害は?」

「国際宇宙空港は被害を免れましたが、郊外の海軍施設と隣接する避難民キャンプに20基が直撃。全滅した模様です」


「放射能汚染レベルは?」

「中性子爆弾1基あたりの被ばく範囲は約2キロです。

 ロンドン南部から、オールダーショット郊外まで40kmに亘り放射能汚染を観測。半減期は暫定数値で30年」


「チェルノブイリが三か所出来たようなものだな」


「サイボーグ・ワームの攻勢は?」

「不幸中の幸いと言いますか……中性子爆弾の影響で、ロンドンのバグズは全滅しています。スカゲラク海峡から飛来した爆撃機は、バルト海の東側へ飛び去りました。

 此方の迎撃ミサイルは、振り切られて命中しませんでした」


「完敗だな。陸上戦力の大半を失って、組み立てたばかりのWBを失った今、次にサイボーグ・ワームが来たらイングランドは蹂躙されてしまうだろう……」

絶望した表情でインスタント紅茶を一口飲むロイド提督。


「これ以上、祖国の汚染と人員の損害は容認出来ん。

 国際宇宙空港から可能な限りのシャトルを動員して、人員と物資をオセアニア生存圏のノーザン・テリトリー基地へ移動させる。ケンジントン・キャンプの王室にその旨を伝え、移動への協力を要請してくれ」


「私は殿軍となって此処に留まる。ノーザン・テリトリー基地に着いたら、直ぐに火星本国とミツル商事に緊急連絡で支援を要請するんだ」


 ロイド提督は、ブリテン島からの全軍撤退を決断した。


 バトル・オブ・ブリテンⅡは、人類の敗北となった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・ロイド=英国連邦極東軍 イングランド防衛軍臨時司令官。中将。

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